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山ぶどうワインで震災復興!岩手県・野田村「涼海の丘ワイナリー」の軌跡

山ぶどうワインで震災復興!岩手県・野田村「涼海の丘ワイナリー」の軌跡

東日本大震災復興の新たな取り組みとして岩手県野田村で始まったのが、ワイナリー事業です。2017年には約7,300本が完売見込みという「山葡萄ワイン」。クラウドファンディングでの資金集めや、ワイナリー事業を始めてからの野田村の変化について、詳しくお聞きしました。

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山ぶどうワインで震災復興!岩手県・野田村「涼海の丘ワイナリー」の軌跡

東日本大震災で最大約18メートルもの津波に襲われ、村の1/3の住戸が損壊するなど甚大な被害を受けた岩手県・野田村(※1)。2016年4月、野田村の第三セクター(地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業)である「株式会社のだむら」が、山ぶどうワインを醸造する「涼海(すずみ)の丘ワイナリー」をオープン。特産品である山ぶどうの付加価値を高め、事業展開しようという試みがスタートしました。

「涼海の丘ワイナリー」の所長兼醸造責任者の坂下誠(さかしたまこと)さんにお話をうかがいながら、ワイナリーが立ち上がるまでの軌跡をたどります。

東日本大震災の打撃

──東日本大震災前の野田村はどんなところだったのですか。
坂下さん
 野田村は山と海に囲まれた自然豊かな村です。震災前はホタテの養殖やワカメ漁などの漁業、椎茸や寒締めホウレンソウを栽培する農業、養豚や養鶏など畜産業が盛んでした。しかし、津波により大打撃を受けました。

東日本大震災の打撃

国産ワインコンクールで2年連続受賞“山葡萄ワイン”が復興の希望に

──そんな中、復興に向けた新たな試みとしてワイナリー事業を立ち上げられました。なぜ、ワイナリーだったのでしょう。
坂下さん
 野田村の特産品である山ぶどうを使って何かできないかという話から始まりました。以前もジュースやジャム、かりんとうなどを作っており、震災復興に取り組む中で、山ぶどうを使った新しい商品を生み出そうという動きが出てきたのです。当初は山ぶどうを使った化粧品や入浴剤の開発を考えていました。

そんな時、野田村産の山ぶどうを使い、近隣の葛巻町(くずまきまち)のワイナリーで委託醸造したワインが国産ワインコンクールで二年連続銅賞を受賞しました。野田村産の山ぶどうで、高品質のワインが作れることが証明されたのです。

国産ワインコンクールで2年連続受賞“山葡萄ワイン”が復興の希望に

これがきっかけとなり、野田村で生産から醸造、販売まで一貫してやってみようという機運が一気に高まりました。野田村に新たな産業を作りたいという村長の信念と、復興をサポートしてくれた横浜市のNPO団体の後押しもあり、ソムリエの資格を持っていた私が所長に就任することになりました。私自身も、ソムリエから醸造家への転身ということで、大変な決断になりました。

2015年の村議会でワイナリー設立が決定すると、まずは山梨県と長野県のワイナリーへ視察に行き、開業するために必要なノウハウを教わることから始めました。西日本で唯一、山ぶどうワインを醸造している岡山県の「ひるぜんワイン有限会社」へ、約4カ月の研修に行き、醸造の知識を深めました。

その後、野田村に戻って建物の改修やタンクなど醸造器具の購入、醸造免許の取得などの準備に取り組み、2016年10月にようやく本格的な醸造をスタートさせました。最初のワインが完成し、販売できるようになったのは翌年、2017年4月1日のことです。

独自のクラウドファンディングを立ち上げて開業・運営資金に

──資金はどのように調達されたのでしょうか。
坂下さん
 ワインの醸造には時間が必要ですから、最初の一年間は売上がありません。復興予算にも限りがあるので、復興のためとはいえ新規事業に回す予算は村にはありません。

