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プロフットサル選手が挑む農業とのパラレルワーク

プロフットサル選手が挑む農業とのパラレルワーク

2017年09月13日

プロフットサルチーム・ASVペスカドーラ町田の背番号10、中井健介(なかいけんすけ)選手は、フットサルワールドカップ2020で日の丸を背負うことが目標だ。アグレッシブなプレースタイルがモットーの彼は、試合会場で甘酒を販売するという実業家の顔を併せ持つ。実家の農園で収穫した米を用いた甘酒は、栄養価が高く、スポーツとの相性は抜群。フットサルと甘酒。その魅力を誰よりも知る28歳の使命とは。

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プロフットサルプレーヤー・中井健介

プロフットサルプレーヤー、中井健介選手はペスカドーラ町田の中軸を担うプレーヤーだ。週末の試合に向かう彼の一日は、午前・チームの全体練習、午後・表参道のジムでのトレーニングが基本。試合のないウイークデーはそれを繰り返す、まさにフットサル漬けの毎日。2016年からは農業ビジネスも手掛け、24時間フル回転の日々を送る。

兵庫県出身の「下手だけれど、ガッツはある」サッカー青年は、Jリーガーになることを目指し、関東大学リーグに属する専修大学に進んだ。

チーム内では、もう一歩でレギュラーという位置を行き来する中で、知人に「ペスカドーラのセレクションに参加してみては」とアドバイスを受け、大学3年のときにトップチームで合格したことが現在につながる。ただし、その時はJリーガーの夢を追い続け、大学時代はサッカーをやりきることを選んだ。自身最後のシーズン、チームは全日本大学サッカー選手権大会で優勝するが、そのピッチに彼の姿はなかった。

サッカーに区切りをつけた彼は、フットサルの道に進むため、再び町田の門を叩いた。始めはフットサルとサッカーの違いに戸惑い、コートの中で求められる役割を見失うことが多かった。やがて、コートが狭い故に戦術的なプレーが要求される、フットサルならではの醍醐味を味わった。プロのフットサルプレーヤーである自覚も芽生えた。「フットサルで日本代表になること」を新たな目標に定めた。

フットサルに打ち込むこと、その先を見つめて

プロスポーツ選手だからと言って、選手としての報酬で生計を立てられる人は少ない。人によっては、スポーツ用品メーカーがスポンサーになるケースもあるが、それは一握り。

フットサルスクールやスポーツ施設で働きながら選手生活を続ける人も多い。自身もスポンサーの支援を受けているが、プレーヤーとして長く現役を続けるためにも、トレーニングは欠かさず、フットサルにかける時間を確保したい。そのためには、他人に拘束されることがない、自分自身で事業を行うことがベストと考えた。プロスポーツ選手は、競技に全力を注ぐ一方で、引退後に社会人として生活していくことも意識しなければならない。彼の頭の中には常に、農業を営む実家のことがあった。今、東京にいる自分だからこそできる「実家と農業への貢献」。その先に自身の未来が重なった。

中井農園を運営している中井選手のおじいさん

ホームゲームで焼きイモを販売

実家は兵庫県で先祖代々続く、中井農園という屋号を持つ農家。父は自身で事業を行っているが、祖父、伯父、兄が米のほか、キャベツ、レタス、トマト、キュウリ、ハクサイなどの野菜を生産している。おじいちゃん子だった幼少期は畑や田んぼが遊び場だった。家業は兄が継いでいるが、自身も農業への思いは強い。「兵庫の生産現場で作業することはできないが、東京で販売の面で力になれないか」と考えた彼は行動に移す。

実家の農産物を販売するにも「米は別だが、生野菜はリスクが高い」。自慢の米で作るおにぎりか、日持ちのするサツマイモを使った焼きイモを候補に挙げ、手間と食品衛生の観点と、そもそもの採算性を検討し、焼きイモの販売を計画した。

さっそく焼きイモ機を購入し、プロパンガスを用意。準備を整えた彼は、実家にサツマイモを発注した。突然の連絡に戸惑う家族をよそに、サッカー仲間の後輩とフットサルコートのある、町田市内の知人が経営するカフェの前で路上販売を実施したところ、ナチュラルな甘味が受け、好評を得た。こんなに甘い焼きイモをはじめて食べたという人が多いことに驚いた彼は「もっとたくさんの人に、焼きイモのおいしさを知ってもらいたい」と、フットサルの試合会場での販売を思い立ち、所属クラブに相談した。

