食育イベントや多品目生産によるリスク分散。東京の農家ならではの工夫とは? – マイナビ農業

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東京の農家ならではの工夫とは?

生産者の試み

食育イベントや多品目生産によるリスク分散。
東京の農家ならではの工夫とは?

食育イベントや多品目生産によるリスク分散。<br/>東京の農家ならではの工夫とは?

2017年08月01日

三姉妹の長女として産まれた山内さんが農園を継いだのは5年前のこと。大阪でデザイナーとして働いていましたが、実父が亡くなったことがきっかけで東京へ戻りました。現在は援農ボランティアを受け入れながら、ぶどう以外にも多くの野菜や果物を育てる多品目少量農家を経営しています。

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デザイナーとして第一線で活躍してから、農業の世界へ飛び込んだ女性がいます。農家に生まれたと言えども、長年続いてきた家業を継ぐことは勇気の要ること。実際に話を聞くと、これまでの経験を生かしながら、新しい農家のあり方を模索するたくましい農業女子でした。

東京では数少なくなった農園を営む「山内ぶどう園」

東京都調布市。新宿から電車で約15分の場所に、400年以上の歴史を持つ「山内ぶどう園」があります。駅から農園までの道には、若者に人気のコーヒーショップやインテリアのお店が並び、「本当にこんな街中に農園があるの?」と疑ってしまうほどのにぎやかさ。京王線・仙川駅から10分ほど歩くと、広々とした農園が現れました。「初めて来る人はたいてい驚きますね」と話してくれたのは、この農園の20代目・山内美香(やまうちみか)さんです。

三姉妹の長女として産まれた山内さんが農園を継いだのは5年前のこと。大阪でデザイナーとして働いていましたが、実父が亡くなったことがきっかけで東京へ戻りました。現在は援農ボランティアを受け入れながら、ぶどう以外にも多くの野菜や果物を育てる多品目少量農家を経営しています。

都市農家としての役割

栽培しているのはぶどうの他に、柿、イチジク、季節の野菜、しいたけなど。春にはタケノコが自生する竹林もあります。取材に訪れた7月初頭には、トマトやきゅうり、なす、ズッキーニといった夏野菜がたわわに実っていました。

「野菜は地産地消を基本として、無人販売所を設置したり、レストランに卸しています。それ以外に力を入れているのが、もぎとりのイベントです。畑から直接野菜を収穫してもらい、みんなで調理するところまでやります。色々な野菜を知ってほしいのと同時に、満足してもらえるよう野菜を常時5種類以上は採れるよう心がけています」。

イベントには「食育」を学ぶために親子で参加する家族も多い。子どもだけではなく、親もスーパーで並んでいる野菜しか見たことがないという家庭があるのも都会ならではです。きゅうりの葉っぱを触ると痛く、実の表面にはとげがあること、ナスの花の色や、ズッキーニの実のつき方など、野菜について知る機会が得られる貴重な機会になっています。

「お客さんとの距離が近いので、喜んでくれる様子を直に見ることができます。減農薬だから直接もぎとって口に入れることもできます。子どもが野菜にそのままかじりついて“おいしい”と言ってくれるのが何よりうれしいです。やはりとれたてはみずみずしさが全然違います。こうやって生の声を聞けるのは、会社員時代にはなかったことで、やりがいを感じる瞬間でもあります」。

「畑を直接見てもらうことで、減農薬だと虫がいること、多少見た目が悪くても新鮮であることを分かってくださいます。もぎとりは説明しながらとってもらうので、納得して買っていただけますね。試食販売みたいなものです。逆に無人販売は顔が見えないのでクレームが来ることもあります。やはり顔が見えるということはお客様との信頼が生まれるポイントだと感じます」。

野菜に付加価値をつける

野菜を売るだけでは、収益が期待するほど得られないのが多品目少量の悩みどころ。山内農園は「もぎとりイベント」を開催することで、収益を下支えしています。「野菜に付加価値を加えることを考えました」。イベントをレジャーとして楽しんでもらいたいという思いから、夏場はプールやかき氷も提供しています。

「農業というよりもサービス業に近いかもしれません。都会では農地が減っているので、年々価値が高まっているのを感じています。アクセスのしやすさを利用して、イベントを始めてから1年が過ぎ、リピーターも増えてきたところです」。

