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輸送が難しいラズベリー 鮮度を保ったまま消費者へ「ポストハーベスト学」最前線

輸送が難しいラズベリー 鮮度を保ったまま消費者へ「ポストハーベスト学」最前線

採れたてに近い品質のまま、消費者まで農産物を届ける技術を「ポストハーベストテクノロジー(収穫後技術)」といいます。その技術を裏付ける新しい学問体系がポストハーベスト学です。今回は、東京農業大学農学部農学科ポストハーベスト学研究室の教授であり、品質保持技術の開発を専門とする馬場正(ばばただし)さんに、ポストハーベスト学の最新事情についてお話をうかがいました。

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輸送が難しいといわれるラズベリー 鮮度を保ったまま消費者のもとへ

ポストハーベストテクノロジーが発達すると、どのようなメリットがあるのですか。

収穫時点では新鮮で商品としての価値がある農産物が、その後の流通過程で劣化が進み、商品性を喪失することをポストハーベストロス(収穫後損失)といいます。ポストハーベスト学が発達すれば、これらを減らし、より高い水準で品質を保持したまま消費者に届けることができるようになります。

例えば、ブロッコリーは呼吸が盛んに行われる野菜で、鮮度低下の激しい野菜のひとつです。その鮮度を保つために氷を使います。ブロッコリーを発泡スチロール箱にタテに並べて、上から氷を詰めます。氷がとけきるまでは、コールドチェーン(低温に保つ物流方式)が実現できます。この場合、低温で呼吸を抑えることで鮮度低下を防ぎます。

最新の研究について教えていただけますか。

今、研究に力を入れているのがラズベリーです。国産のラズベリーがイチゴのようにスーパーに並ぶのを夢見ています。実は、ラズベリーは傷みが早く、カビや身崩れなどを起こしやすいため、新鮮な状態を維持して輸送するのが難しい青果物です。これを品種開発、栽培技術、ポストハーベスト技術を総動員して鮮度を保ったまま届ける研究を進めています。

品種改良により、輸送に強い農作物を作ることも可能で、実際にアメリカ産には輸送耐性に優れた品種があります。しかし、日本産には流通に強い品種は存在しないため、収穫を早めて輸送中に熟させる方法、つまり味を犠牲にして輸送するしかないのが現状です。

栽培技術については、クリスマスシーズンに収穫する、摘芯処理についての研究結果も発表しています。ラズベリーはクリスマスケーキの飾り用として使われる12月末に最も需要が高いのですが、その時期に収穫できるように「摘心」という芽を摘む作業を夏場に行います。摘心によって開花時期が遅れるため、収穫も遅れ、通常栽培では収穫できない12月末に収穫が可能になります。

ポストハーベスト技術としては、高濃度二酸化炭素処理があります。これは、輸送前に高濃度の二酸化炭素に数時間暴露させることで、果実を硬くしてから輸送する技術です。

当研究室では、収穫用のハサミも業者とともに共同開発しました。このハサミを使うと、果実に触らずに収穫できるため、収穫に伴う果実の傷みを最小限に抑えられます。また、芯がついたままの状態でラズベリー果実を収穫できるので、輸送時の傷みも少なくなります。

パッケージ内のガス環境を整えることで野菜の鮮度を維持

野菜鮮度保持のために、パッケージにはどんな技術が使われているのでしょうか。

パッケージには、見た目を良くする、持ち運びやすくするなど、いろいろな役割があります。そこに鮮度保持という役割を持たせる場合は、フィルムによる密封包装(MA包装)がポイントになります。

MA包装によって袋内のガス環境が、鮮度保持に適した状態になります。MA包装で一番怖いのは、袋内が低酸素状態となり、異臭が発生することです。そのため、中に入れる青果物の呼吸速度によって、袋内が低酸素状態にならないようなフィルム素材を選択することが重要です。

エダマメのように呼吸が盛んに行われるものは、鮮度保持に効果的なガス環境を実現する微細孔フィルムを使います。目に見えない小さな孔があいていて、そこからガスが排出できるようになっているフィルムです。

青果物の特性も考慮しなければなりません。例えば、イチゴは輸送が難しいとされ、輸送中の振動や衝撃が原因で品質劣化を招きます。その対策として、様々な容器が開発されています。一粒一粒のイチゴの形状にピッタリフィットする、やわらかいフィルム素材を使った容器「ゆりかーご」もその1つです。値段は少し高めですが、振動や衝撃から果実を守るには効果的です。

カット野菜はパッケージの工夫とともに品種の選定がポイントとなる

最近、ニーズが増えているカット野菜。加工すると鮮度が落ちやすくなると考えられますが、どのようにして鮮度を保つのでしょう。

カット野菜の包装には、前述したエダマメに使われる微細孔フィルムが鮮度保持に効果的です。さらに進化した技術として、密封する時に鮮度保持に効果的なガス置換を行う場合もあります。

品種の選定でも、収穫後の鮮度は変わります。例えば、カットキャベツは、褐色変化が起これば商品価値がなくなりますが、褐色が起きるまでの日数は品種により異なります。現在流通しているキャベツ15品種について、カットして密封してから、いつ褐色変化が起こるか実験したのですが、最短で5日、最長で12日と約2.5倍の違いがありました。

カット野菜に求められるのは、鮮度がいかに保てるかだけではありません。加工業者は、原料に対して製品がどのくらいの割合まで作れるかという「歩留まり」の良さも求めます。例えば、カットレタス製品を作る場合、「歩留まり」はレタスの芯の割合や締まり具合などで決まりますが、下手をすると半分以下になります。

これまで、レタスはカット加工することを想定した品種開発がされてきませんでしたが、需要増加に伴い、カットレタス用品種の開発が望まれています。

「農業は“作る”から“作って届ける”時代になってきました。農家の方には、収穫後技術にもぜひ目を向けていただきたいです」と馬場さん。ポストハーベスト学の発展には農家の方の協力も必要だといいます。特に、国産ラズベリーを食卓に届ける技術はまだまだ発展途上。「農家の方と一緒に技術開発に携わっていきたい」と話しています。

取材協力:馬場正(東京農業大学農学部農学科ポストハーベスト学研究室・教授)
1995年より東京農業大学教員。園芸作物を中心に、収穫から消費者に届くまでのポストハーベスト過程における品質保持技術の開発にたずさわる。

写真提供:東京農業大学
http://www.nodai.ac.jp/

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