全国的に農業人口が減少しつつある今、多くの自治体において新規就農者の確保は大きな課題です。なかでも突出した動きを見せているのが大分県。「地域の担い手は自らが確保、育成する」との方針のもと、就農支援に取り組んでいます。支援の具体的な内容について、大分県農林水産部 新規就業・経営体支援課主幹、田崎信生(たさきのぶお)さんにお聞きました。
大分県の新規就農者は毎年約200名、年々増加傾向に
「農業者の高齢化やリタイアなどにより、産地、農村地域の衰退が懸念されています。大分県の農業、農村を支えていくためには、新規就農者をできるだけ多く確保しなければいけません。そこで、大分県では県独自の就農相談会『おんせん県おおいた就農応援フェア』を行うなど、2010年から積極的に就農支援策を進めてきました」と、田崎さん。
「おんせん県おおいた就農フェア」は、県内だけでなく東京都、大阪府、福岡県などでも開催されてきました。大分県の新規就農支援策の説明を行い、大分県で就農することのメリットを積極的にアピールしています。
そのかいあって、大分県ではここ数年、毎年約200名が新しく農業に携わっています。2016年度の新規就農者は、自営と農業法人への雇用合わせて227名、そのうち県外からのUターン、Iターン、Jターン(※)者は59名となりました。
田崎さんによると、「これは過去5年間で最高の結果」とのことです。県をあげての積極的な就農支援策の賜物だと言えます。
(※)Jターン:地方から大都市へ移住した者が、出身地や故郷の近くの(元移住地よりも規模の小さい)都市に戻り、定住すること。
就農学校、ファーマーズスクールで、大分県の就農を徹底サポート
大分県の就農支援策とは、具体的にどのようなものでしょうか。
「農業に興味をもっている人は多いのですが、いざ就農するとなると主に3つの課題に直面します。一つ目は農業技術の習得、二つ目は農地、住宅の確保、三つ目は自営就農の初期投資や運転資金などの問題です。そこで大分県では、これらの課題を克服するための支援を充実させています」。
それが、JA、農業公社、市町が運営する「就農学校」と、市町が運営する「ファーマーズスクール」です。農業経験がない人でも、就農に必要な技術や知識を身につけることができる、1年から2年間の研修制度で、研修内容は技術習得のための実習および座学、模擬営農で構成されています。現在、県内の18市町村のうち15の市町で整備されています。
「地域の担い手は地域自らが確保、育成する」という方針で、市町村、JA、生産者、県が一体となって担い手を育成しています。研修する農作物は、その地域で作りやすく、農業者の多い主力品目です。ピーマンや小ネギ、イチゴなど、多くの農家が作っている農作物の作り方を学ぶことで、わからないことがあった場合は周りに聞くことができるため、就農後も安心して農業に従事できます」。
就農時の住宅、農地、資金に対する不安も軽減
就農学校とファーマーズスクールは、地域の公的な関係機関が密接に連携して運営しています。そのため、市町が担当している空き家探しや、農地探しに関する取り組みとの連携もスムーズです。
農林水産省の支援制度「農業次世代人材投資資金(※)(準備型)」の対象は、「都道府県が認める道府県農業大学校や先進農家、先進農業法人等で研修を受ける就農希望者」とされています。大分県の就農学校や、ファーマーズスクールでの研修中は、同制度を利用して最長2年間、年間150万円の交付を受けることが可能となります。
また、研修終了後は「農業次世代人材投資資金(※)(経営開始型)」の交付を受ける事も可能で、年間最大150万円が最長5年間交付されます。(交付の要件等詳細については、農林水産省および大分県にお問い合わせください)
「新規就農における3つの課題すべてを同時に支援できるのが、就農学校とファーマーズスクールの取り組みなのです」。
そればかりではありません。研修者は自分が就農する場所で研修を受けるため、研修中に培った地域の人間関係が、そのまま就農後も役立つのが大きな魅力です。この仕組みは、特に県外からの新規就農者の満足度を上げているそうです。
2010年から2016年までの研修生の数は合計129名で、そのうち69名が県外からの研修生だそうです。すでに3期生、4期生が卒業した研修施設もあり、多くの先輩新規就農者が大分の地で農業に従事しています。
農作業のメリットだけでなくデメリットも伝える
大分県としての今後の目標は、毎年200名を上回るペースで新規就農者を確保することです。2017年度の目標は235名、2020年度は265名と、着実に数も増やしていきたいと考えています。
ですが、いくら新規就農者を増やしたいと言っても、農業に向かない人に無理に勧めることはしません。「就農希望者には、就農学校やファーマーズスクールに入校する前に、4、5日の短期研修を受けていただきます。ご自身で農業や農作物作りに向いているのかを判断してもらうとともに、受け入れ側も研修生としてふさわしいかを判断させていただいています」。
また、折に触れて農作業の特殊性や厳しさ、地域、人との付き合い方の難しさなどを伝え、安易な考えで新規就農を選択することがないように心がけているそうです。それだけに、新規就農者から寄せられた「単純で地味な作業に見えるけれど、改善の楽しみがあり、やりがいのある仕事です」といった声は大きな宝物だと感じている、という田崎さん。
「ぜひ大分県で就農したいと思ってもらえるように、これからも積極的に就農支援に取り組んでいきたいと思っています」。
新規就農を考えている方にとって、これだけ手厚いサポートがある制度は心強い存在です。新規就農者を支援したいと考えている自治体の方にとっても、大分県の取り組みが大いに参考になることでしょう。
大分県 新規就農・参入
http://www.pref.oita.jp/soshiki/15270/
(※)農業次世代人材投資資金:http://www.maff.go.jp/j/new_farmer/n_syunou/roudou.html