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京の伝統野菜を守る高校生たち

京の伝統野菜を守る高校生たち

京都府立桂高校は、2017年8月にパシフィコ横浜で行われた「商業高校フードグランプリ」に、商業高校ではないものの「京伝統野菜ピクルス」で特別出展を果たした。商品はもちろん、同校の「京の伝統野菜を守る研究班」の「京の伝統野菜を守る」取り組みが注目を集めた。研究班の活動について、同校の松田俊彦教諭と、研究班の川戸瑞月さん、水田千華子さん、小田帆夏さんに話を聞いた。

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高校生

京の伝統野菜の危機

おばんざいや精進料理、独特の精彩を放つ京都の食文化に欠かせない京野菜。今、流通しているものは、そのすべてを京都で作っているとは限らない。中には、種さえも海外で生産されている野菜もある。名前の持つイメージが先行する「京野菜」。京都の食文化を支える野菜の現状を追うと、固定種の減少という事実にぶつかる。
いま、明治以前から京都で栽培されている「京の伝統野菜」は存続の危機にある。伝統野菜は、生産者が種を保存し、それぞれの家で先祖代々守りつないできた。長い年月をかけ、自家採取してきた種は農家にとって門外不出の財産。農家は高齢化、後継者の不在などで、生産ができなくなったら、種を他者に委ねることをしないで、その事実を受け止める。そのため、生産者が数件しか存在しない伝統野菜は、いずれ途絶えてしまうという命運をたどる。すでに絶滅した種もある中で「今ならまだ間に合う」と、伝統野菜を守るために立ち上がった高校生たちがいる。

桂高校

負の連鎖の気付き

京都府立桂高校の松田俊彦教諭と生徒たちが、京の伝統野菜の種を未来につなぐ活動を始めたのは2009年のこと。松田教諭が授業で水菜を育てようと、その種を手にした際に、採取地名がイタリアと記載されていることに気が付いたことに端を発する。生徒と一緒に調査を進めると「固定種の減少」とその理由にたどり着いた。
例えば、京野菜の中でもポピュラーな九条ネギ。ラーメン人気に伴って知名度の高い九条ネギは、細ネギ(浅黄種)と太ネギ(黒種)の種がある。ラーメンで用いられるのは前者。太ネギはその大きさや栽培期間の長さなど扱いにくさが先に立ち、需要の減少も重なって、栽培農家が激減した。固定種の太ネギが市場から姿を見せなくなることは、伝統野菜のひとつが途絶える兆候となる。負の連鎖の存在を知った。

桂高校

【関連記事はこちら!】伝統野菜「京野菜」の歴史と成り立ち

伝統野菜のバトンをつなぐ

植物クリエイト科、園芸ビジネス科を有する同校。もともと“農”に関わる学科の生徒たちは「伝統野菜を守りたいという」使命感を覚え、種を持つ農家を調べ、一軒一軒訪問してまわった。同じ時期に、行政も「種を残すこと」を公益と捉え、農家に種の提供を求めたが、協力を得ることは困難だった。
その状況で高校生が訪れても、すぐに家宝である種を手渡す農家はなかった。「はじめの数年は、何度も訪問し、場合によっては農作業を手伝うことで、少しずつ信頼を得ていく日々だった」と松田教諭は当時を振り返る。
生徒たちは「学校を伝統野菜のシードバンクにしたい」という目標を掲げ、農家に通った。生徒たちの気持ちは農家に伝わり、一軒、また一軒と種を分けてくれるようになった。活動を始めて9年目の2017年には、校内の農場で14種類の伝統野菜を栽培するまでに至っている。
9年に及ぶ活動期間は、生徒たちの役割を変化させた。活動当初の生徒たちは、農家に種を分けてもらう活動が中心。それを引き継いだ時期の生徒は栽培に力を入れた。伝統野菜は栽培方法が難しく、害虫や病気に弱い。種をつないでいくことに集中し、手間と時間がかかること、大量生産ができないことを実感する。農家が生産を断念する意味を、身をもって知った次の世代は「野菜の使い方」をテーマに置く。

未来に続くリレー

種を分けてもらう農家との交渉から栽培まで、生徒たちがその全てを担うことは、活動を始めた2009年から変わらない。「生徒が主役。結果を追い求めて、大人が介入しては意味がない」と松田教諭は話す。
農家が作物を生産するのは、そこにニーズがあるから。ニーズがあっても大量生産ができないというジレンマを抱えながらも、一定の市場需要を担保しなければ、農家自身が栽培を断念するのは当然の結果。先輩たちからバトンを受け継いだ現役世代の関心は、野菜の流通、消費に向かった。栽培から消費まで、一連の野菜のサイクルに携わる。生徒たちは「伝統野菜の食べ方の提案や、加工品に姿を変えて消費者に届けること」に取り組み始めた。その一つが、フードグランプリでも好評だった「京伝統野菜ピクルス」。関西で原材料の野菜にこだわる製品作りに定評がある企業「イズミピクルス」と共同開発した商品は、カットの仕方や調味酢のバランスを工夫した。
京都髙島屋の食店舗とは、2013年から取り組みを始め、2017年の秋は、地下食品売り場の前面バックアップで「伝統野菜フェア」を行う。地下食品フロアの店舗に自分たちで育てた野菜を提供し、それぞれの店がオリジナル商品を販売するイベントは、11月1日から同14日まで開催。
「今年は初めて青味大根やすぐき菜なども提供します。フェアに間に合うように栽培しているのですが、天候とスケジュールの間でドキドキしています」と話す生徒たち。自分たちが手掛ける野菜の話をする目は輝きを増す。

「京都の人でも知らない野菜は究極の伝統野菜だと思う。京の伝統野菜をつないでいくためにも、まずはその存在を知って欲しい」。
伝統野菜を守る桂高校の活動は、京都で生活する高校生だからこそできること。地域に寄り添い、地域愛を育む。これからも高校生らしいアイデアと行動力で、未来へと伝統野菜をリレーしていく。

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