所属選手の企画した食品を販売するのは初めての試みであったが、選手の自立を後押しするクラブは、彼の提案を受け入れる。焼きイモの販売は2016年12月から翌2017年のシーズン終了までのホームゲーム全試合で行い、毎回、試合前後の4、5時間で完売した。

甘酒との出会い

実家で獲れたサツマイモを焼きイモにして販売する。確かな成功体験を得た彼は、ウェブショップを立ち上げ、野菜セットの販売を始める。「新鮮な野菜というフレーズでは、差別化ができない」試行錯誤する中で、運命的な出会いがあった。

彼自身が所属するチームの練習場である「フットサルステージ」の社長山田さんの紹介、そこでランチ販売を行う飲食店「meat.meet」のオーナー山崎勝弘さんの夫人の山崎綾乃さんは、甘酒コラボレーターとして、日本各地の米で甘酒を作っている。その山崎さんの甘酒を飲む機会があった。

子どもの頃、神社で飲んだ甘酒は、独得のにおいがあって苦手だったが、山崎さんの甘酒は想像していたものと違い、飲みやすく、何より「おいしかった」。

酒粕から作る甘酒と、米と米こうじから作る甘酒は別物。必須アミノ酸を多く含み、飲む点滴とも呼ばれる栄養価の高い後者は、激しい運動の後で、体がごはんを受け付けないときにも摂取しやすい。

「スポーツの後に最適。原料は米」。自分が携わる使命感を覚えた。山崎さんの監修の元で、実家で作った兵庫産コシヒカリと会津産のこうじを用いた「中井農園・甘酒」が誕生するのに時間はかからなかった。山崎さんの会社「komeama」と彼自身の共同開発で「中井農園甘酒」が誕生した。

2017年4月からウェブサイトで販売、6月からフットサル会場での販売も開始した。8月5、6日開催のホームゲーム2試合で200杯を売り切るなど、評判は上々。チームメートからの反応も良い。自分が携わるのにふさわしい商品ができたと感じている。

「甘酒の需要が伸びれば、兄に米の増産も依頼したい」。現状の通常よりも安い出荷額より高く仕入れて、東京で加工品にして売る。実家の農園に貢献できる道筋が見えてきた。現役プロフットサルプレーヤーの顔と、中井農園の販路拡大を目指す実業家としての顔。二つの顔が輝きを増している。

フットサルと農業―それぞれへの思い

甘酒という主力商品ができたウェブショップは、今後も充実させていく。野菜のセット販売も続けていくが、今後は、サツマイモを原料とした砂糖と添加物を使用しないペーストスティックなど、栄養にこだわった、スポーツの現場にいる自分が開発者でもあるからこそ、プロスポーツ選手として自分が欲しいもの、必要なものを開発していきたい。

兄は服飾を学び、自身のブランドを立ち上げるほど、ファッションに強い思い入れがあったが、今は農業に力を注いでいる。自分がフットサルに集中できるもの兄のおかげだと感じている。だからこそ、やんちゃな弟を受け止めてくれる兄と、一緒に中井農園を盛り上げたいと考えている。

時に、アイデアと経験が、身体能力より必要とされる局面があるフットサルという競技は、40歳の現役プレーヤーがいるほど、人によって選手生命の長さは異なる。ワールドカップは3年後。31歳は選手として、身体ともに最も充実した時期にしたい。その後、何歳まで現役を続けられるかはわからないが、自分らしく、フットサルと加工品の開発を両立していきたい。

今はフットサル、やがては農作物の加工品の開発に最も力を入れる。「人生の中でやりたいこと」のこの二つの組み合わせは、フットサルプレーヤーになった自分だからこそ選べる選択肢。自分らしく、やりたいことに全力で取り組める環境に幸せを感じる。二つの仕事から得られる幸福感を、フットサルで関わった人、農業で出会った人、今の自分を作ってくれた全ての人に還元していきたい。彼らの笑顔を作ること。それが彼の使命と生きがいだ。

中井選手と中井選手のお兄さん(後方中央)

 

ペスカドーラ町田

http://www.pescadola-machida.com/

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