乳用牛頭数の減少に危機感
グラフを見てもわかるように、全国的に乳用牛頭数は年々減少しています。北海道においても過去6年間で、経産乳用牛(※)は約3万5,000頭、未経産乳用牛も約6,000頭減っています。このままでは、生乳生産量の維持拡大がのぞめません。
※経産乳用牛:出産を経験した乳用種のウシのこと
乳用牛頭数減少の原因として考えられるのは、個体価格高騰にともなう交雑種頭数の増加、子ウシや搾乳ウシの事故並びに繁殖成績の低迷などです。
北海道の農業産出額における、乳用牛の割合は36%と最も多く、畜産全体では5割以上を占めます。さらに生乳の全国産出額のうち、北海道は48%、乳牛については61%も占めており、北海道において乳用牛頭数の減少は深刻な問題であることがわかります。(※1)
酪農家それぞれがウシを長生きさせる努力を
これまで酪農経営の設備や機器の面においては、搾乳ロボットの導入などにより多頭化、大型化、自動化、外部化が積極的に進められてきました。その一方で、ウシの事故を減らし、健康に飼いながら繁殖させていくという飼育における細かな世話や配慮が軽視されてきました。
たとえば、北海道における2005年の乳用子ウシ等の死亡および事故頭数は、1万6,112頭、被害率は7.2%でした。このまま被害率が7%で推移すれば、北海道としては、経済的基盤の柱とも言える酪農産業に甚大な経済的損失が発生しかねません。しかし、10年後の2014年度のデータでも、被害率は6.9%とほとんど変化がみられなかったのが実情です。
これ以上、乳用牛頭数を減らさないためには、関係機関が一丸となって警鐘を鳴らさなければいけません。酪農家それぞれが危機感をもち、単純に頭数を増やす発想から、今飼っている母ウシや生まれた子ウシを可能な限り、長生きさせることに努めることが大切なのです。そのような動きが、今道内で一歩ずつ広がりを見せています。
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各酪農家の取り組みを具体的に紹介
乳用牛頭数を減らさないために各酪農家ができることは、乳用後継牛の確保と長命連産を図ることです。「生まれるウシを増やす」の3つです。
そこで北海道酪農検査検定協会がまとめた技術資料「これが私のやり方です!」では、酪農家が実践している3つの取り組みの方法について 、テーマ毎に紹介しています。
「死んでしまうウシを減らす」ための具体的な方法として必要なのが、分娩時に子ウシを死なせず死産率を下げること、出生後に子ウシを死なせず生後死亡率を下げること、母と子ウシ双方を死なせず廃用率・死産率を下げること。分娩後除籍率を下げることも大切です。それらの手法について、各酪農家の「私のやり方」を具体的に紹介しています。
たとえば、分娩後3ヵ月以内の子ウシの死廃率ゼロを誇る日高管内K牧場の場合。生まれた子ウシを死なせないために、できるだけ自然分娩をさせ、分娩後は必ず母ウシに子ウシを舐めさせ、へその緒を処置してから、子ウシを乾かし子ウシ用の小屋であるハッチに入れるようにしています。
子ウシの病気は、臍帯処置をしっかりするかどうかにかかっている、との畜主の考えからです。毎日子ウシの検温を実施し、早期に異常を発見するよう心がけています。さらに、健康な子ウシは健康な母ウシから生まれると考えているので、母ウシの健康管理も徹底させています。
最も大切なことは、飼養するウシがしっかり環境に馴致できていること、後継ウシを自家生産することに力を入れています。
「参考になった!」との声多数 今後に期待
「今まで、乳用牛の繁殖や誕生から成長までの過程を系統立てて技術的にまとめた資料はありませんでしたので、大変喜ばれました。また『ほかの酪農家がどのような取り組みをしているのかがわかり、大変参考になった』『これをきっかけに、自分たちの取り組みを見直していきたい』との声も寄せられています」と、取材に応じた北海道酪農検定検査協会、総務部担当の方も話していました。
「第7次 北海道酪農・肉用牛生産近代化計画」において2017年現在 、390万トンである生乳生産量を10年後までに400万トンにすることを目標に、乳用後継ウシの維持拡大と長命連産に向けた取り組みを行うこととしています。
命あるものを対象とした取り組みなだけに、すぐに結果につながるわけではありません。しかし、今後もしっかりと北海道の酪農家が、酪農生産基盤の維持拡大をはかっていくことを期待しています。北海道に限らず、ウシを育てている酪農家の方は、是非参考にしてみてはいかがでしょうか。