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【第1回】より良い農業生産を実現する取り組み『GAP』ってなんだろう?

連載企画:JGAP・HACCPの基礎知識

【第1回】より良い農業生産を実現する取り組み『GAP』ってなんだろう?

農産物の生産で最も重要なことは、食品としての安全を確保することです。生産者は食品の安全を確保するために、生産履歴の記帳や、環境の保全、労働の安全などの点検を日々行っていることでしょう。そのような一連の取り組みを、ルールに基づいて行っていることを証明するGAP(Good Agricultural Practice)が注目を集めています。GAPは、農業従事者が守るべき規範と、その実践を証明するものです。この機会にGAPについて理解を深めましょう。

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農場

1.GAPはファッションブランド?

GAP(ギャップ)と聞くと、ファストファッションのブランドと思い浮かべる人がほとんどでしょう。農作業着にとうとうGAPが進出か、と勘違いされそうです。そうではなくて、GAPとは農業業者が最低限守られなければならないルールのことです。今回から隔月で合わせて全6回、このGAPについて紹介していきます。

2.国産農産物は安心安全と信じているが

私たちは、国産の野菜や果物の方が安心・安全であると思っています。しかし、輸入農産物に対しては、漠然とした不安感をもっています。では、安心安全なはずの国産農産物は、最低限のルールを守って作られているか、と聞かれたら、皆さんは何と答えますか?Yesと答えたいけれど、ルールを守っているという証拠がないし、そもそもどんなルールがあるのか知らないので、自信をもって答えられない人が大部分でしょう。

3.安心安全の証となるGAP

実は、我が国の農業者さえも、ルールを守っている証拠が示せないし、どんなルールがあるのか正確にわかっていないことが多いです。そのルールがGAPであり、今、農業者や農業をやろうとしている人たちから大きな注目を浴びています。
GAPとは、わかりやすくいえば、農場で働いている人が安心して働け、農場の周りに農薬や肥料などの害を与えることなく、農産物を原因とした食中毒や感染症を起こす可能性を減らすためのものです。工業製品を作っている工場が、ブラック企業でなく、公害をまき散らさず、製品がもとで怪我人を出さないのと同じです。

野菜

4.安心安全な農産物を作るけど、安心安全でない農場?

「国や自治体が法律や条例を作って、農業者に守らせているはず。そんなルールって必要なの?」と疑問に思う人もおられるでしょう。たしかに、農薬取締法、廃棄物処理法などの法令が農業にもあてはまるはずです。しかし、農業者がその法令どおりに作業をしているのかというとそうとも言えない面があるのが実情です。例えば、作物の成長に必要な窒素肥料を、施肥計画もせずに基準以上に施したら、その余剰分は近くの川に流出して、人体に有害な硝酸性窒素となります。実際、河川には国が定めた基準値を超える硝酸性窒素が含まれていて、その原因が農業の化成肥料やたい肥であることがわかっています。また、夏になるとよく発生する集団食中毒の感染源が生野菜に付着した大腸菌O157と疑われることもあります。農作業中の事故が原因で亡くなられる方の就業人口当たりの割合が、建設業の2倍以上もあります。
その結果、消費者として国産の農産物に安心・安全を感じているにもかかわらず、若い人たちが就職先として農業法人を選ぶことが少ないし、農業をビジネスにしようという人も少なくなっています。農地法などの規制で農家以外の人が農業に参入しにくいなど、その原因はいろいろあります。その大きな原因のひとつとして、安心安全な農産物を作っている農場自体が、安心安全でないイメージがあるということにあります。この状態を放っておけば、我が国で農業に取り組む人が減り、国内で作られる農産物が減り、輸入農産物に頼るしかなくなる日が来るかもしれない。我が国でGAPが求められている理由はここにあります。

野菜

5.GAPとは?

GAPは農業生産工程管理と訳されることもあります。それは、ルールを守るためには、播種・苗づくり・定植・栽培・収穫・出荷といった生産工程ごとに管理するからです。その具体的な管理手法は、第二回以降に説明することにして、今回はGAPに取り組むために理解しなければならない言葉、「GAP規範」、「GAP基準」、「GAP認証」を説明します。

6.GAPに関する言葉

GAP本来の意味は、Good Agricultural Practiceであり、「適正な農業の実践」です。最低限のルールに従って農作業を実施することです。
GAPを実践するには、その規範が必要になります。たとえば、EU(欧州連合)では、EU加盟国の農家に補助金を支払う制度があります。その補助金を受け取るには、農家は加盟国共通のGAP規範どおりに農場を管理することが条件となっています。
一方、GAP基準とは、政府ではなく、民間の小売業者など農産物を購入する側が農家に求める「モノサシ」です。欧州生まれで事実上の国際標準になっているGLOBAL G.A.P、日本国内の標準であるJGAPなどがあります。この基準通りに農場を管理していることに対して、第三者の審査員が認めることを認証といいます。

7.JGAP

ここではJGAPを例にして、GAP基準によって農場が守るべきルールの全体を示します(図表)。この図では、真ん中に、農産物の生産プロセスとその前後のプロセスが表されています。その周りを、5M(Man【人】、Machine【機械】、Material【原材料】、Method【手順】、Measurement【評価】で分類したGAPの構成要素が取り囲んでいます(数字は、JGAPの管理点の番号)。Measurementの「4.栽培工程及び収穫工程におけるリスク管理」で、農場は農作業の中に、作業者にとって危険な作業がないかどうか評価し、リスクがある場合、そのリスクに応じて、Manの「14.労働安全管理及び事故発生時の対応」を取ることが求められます。

※図表「5MによるJGAP全体図」
JGAP全体図

8.みんなでGAPの実践を

我が国ではGAPに従った農作業をしていると宣言している農場はまだまだ少ない。しかし、農業の仕事をしてみようという人なら、仲間たちといっしょにGAPを実践し、持続的な農業を実現してみよう。
(次回へ続く)

一般社団法人中部産業連盟 執行理事 主席コンサルタント
JGAP指導員、ISO14001主任審査員 梶川達也(文責)

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