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便利で楽な時代だからこそ人間らしい生き方が求められる 身体性を養う農業体験を“ハズフォルニア”から

便利で楽な時代だからこそ人間らしい生き方が求められる 身体性を養う農業体験を“ハズフォルニア”から

愛知県西尾市幡豆(はず)町で暮らす、藤野貴教(ふじのたかのり)さん。2007年に心地よく働くことを提案するコンサルティング会社、「株式会社働きごこち研究所」を設立。2016年には、地域と子どもたちに持続可能なコミュニティを残すため、株式会社WABISABIを設立し、移住者やローカルの人々とともに、「田植え・稲刈り体験」や「味噌・糀作り」を取り入れた体験型観光や民泊事業を始めています。外資コンサル企業で活躍していた藤野さんが愛知県幡豆町で見出した農業の魅力とは。お話をうかがいました。

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藤野貴教さん略歴

・コンサルティング会社、マザーズ上場のIT企業とキャリアを重ねる中、27歳で愛知県に移住、西尾市幡豆町を拠点に生活を開始

・移住した翌年、株式会社働きごこち研究所を設立

・2016年、持続可能なコミュニティを子どもたちに残すため、観光・食・農・教育をつなげる地域活性事業を行う株式会社WABISABIを設立

・同年より、休耕田を借りて米作りを開始

「何もないこと」に価値がある。27歳で田舎暮らしを決意。

27歳で東京から愛知に移住されたとのことですが、元々移住を考えていたのですか?

いえ、全くそんなことはありません。元々生まれは東京で、ずっと都会で育ちました。大学卒業後、新卒は外資系のコンサル企業に就職し、転職を経て六本木のベンチャー企業へ。仕事は忙しくて大変でしたが、順調に成果を出して出世もして、周りからも評価されていました。

しかし、働き始めて3年半ぐらい経った頃から、理由は分からないけれど、まるで心が乾いていくような感覚があったんです。仕事は上手くいっているのに、心が疲れている。そんな感覚を抱えて仕事をしていた時、仕事で妻の地元である愛知へ出張する機会がありました。そこで、帰りに彼女の実家がある幡豆町へ遊びに行ったんです。

幡豆町は交通が不便な場所で、昔ながらの風景が残る、何もないところです。訪れたのは5月の下旬で、夜になるとカエルの鳴き声が聞こえてきました。その音を聞いていて、なんともいいようなく、ただ「最高だな」と感じたんです。こういうところで生きて、働くことが、自分にとっての幸せなんだ。そんな直感が電撃のように走りました。

家がない、店もない、人もいない。でも、山や海があって、日差しが照りつけて、風が吹いて、鳥や虫がいる。東京と比べて「何もない」場所の価値に気づいたんです。

出張から帰ってすぐ、上司に愛知に勤務地を変更できないか相談しました。このまま東京で仕事を続けることがもう無理なんだと正直に伝え、ありがたいことに名古屋支店に異動させてもらいました。愛知に引っ越してから、平日は名古屋で働いて、週末は幡豆町で過ごすようになりました。

その後、2007年に会社を退職し、働きごこち研究所を立ち上げました。独立してからしばらくして、この場所に腰を据える決意を固め、それから幡豆町で生活しています。

子どもたちに、身体性を養う教育環境を

幡豆町で過ごすようになってから、どのような変化がありましたか?

一番大きな変化は、「人間にとって身体はすごく重要な資産なんだ」と気づいたことですね。幡豆町で過ごす中で、東京で心がかわいてしまった理由が初めてわかりました。人間として、身体を使って生活していなかったことで、知らぬ間に疲れが溜まっていたんですよね。海で日光を浴びながら遊んだり、風で季節の変わり目を感じたりする生活を通じて、「あの時の俺は疲れていたんだ」と自覚したんです。

僕は移住がきっかけでしたが、極端な話、他の手段でも生活を変えられた可能性はあります。僕の幸せにとって大事なのは「身体性」を意識して生活するということで、それを実現できるのが幡豆町での生活だったので、腰を据えることに決めました。

身体性を意識すると何が変わるのでしょう?

