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ITの力で養蜂の効率化を実現する 養蜂と果樹園の二本柱を目指して

ITの力で養蜂の効率化を実現する 養蜂と果樹園の二本柱を目指して

広島県廿日市(はつかいち)で養蜂場と果樹園を運営する、はつなな果蜂園の松原秀樹(まつばらひでき)さん。ミツバチの飼育を効率化するためのIoTシステム「Bee Sensing」の開発にも携わっています。15年間勤めたIT企業をやめて、なぜ農業を始めたのか。背景にある思いをうかがいました。

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巣箱の温度と湿度を把握する

広島県廿日市で養蜂をしています。世界遺産の宮島や故郷の大野浦など5ヶ所に養蜂場があり、巣箱は合計すると70ほどあります。春から夏にかけてミツバチが採ってくる花の種類によってはちみつの味、色や香りが変わります。ミツバチの活動範囲は半径3km前後ですので、養蜂場や収穫した時期、年によって全く違う味になります。その違いを楽しめることが、はちみつの醍醐味です。私が作るはちみつには、収穫した場所と収穫日を記載し、消費者が違いを楽しめるようにしています。

ミツバチは冬の間は巣箱からあまり出ず、中で集まって温度を維持しています。巣箱を開けてしまうと温度が下がってしまうので、基本的に中の確認はしませんが、中の餌が足りなくなっているときなど、緊急事態のときだけ対応が必要になります。2月から3月頃になるとミツバチが外で活動を始めます。それから11月頃までの間は、10日に1回ほど巣箱を開けて、蜂群の状態を確認します。新しい女王蜂が生まれてきそうなときや、蜜や花粉などの餌が不足しているとき、病害虫の発生時などに適時対処します。

基本的には巣箱を開けないと中の状態はわからないので、全ての巣箱を一通りチェックしますが、それでは作業時間もかかり非効率的です。効率よくチェックを行う目的で巣箱の状態を記録し、作業前に前回の状態を参照することができるIoTシステム「Bee Sensing」の開発を行っています。巣箱の温度と湿度を測り、人工知能を活用して巣箱中の異常検知を目指しています。

ミツバチは子育てするために、巣箱の中心部を一定の温度に保つということが知られています。また、湿度が高すぎてもミツバチの健康状態に悪影響が出ます。ミツバチは、花から取ってきた蜜を羽で扇いで水分を飛ばし、はちみつの糖度を高めます。飛ばされた水分が巣箱内の湿度を上げてしまうので、巣箱の出入り口から外気を循環させて湿度を下げます。新しい空気が入ってくると今度は巣箱中の温度が下がってしまうので、蓄えた蜜を消費して発熱し巣箱中の温度を上げるのです。

巣箱内の温度と湿度を測り、例えば餌不足による低温の異常値が生じたら餌やりを行うなど、ミツバチが発熱できる環境をつくります。今は温度と湿度に加えて、ミツバチの健康状態をデータとして溜めている段階で、データを検証して適切なタイミングで対処するためのモデルづくりをしています。システム自体は東京の会社がつくり、すでに販売も行っています。私は販売代理やデータ蓄積のサポートをしています。

就農してから3年目になり、はちみつの収穫量が安定してきたので、販路の拡大にも乗り出しています。今は広島県内がほとんどですが、今後は東京や大阪など全国にも出荷したいと考えています。

「食に関わりたい」という思いを持ち続ける

もともと、小さい頃から農業には興味がありました。登山をしていたので自然は身近でしたし、中学生時代に山口県の周防大島へ行ったときに、山の斜面に広がるミカン畑を見て、自分もやってみたいと思ったのです。実家では家庭菜園で野菜をつくったりもしていました。ただ、農業で生計を立てるイメージが持てず、大学卒業後は東京でIT企業に就職しました。

本格的に農業をやりたいと思ったのは、社会人10年目の頃。当時、食品偽装問題などが起こり、食の安全性が社会で叫ばれていました。自分たちが食べているものに改めて関心を持つと、売られている食品が本来の食品ではなく代用食品のようにしか思えなくなってしまって。自分で食べ物をつくりたいと考え始めました。

日本の農業人口は減っていましたが、逆に人が減っているなら、自分にもチャンスがあるのではないか。週末農業よりもっと踏み込んで、自給自足のような生活をできないか。そんなことを考え始めたとき、妻から「農の学校」という農業体験プロジェクトのチラシを渡されました。そのプロジェクトに参加することを決め、それから4年間、毎週末のように東京から小田原まで車を走らせ、農家の手伝いをしながら農業を学びました。