どうしたものかと悩み、震災直後から野田村の復興支援に携わってくれていた横浜市のNPO団体に相談してみると、「サポート会員制度」という独自のクラウドファンディングを立ち上げてはどうかとアドバイスをいただきました。

独自のクラウドファンディングを立ち上げて開業・運営資金に

会員の皆さまから先に会費をいただいて運転資金にし、ワインができたらお届けするという仕組みです。「サポート会員」は一口2万円から入会でき、会員には年1回、山ぶどうワインが届きます。商品が届くのを心待ちにするのはもちろん、野田村のワイナリーの成長やワインの進化を見守るのもまた「サポート会員」の楽しみです。

さらに野田村の産業を知っていただくという意味も込め、山ぶどうワインと共に山ぶどう関連商品、薪窯直煮方式で作られたのだ塩、震災後にブランディングした荒海ホタテやワカメなどを詰め合わせてお届けしています。

商品をお届けすると、会員の方々から励ましの言葉や御礼の手紙をたくさんいただいて、「やって良かった」とスタッフ一同嬉しく思い、感謝の気持ちでいっぱいになりました。

おかげさまで、現在は約630人の方に入会していただいています。岩手県在住の方とNPO法人のある横浜の方が多いのですが、全国各地から多くの方が入会してくださっていて、会員数は今も増え続けています。

2017年の新種ワイン約7300本が完売見込み!

2017年の新種ワイン約7300本が完売見込み!

──野田村の山葡萄ワインの特長を教えてください。
坂下さん
  ロゼは直接圧搾法で白ワイン酵母を使い、爽やかな香りと心地よい酸味を生かしています。海の幸、肉料理、どんな料理と合せても楽しめる味を目指して醸造しています。

赤ワインは手作業による醸し発酵と二次発酵という、ヨーロッパの昔ながらの製法で醸造しています。ゆっくり酸味を落としながら、山ぶどう本来の野趣溢れる香りとしっかりとした酸味を残すように仕上げています。

2017年は、ロゼと赤で合計約7,300本を発売し、取材時点(2017年7月)で5,000本以上売れています。新しい樽熟成が出る秋までには、ロゼ・赤とも売り切れそうです。日本製の山ぶどう100%という希少性に興味を持っていただいたり、懐かしさを感じて愛飲してくださったりする方が多いです。

野田村の山葡萄ワインの特長

現在は、来年のリリースに向けて、ワインカーヴで熟成させているところです。糖度が20~25度の完熟山ぶどうだけで作ったものをセレクトし、フレンチオークやアメリカンオークの新樽に入れて寝かせています。

――ワイナリー事業を始めて野田村はどう変わりましたか。
坂下さん
 これまでは、東北を訪れたボランティアの方や、工事関係の方がついでに訪れるという感じだったのですが、最近は、ワイナリー目当てに野田村を訪れる方々が増えてきています。おかげで、山ぶどう農家の方々のモチベ―ションも上がり、「今以上に品質の高いものを作ろう」と頑張っています。

今後も、野田村の農家の方々が手塩にかけて育てた山ぶどうを大切に醸造し、野田村民が誇れる“おらほ(私たちの)のワイン”を作っていきたい。そして、山ぶどうワインという地酒と、地元の豊かな山海の幸とを共に楽しむ、新しい文化を育んでいきたいと思っています。

涼海の丘ワイナリー

東日本大震災から6年が経ちますが、野田村はまだまだ復興には程遠い状況です。高台への移転も、海沿いの空き地を公園にする計画もまだ道半ばだとか。そんな中、ワイナリーの開業は、村民たちに希望を与えています。

涼海の丘ワイナリー
住所:岩手県九戸郡野田村大字玉川5-104-117
電話:0194-75-3980
https://www.suzuminookawinery.com
※写真提供:涼海の丘ワイナリー

参考
(※1)野田村観光協会 http://www.noda-kanko.com/kankou/guide/shinsai-guide.html

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