目黒区や港区、品川区を拠点に、都内9店舗を展開中
都会のど真ん中に店を構えるレトロな雰囲気の八百屋「旬八(しゅんぱち)青果店」。野菜には手書きのポップが添えられ、スムージーや野菜弁当も並ぶ店内はまるで雑貨店のよう。ここで販売される野菜は、「鮮度抜群でおいしい上にお財布にうれしい価格」で消費者に喜ばれています。そこで今回は、『マイナビ農業』編集部が「旬八青果店」にその取り組みのお話をうかがいました。
おいしい新鮮な野菜を「適正価格」で購入できる理由を消費者に伝える
6月下旬に訪れた「旬八青果店 大崎店」では、手のひらサイズ以上のトマトが1玉100円、2玉なら180円というお値打ち価格で販売されていました。同店を運営する株式会社アグリゲート代表の左今克憲(さこんよしのり)さんに、価格の秘密をお聞きしました。
旬八青果店 大崎店
「消費者にとって求めやすい価格で販売できているのは、おいしいけれど育ちがよすぎたり、形がふぞろいの規格外の野菜を扱っていることが理由の一つです。価格設定は、自分が買うことを想定し、毎日購入できる価格かどうかを基準にしています。金額に見合わない卸価格を農家から提示されたときは、栽培方法や高い卸価格になる理由などを聞いた上で、『ここを変えたら金額を下げられる』とか、『この手間を省いてみては』など、農家が効率的に生産できるようにアドバイスをして、適正な価格を実現しています。農家にも消費者にも喜んでもらえる価格にした上で、自分たちもしっかり利益を上げる。そんなやり方を実践しています」
お客さんの中には価格を値切ったり、価格について詳細を知りたがる方もいると言います。
「こういう(手のかかる)栽培方法で作られたから、値引きは難しいんです」と言えるくらい、野菜が作られる過程を知っていることが、店に立つ側として大事だと思っています。例えば小松菜は、タネをまいた直後に除草剤を一度使っただけでも、有機栽培にはなりません。有機栽培の小松菜が300円で、除草剤1回使用の小松菜が160円だとしたら、どちらを選びますか? それを説明した上で、お客さんにどちらがいいか判断してもらいます」
左今さんをはじめバイヤーや店舗従業員は、それぞれの野菜や果物にいつどのタイミングでどういう農薬や肥料を使って作られたのかなどを詳細に把握しているのだとか。
「だからといって、すべての消費者が細かいことを知りたいわけではないですよね。この野菜の特長は○○です、と短くてわかりやすい説明をするように心がけています。それを食卓で話せてもらえたらうれしいですね」
従業員の説明はもちろん、店内の野菜にはその特長やおいしい調理法などが書かれた手書きのポップが添えてあり、野菜の情報を随所で知ることができます。消費者が正しく野菜を選ぶことができるのも、旬八青果店の大きな魅力です。
旬八青果店の野菜を無駄なく使いきる惣菜デリの店が誕生
旬八青果店では、日本各地の契約農家だけではなく「旬八農場」という自社農場からも野菜が届けられます。大田区の配送センターから各店舗に野菜が配送され、即店頭に並びます。
当日または翌日に、ほぼ売り切れてしまうそうですが、どうしても生じてしまうのが売れ残りなどのロス。捨ててしまう野菜や果物を減らすため、2017年3月、品川区・天王洲アイルにて惣菜や弁当を製造販売する「旬八キッチン」がオープンしました。「仕事などで忙しい方に、ほぼワンコインで野菜たっぷりの弁当を」。という出店計画が見事にはまり、平日のランチ時には30人程度が列をなし、1日400個以上の弁当が2時間ほどで売り切れるという盛況ぶりです。
看板メニューの「八百屋の平弁」は、から揚げなどボリュームたっぷりの惣菜が入って550円。ご飯の上には、大きくカットした3種の蒸し焼き野菜がのっています。その他にも、丼や野菜カレーなど弁当の種類は4、5種類あり、週に2、3回は通うという常連さんもいるほどです。
もうひとつの人気メニューは、旬の青果を使ったスムージー。赤、緑、黄の3色があり、いずれも日替わりで提供されます。水を一切使わないため、素材本来のおいしさが味わえると評判です。1杯200円という買いやすい価格です。
「旬八キッチン」に確かな手ごたえを感じている左今さんは、「今は1店舗ですが、これから虎ノ門や丸の内など、オフィス街に店舗を増やしていきたい」と展望を持っています。
八百屋ビジネスのノウハウを伝える講座も開講
旬八大学の様子
左今さんが旬八青果店を営むなかで、食や農業に興味を持ち、仕事にしたいという方たちとの出会いがありました。そのような要望に応えるべく誕生したのが「旬八大学」です。八百屋づくりのノウハウを伝える「都市部の八百屋講座」、新鮮でおいしい野菜や果物を適正な価格で仕入れるための「バイヤー講座」などを開講しています。
受講者には、旬八青果店ののれん分けを希望する方、自分の店を持つことを望む方などさまざまですが、左今さんはどんな展望をもった受講者の方でも歓迎しているそうです。実際、受講後に独立開業し、自分の店を2店舗経営している卒業生もいて、講座の実績は目に見える形となって表れてきています。
旬八青果店が農業ビジネスを変える
旬八青果店、旬八キッチンの人気の秘密は、鮮度や味、価格だけではありません。「野菜の価値を理解することで安心も同時に得られるところが、消費者に選ばれる理由」だと左今さんは考えます。「八百屋経営のノウハウ化」へのチャレンジ。この取り組みは、八百屋への新規参加者を増やすことはもちろん、生産者である農家にも光が当たることにもつながります。
都心で人気の八百屋は、野菜だけではなく農業ビジネスに関するたくさんのアイデアの種があるようです。その種がこれからどんな風に花開くのか、今後も期待が寄せられます。
旬八青果店
http://shunpachi.jp/
※写真提供:株式会社アグリゲート(「旬八青果店」運営会社)