感性や発想が磨かれる気がします。特に子育ての時に顕著に感じますね。僕の子どもは山の中にある、6歳まで文字も数字も教えない保育園に通っていたのですが、そこの子どもたちは皆、感性が非常に豊かなんです。一方で、同じ田舎に住んでいるけれど野菜の植え方を知らない、ましてや、そこら中にある田んぼに入ったことのない子どももいます。田舎だからといって、身体性が養われるわけではないというのは衝撃的でしたね。

それを知って以来、テクノロジーの進歩によって世間が楽で快適な方向に流れていることに危機感を持ちました。身体性を養う教育や環境を、地域として残していきたいという使命感が自分の中で芽生えました。

テクノロジーの台頭は「人間らしい生き方」への欲求につながる

農業に携わるようになったのは何がきっかけでしょう?

逆説的なんですが、2015年頃に、人工知能が進歩し始めているというトピックを知ったことがきっかけです。

東京で開かれている未来予測の勉強会に参加する中で、「人工知能で人の働き方が変わる」と感じたと同時に、人間らしい生き方への欲求の回帰が起こるのではないかと感じました。テクノロジーの進歩によって、便利で楽に生きることができるようになることで、かつての自分のように身体性を感じられる生活に関心が向くのではないかと考えたんです。

そんなことを考えている時に、勉強会で「東北食べる通信」の高橋博之さんや「KAKAXI」を開発した大塚泰造さんなど、農業分野で活躍されている方々との出会いがありました。農業に関する話を聞いて、「田舎に住んでいる自分が農業に関わらないのはイケてない」と感じて、始めることにしたんです。

2016年、家の前にあった休耕田を借りてお米作りに挑戦しました。

関連記事:【GRA岩佐大輝 × ワークスタイルクリエイター藤野貴教 対談・前編】 AI時代の到来で、農家の役割はどう変わるのか

 体験を通じて、人間らしい感性を育む

趣味で始められた農業が事業になったのはどのような背景からでしょう?

実際に農業を体験してみて一番の感想はとにかく大変だということでした。草取りなどの作業は楽しいけれど、思っていた以上に大変で疲れるし、米作りをビジネスとして展開しても儲からないだろうと感じました。しかし、思いつきで体験型観光のコンテンツとして竹の伐採を実施してみたところ、外国人観光客に大変好評だったんです。竹は木々を枯らしてしまうため、幡豆では大変な労力を使って伐採していたのが、観光客は楽しんで取り組んでくれました。

さらに、外国人が地元を訪れることで子どもたちが外国人の方と接する機会も増え、教育にも役立つことに気づいたんです。その経験から着想を得て、観光・教育・農業を全て包括した形で事業を展開してみようと考え、WABISABIの事業を始めました。

事業の中でどんな点にこだわっていますか?

農業というテーマでは、「作る側にまわること」を大切にしています。現在、農業体験として、田植えや稲刈り、糀作りなどのプログラムを提供しているんですが、見ているのとやってみるのは全く違います。農業体験を通じて身体的な学びを深めることができ、感性や発想を豊かにすることにつながると思うんですよね。

最後に、これからの展望について教えてください。

今、幡豆町を「ハズフォルニア」と名付けて、新しい地域ブランディングを行い、活性化させていこうとしているんです。日本のローカルサイドを訪ねたいという外国人観光客のニーズは大きいので、オリンピックに向けて国内外での認知を作っていきたいですね。

僕個人の考えとして、畑だけ、農業だけを見ていてはダメで、全てがエコサイクルとしてつながっていることを認識しなければいけないと思うんです。だからこそ、農業も観光も教育も地域活性も、つなぎ合わせるような展開をしていきたいです。

プロフィール

アクセンチュア、人事コンサルティング会社を経て、東証マザーズ上場のIT企業において、人事採用・組織活性・新規事業開発・営業MGRを経験。2007年、株式会社働きごこち研究所を設立。「ニュートラルメソッド」を基に、「働くって楽しい!」と感じられる働きごこちのよい組織づくりの支援を実践中。「今までにないクリエイティブなやり方」を提案する採用コンサルタントとしても活躍。現在の研究テーマは「人工知能の進化と働き方の変化」。グロービス経営大学院MBA(成績優秀修了者)。

2006年、27歳の時に東京を「卒業」。

愛知県の田舎(西尾市幡豆町 ハズフォルニア)で子育て中。

家は海まで歩いて5分。職場までは1時間半。

趣味はサーフィンとスタンディングアップパドル(SUP)。朝の海が大好き。2016年は、はじめての田んぼに挑戦!2016年に株式会社WABISABIを設立、観光・食・農・教育をつなげる地域活性事業をスタート。

著書『2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方』

【「農業で働く」という選択肢を提案。全国6都市開催「就農FEST」の詳細はこちら↓】

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