周囲の反対を押し切って8年前に就農した大皿一寿(おおさらかずとし)さん。
勤めていた会社を辞め、今は専業の有機農業家として活躍しています。
家畜のヤギが除草をするという、今どき珍しいユニークなスタイルも地域の話題になっています。
有機農法は特に厳しいと言われる中、どうやって事業を軌道に乗せたのか大皿さんにお話をうかがいました。そこには「兼業」「差別化」「常連客」という3つのキーワードがありました。
成功の理由1:スタートは「兼業農家」だった
-脱サラして農業をはじめるのは大変だったのでは
僕は以前サラリーマンで、42歳で就農しました。
最初は兼業農家だったのですが、農業一本になったのは3年たってからです。
兼業の時は奥さんと研修生に農作業を頼み、週に2~3日畑に出ていました。
それでも、専業農家になって最初の2年は大変でしたね。
ビニールハウスを買ったり井戸を掘ったりと…かなり投資しました。
うちは子供がまだ学生で、家族を養わなくてはいけなかったからです。
最初から専業だったら、労力的にも経済的にもかなり厳しかったと思います。
成功の理由2:有機農法と家畜で「差別化」した
-そもそも、なぜ農業の世界に入ったのですか
農業をやろうと思ったきっかけは、勤めていたときにアルバイトの子の食生活の乱れが気になったからです。毎日ジャンクフードを食べているのを見て、彼らが体調を崩したり精神的に不安定になったりする原因が「食」にあるのではないかと考えたからです。
そこで、僕が無農薬で作った野菜を職場に持っていって、アルバイトの子たちに食べてもらうことにしました。すると、何となく彼らの表情が明るくなったのです。食事中の会話も増えました。
-それで無農薬にこだわっているのですね
農業をはじめる時に、県の就農支援センターに相談に行ったのですが「初心者が無農薬は難しい」と言われました。
でも、どうせやるなら僕はどうしても無農薬にこだわりたかった。その後、神戸市内で有機農法を
とりいれている農家さんを見つけて、一年ほど勉強しに行きました。有機に関する本もたくさん読みました。
-なぜヤギを飼っているのですか?珍しいですよね
今年になり、家畜として二匹のヤギを農園に迎えました。有機をはじめた時から「いつか家畜を飼ってみたい」という思いがあって、特にヤギの除草に興味がありました。
実は以前、飼っていた犬が近所の草を食べて亡くなると言うショッキングな事件がありました。
おそらく、強い除草剤がまかれていたのではないかと考えました。こういった事があり、除草剤は使わないので人が刈るしか
ないのですが、どうしても手が回らないこともありました。
そこで調べてみると、日本でも、昭和初期ごろまでは除草のためにヤギを飼うことが普通でしたが、今はほとんど見なくなりました。草刈り機を使わないからCO2発生も抑えられるし、刈り取った草の処分もありません。ヤギ除草にはメリットがたくさんあります。
昔の農家はヤギのミルクをよく飲んでいたらしいです。母乳の変わりに赤ちゃんに飲ませることもあったようです。
-ヤギはどれぐらい草を食べるのですか
実際にヤギを飼ってみてビックリしています。1日中、ずっと食べています。
一日一頭で6畳分ぐらい食べているんじゃないかな。どんな雑草でも、大抵の草は食べてしまいます。
今後は私たちの農園だけではなく、地域で管理している土手の草なども食べてもらう予定です。
-有機農法とヤギ、どちらも自然環境にやさしいやり方ですね
有機農法にはずっとこだわり続けてきましたし、ヤギが除草するという独自のスタイルもできて、結果的に他の農園と差別化ができたと思います。これからの時代、農業の新規参入に「差別化」は不可欠でしょうね。
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成功の理由3:お客さんとの対話で「常連さん」が増えた
-事業が軌道に乗り始めた転機はあったんですか
3年前からファーマーズマーケットに出店しはじめて、“売り方”は劇的に変わりました。お客さんと直接話をすることで、継続して野菜を買ってくれる常連さんが増えました。特に30代の主婦の方が多いので、SNSでも積極的に情報発信するようになりました。それを見て、農園に直接買いに来てくれるお客さんもいます。
-農園に来た方のヤギに対する反応は
みなさんに、可愛がっていただいています。ついこの間も、近隣の高齢のご夫婦がわざわざヤギを見に訪れて頂いて「ヤギがいる風景が懐かしい」とお話していました。
ヤギはとても人懐っこくて、農園のシンボルとしても活躍しています。ヤギが来てから農園に笑顔が増えました。可愛いので癒されます。
ヤギとともに耕作放棄地を復活させたい
-次の夢はありますか
農園の近くでも、少しずつ耕作放棄地が出てきています。そこを買い取り、ヤギで除草して田畑を復活させるのが次の目標です。交配させて頭数が増えてきたら、ヤギのミルクでチーズも作ってみたい。世話する手間はもちろんありますが、夢が広がります。
農業の世界にもいろいろな可能性があります。心が折れそうになることもあるけど、何歳になっても新しいことにチャレンジしていきたい。きっと、そんな思いにお客さんも賛同してくれると信じて、私たちはこれからも生産活動を頑張っていきます。
写真提供:片岡杏子、トランクデザイン