保科さん略歴
・滋賀出身
・大学院時代に文化人類学のフィールドワークで高取に来るようになる
・大学院卒業後、奈良市のベンチャー企業に就職
・2013年から有限会社ポニーの里ファームの統括マネージャーとして勤務
ー本日はよろしくお願いします。早速ですが、ポニーの里ファームではどのような作物を育てているのか教えてください。
一番力を入れているのは、大和当帰という薬草です。奈良を発祥とする薬草で、婦人科の漢方として有名です。栽培するだけでなく、加工・販売も自分たちで行います。
ポニーの里ファームは、元々は障がいを持った方の就労支援を目的として作られました。最近の言い方なら、農福連携です。法人として直接雇用する方と、福祉施設から就労訓練として来る方たちが農作物を育てています。ただ、就労支援をするだけではなく、農業としてもしっかり成り立たせたいと考え、農業生産法人として独立しました。
設立当初は、障がいを持った方でも容易に作業できるものとして、管理や出荷時の選別がしやすい米や青ネギを中心に栽培していましたが、2011年から大和当帰に力を入れ始めました。きっかけは県庁の方から苗をもらったことです。試しに作ってみたところ色・形も立派なものが収穫できたので、生薬問屋に出荷するようになりました。
高取町は元々製薬事業が盛んだった土地柄もあって、今では20名近くの農家が大和当帰の栽培をしています。当帰は全国で作られていますが、地域ごとに種類は異なり、中でも一番高級なのが大和当帰と言われています。
以前は漢方用に根だけを利用していましたが、現在は食用に葉も利用しています。ハーブソルトやドレッシング、お茶などに加工して販売しています。地元の製薬会社から「奈良土産としての商品を作ってほしい」と依頼されるほど注目されています。
ー薬草としてだけでなく、食用としても使われているのですね。様々な場所で当帰が作られているかと思いますが、ポニーの里ファームならではの特徴はどんなところですか。
人の手を介した丁寧なものづくりに自信があります。働いているみなさんの一つ一つの手作業は本当に丁寧です。乾燥させた当帰の葉の色が綺麗なのも、選別をとても細かくしているのが、ポイントです。
また、働いている人みんなが誇りを持ち、自分ごととして取り組んでいます。商品が新聞に取り上げられたり、新しい場所で販売され始めたりした時、真っ先に教えてくれるのは働いている障がい者の方々です。商品開発にも積極的で、「ふりかけを作らへんの?」とか「パンにできないかな?」と、様々なアイデアを出してくれます。自分たちが関わった商品に対して強い想いを持っていることが分かります。
そういう姿を見てると、私も営業の励みになります。商品を置く場所を増やした分だけお客さんに知ってもらう機会が増えますし、彼らの仕事を増やすこともできます。また、規模を拡大するために、生産以外も行っています。他の農家から買い取った規格外の野菜を加工品にしたり、最近では捨てられている木材を活用した取り組みも始めました。ドレッシングを作ったり、伐採した木から利用できる部分を削り取ったりしています。たとえ僅かな利益でも、ゼロがプラスになれば農家の方には喜ばしいことですし、一石二鳥です。
ー加工場があることを強みにして、様々な事業展開が考えられそうですね。この事業を通して、保科さんご自身が実現したいことを教えてください。
根底にあるのは、高取町での雇用を増やしたいという思いです。障がい者も、健常者も、高齢者も、関係ありません。農福連携や大和当帰の6次産業化を、雇用を増やして町を盛り上げる手段として捉えています。
私は高取町出身ではありません。学生時代にフィールドワークで高取町に訪れたことで接点を持ち始め、大学を卒業してからお世話になったこの町で何かをやりたいと思っていた時に、ポニーの里ファームの代表に声をかけてもらい、一緒に働くことになりました。高取町に来てまだ4年。奈良県出身でもないので、言ってしまえばよそ者です。
でも、中とか外とか関係なく、地域おこしは気がついた人間がやらなければならないことだと考えています。高取町も他の地域と同じように人口減少が進んでいます。今は60代70代の方が元気で頑張ってくれていますが、10年後も同じような状況ではないと思います。だから、若い世代に高取町をもっと好きになってもらって、一緒に町を守っていけるようにしたいと考えています。
ーお世話になった高取に恩返しがしたいということですね。地域を盛り上げていくために、どのようなことが必要だと思いますか。
大事なのは「気づき」だと思います。大和当帰が漢方だけでなく食品や化粧品としても利用できるように、高取にも地元の人が気づいていない魅力がたくさんあります。色々な取り組みを通じて、町が持つ魅力に気づいてもらえたら嬉しいです。
その流れで、子ども向けの教育事業にも挑戦したいと考えています。きっかけは二つあります。一つ目は、子ども会で薬草のワークショップをしたことです。不思議なことですが、大人が食べると苦く感じる薬草を、子どもたちは甘いと言います。逆に、「なんで甘いのに薬にすると苦くなるの?」と言う疑問が出るほどです。そのように、ちょっとしたことをきっかけに当帰に興味を持ってもらうことが、子どもの高取への愛着につながると考えています。
二つ目は、小学生の子どもが外国人観光客を見て「高取にも外国人が来るんや。友達に自慢しよう」と話している姿を見たことです。子どもにとっては、そういった些細なことでも嬉しいのだと気づきました。自分の町を自慢できるのは、ポニーの里ファームのスタッフが誇りを持って仕事をしているのと同じです。だから、子どもたちが、高取を外に自慢できるような環境を作りたいと考えています。子どもたちが「高取の薬草はすごく有名で、全国で売られてるんだよ」と自慢できるようになるために、事業を展開できればと考えています。