茶栽培の一大産地で美しい景観を堪能
D-matchaの茶畑は、京都府相楽郡和束町(そうらくぐん わづかちょう)にあります。この町は、鎌倉時代に遡るほど古い歴史をもつ宇治茶と呼ばれるお茶の一大生産地で、宇治茶の全国収量の約4割を生産しています。町内には美しい茶畑が広がり、京都府が定める「京都府景観資産」に登録されています。大阪市や京都市内から車で1時間程度でアクセスできるという立地もあり、週末になると茶畑を眺めるために多くの観光客が訪れています。
そんな和束町でD-matchaが始めたのが、茶畑のハイキングツアーです。和束町内にあるD-matcha運営のカフェに集合し、ハイキングを行う茶畑の近くまで車で移動。そこから片道約1時間かけて山道を歩いていきます。

原山地区にある伝統的な「円形茶園」
茶畑までの道中では、原山地区の「円形茶園」にも立ち寄ります。和束町内でも有名な茶畑で、すり鉢状の山の傾斜を活かした芸術的な美しさは見惚れるほどです。
目的地であるD-matchaが管理する茶畑は日本有数の急斜面にあり、町を一望できる、非常に見晴らしの良い場所にあります。一般的な観光では見ることのできない、ハイキングに参加した人だけが眺望できる景色です。9月は茶摘みの時期が重なるため、ハイキングには茶摘み体験もプラスされます(所要時間:2時間程度/参加料金:一人3,000円/開催日:毎週土曜日予定 ※詳細はホームページをご確認ください)。
茶農家が毎日見ている絶景を体感してほしい
なぜこのようなハイキングツアーを企画したのでしょうか。
「弊社では、2017年4月に、和束町内に抹茶や煎茶、ほうじ茶ラテ、抹茶パフェなど、日本茶を使ったドリンクやフードを提供するカフェをオープンしました。そこでは、煎茶と抹茶の品種別飲み比べ体験や、伝統的な石臼を使った抹茶挽き体験など、日本茶の魅力を知っていただく企画を行っています。しかし、せっかく時間をかけて和束町まで来ていただいた方に、もっと和束町の自然を体験をしてもらい、日本茶のことを知る機会を提供したいと思ったのです」。
そこでD-matchaが管理する無農薬栽培の茶畑の中でも、特に絶景が楽しめる場所を選び、ハイキングコースを作ったそうです。
「和束町の茶畑は見晴らしのよい山中にあって、そこから広がる景色はとても美しいものです。茶農家が日頃見ている素晴らしい風景や農業の現場も体験してほしいという思いがありました」と渡辺さん。
茶畑ハイキングツアーに参加しているのは、日本人観光客と外国人観光客が約半分ずつ。D-matcha代表の田中大貴(たなかだいき)さんがアメリカ留学の経験があり、英語が話せることから、外国人観光客がツアーに参加する際は、代表が英語でガイド役をつとめています。
ツアーに参加する外国人観光客はヨーロッパの方が多く、大阪府や京都府といった大都市の定番の観光地にはすでに行っており、もっと深く日本文化を知りたいと考える方が多いそうです。「好奇心旺盛な方が多く、どうやったらおいしいお茶ができるのかなど、茶葉の栽培方法について質問をたくさんいただくこともあります。質問にきちんと答えられるように、こちらが勉強することも多く、ありがたい刺激をいただいてます」。
ガイドなしでは訪問できないから価値がある
和束町の茶畑は、町内中心部から遠目で眺めたり近くを車で通りすぎることはできても、茶畑の中までは簡単に行くことはできません。原山地区の円形茶園は、特に山間の入り組んだ場所にあるため、土地勘のない観光客が気軽に立ち寄れる場所ではありません。
そのため「一人ではこんな景色は絶対に見られない」と感じた参加者のほとんどが、ツアー後のアンケートで「大変満足した」と回答しているそうです。
「農業を営む我々だからこそ案内できる場所であり、ガイドなしでは訪問できないということに価値を感じていただいているのだと思います」。
農家と消費者が直接コミュニケーションがとれる機会を作る
食育問題やTPP問題、食の安全・安心など、昨今は農と食に関する話題が各媒体で取り上げられたりと、農業への注目が以前よりも高まっていると感じると、渡辺さんは言います。
「私たちはお茶を栽培し、加工して販売まで行っているため、消費者の方と直接お話をする機会がありますが、普通の農家では消費者の方と直接触れ合う機会はあまりありません。裏を返せば、消費者の方にとっても、農産物の作り手である農家と接する機会がないということです。私たちのハイキングツアーを通して、農家が普段目にしている風景や行っていることを消費者の方に体験してもらい、農業についてもっと身近に感じ、考えてもらうきっかけになればいいと思っています」。
苗の植え付けや作物の収穫など、一般消費者に農業体験を提供する農家や農村が増えてきています。茶畑の美しい景観を眺めることができるハイキングツアーは、茶栽培ならではの特長を活かした農業体験の好例です。抹茶や日本茶の世界的なブームもあり、茶畑ハイキングツアーが新しい日本の観光の一つとして定着していく可能性は十分にあると言えるでしょう。