肉体的にはキツかったのですが、すごく楽しかったです。体を動かす爽快感もありますし、土に触れている満足感や、作物が育つ喜びもありました。お世話になった農家は、自分で直売所や生協に販路を持っていました。農業では食べていけない、と言われますが、作ったものの出口さえつくればなんとかなることがわかりました。

「やればよかった」という後悔はしたくない

4年間農の学校に通った後は、農業を始めたい人向けの農業大学校に通いました。将来的には、地元の廿日市に戻って、ミカンなどの柑橘類を育てようと考えていたのですが、果樹は収穫時期が限られるうえ、苗木を植えてから最初の収入まで3年程度かかります。学校で販路の作り方やブランディングを本格的に学びながら、年間を通して稼ぐヒントを得ようと考えていました。

その学校で養蜂と出会いました。色々な講座がある中のひとつに、養蜂の講座があったのです。果樹や野菜を学ぶ機会はたくさんありますが、養蜂家の話を聞く機会はあまりないと思って体験に行きました。最初は興味本位でしたが、講座で色々と話を聞くうちに、果樹園より先に養蜂から始めることに決めたのです。

はちみつは4月から9月の間に何度か収穫することができるので、柑橘と組み合わせて通年で安定した仕事量になります。また、はちみつは腐らないので在庫を確保しておくこともできます。しかも巣箱とミツバチさえ準備すれば、すぐに始めることができるので、投資を回収する速さも魅力的です。しかも、日本国内で消費されるはちみつのうち、国内産は7%程度。国産はちみつ市場に可能性を感じたのです。

柑橘類と養蜂の二本柱ならやっていけるだろうと考え、農業大学校に通い始めて半年ほどしたタイミングで会社をやめました。不安はありましたが、50歳、60歳になってからでは、体力的な不安も生じて一歩踏み出しづらくなってしまいますし、そのまま会社に残っていたら、農業をやらなかったことを会社のせいにしてしまうかもしれない。「やればよかった」という後悔はしたくないと思い、挑戦することにしたのです。

ミツバチのための花畑付きの養蜂場を

会社をやめてから広島県福山の養蜂家の元で半年ほど修行した後、宮島で養蜂を始めました。宮島は世界遺産ですし、人の手が入っていない自然が残されている場所がたくさんあります。江田島ではできるだけ農薬が使われている田んぼなどからは離して、柑橘類が育っている場所で始めたいという思いもありました。

また、すぐにBee Sensingの開発にも乗り出しました。養蜂の修行をしている段階から、作業を効率化する必要性を感じていたのです。どれだけの数、巣箱を管理できるかによって、はちみつの収穫量にはある程度上限が決まります。巣箱をチェックするスピードを上げるのにも限界があります。収穫量を増やして収入を上げるためには、より多くの巣箱を管理できるよう効率化することが不可欠でした。細かくチェックするべき巣箱とそうではない巣箱を判別し、限られた時間でより多くの巣箱を管理するために、温度と湿度を測るIoTシステムを開発することにしたのです。

【関連記事】全国の地域おこしに発展 2006年始動「銀座ミツバチプロジェクト」

今年で、養蜂家になって3年目になります。はちみつをつくりながら、果樹園の準備も同時並行で進めてきましたが、柑橘はまだ量・質が十分ではありません。はちみつの収穫量が安定してきたので、今後は果樹園にもっと力を入れたいと考えています。

また、養蜂場も増やす予定です。今度は牧場に、花畑付きの養蜂場をつくることを検討しています。私たちはミツバチが子育てや越冬するための、はちみつの一部を頂いています。ミツバチから頂くだけではなく、ミツバチが蜜を採ってくるための環境も整えられたらと思うのです。

一般の方にとって、はちみつをつくっている現場を見ることはあまり多くないかもしれません。ぜひ一度養蜂場に足を運んでもらいたいと考えています。当たり前のことですが、安心・安全で誰に見られても困らない環境でつくっていることを知ってほしい。どんな作業が行われているか、背景にあるストーリーや商品の奥にある人の生活をお届けし、はちみつを適正な価格で購入してもらえるようにしたいと思います。

はつはな果蜂園

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