年間を通して採れるフルーツを利用した、フルーツピザを作るイベントは大好評でした。石窯で焼いたピザは絶品。写真はぶどうといちじくを使ったピザです。

栽培する野菜にも工夫を凝らします。彩りがきれいなスイスチャード(フダンソウ)などを取り入れて、SNS(ソーシャル・ネット・ワーキングサービス)映えしそうな野菜にもチャレンジしています。今度は、近隣にある音大の学生に生演奏をしてもらいながら、採れたての根菜でチーズフォンデュを食べる大人向けのナイトイベントも企画中です。「やれることはまだまだある」と農業プラスアルファを探求する姿に力強さを感じます。

農家にとっての脅威は自然

「農家をやっていて一番大変なのは、天候に大きく左右されることです。就農したばかりの頃は、夏の炎天下で無理をして熱中症で3日間寝込みました」。

それ以来、真夏は暑い時期の作業はなるべく行わないようにしているのだそう。

「ぶどうはタイミングが1日2日ずれてもダメな場合があります。予想しない雨が降ってきて、その時期に散布する予定だった農薬がかけられなくなったり、ジベレリン処理(種なし処理)しなければならないのにできなくて、種無しブドウにできなかったりということも事前とのかけひきの連続です。

台風の時は作業ができない、作物が倒される、病気が蔓延するといったリスクがあります。山内農園流の自然災害への乗り越え方は「リスク分散」。

「多品目少量だからできることです。例えば、キャベツが全部だめになっても、他にも出荷する野菜があるという安心感はあります。台風が来るからこういう病気が出るだろうと予想して、予防するのに薬をまくこともあります。予測できる天候変化には事前に対処し、予測不能な自然災害はある程度あきらめる心構えも必要かと思います」。

子育て中の働き方について

山内さんはお腹に第2子を宿しています。上の子は2歳。今は無理ができない中、どのように働くかを模索しているところです。

「2世帯住居に4世代で暮らしているので、家族のサポートがあるのは大きいです。特に88歳の祖母が元気なうちに産んでおきたいと思っていました」。

子育て中は、夜に子どもに起こされたり、妊娠中で眠りが浅かったりして、朝はなかなか起きられないのが現状。ここで現在の山内さんの1日のスケジュールを見てみましょう。

AM7:00 起床 長男&夫の支度・食事

AM 8:00 夫が長男を保育園へ送っていく、山内さん朝食

AM 8:30〜11:30 休みを入れながら農作業

※夏場の暑さがピークを迎えるこの時間は、午後は納品へ行ったり、書類を書いたり、SNS(ソーシャル・ネット・ワーキングサービス)へのアップをしたり事務作業が多い。

PM 3:00〜5:00休みを入れながら農作業

PM 5:00 長男の保育園へ迎えに行き、夕飯を食べさせる

PM 6:00〜7:00 農作業

PM 7:30 お風呂

PM 8:00 山内さん夕食

PM 8:30 長男の寝かしつけ

子どもが寝て、保育園の準備をした後にようやく、自分の時間になります。

「毎日慌ただしいですが、自分のペースで仕事を進められるので、会社員時代よりストレスを感じることはありません。職場と家が同じ敷地内にあるので、通勤時間もゼロ。その分、子どもを早く迎えに行くことができます。今は手がかかりますが、5歳ぐらいになると多少は戦力になってくれるんじゃないかと期待しています」

都市農家として生き残るには

田舎と大きく異なる点は、地価に経営が左右されやすいということ。山内農園でも2016年、相続税を支払うために農地を一部売却しています。かつては農園だった場所に、現在は建て売り住宅を建設中です。固定資産税を支払うために、農場の一部を大手コンビニチェーンに貸してオーナー業も始めました。

 

「周りの農地がどんどんなくなっていっているので、どうしても残したいという気持ちがあります。世代が変わるのをきっかけに全部売ってしまう方も多いです。だからこそ年々東京で農業をする価値は上がっているとも思っていて、それを証明するのもひとつの使命だと感じています。しばらくは子育てしながら可能性を探って行きたいと思っています。可能性を探るのが楽しみでもあります。」

 

最後に「私の命がある限りは農業を続けていきたい」と力強い言葉をくれた山内さん。山内ぶどう園の可能性へのチャレンジは、これからも目が離せません。

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