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食の大切さと家族で食事する喜びを伝えたい「農家の里親制度」始動へ

食の大切さと家族で食事する喜びを伝えたい「農家の里親制度」始動へ

神奈川県相模原市藤野で農家を営んでいる久保正英(くぼまさひで)さん。自然栽培という農法にこだわり春菊を栽培するだけでなく、食品関連コンサルタントや食育イベントの企画など多彩な活動を行いながら、児童養護施設の子どもを農家の里子として受け入れる「農家の里親制度」も近く始める予定だそうです。久保さんに、食にかける思いや食育活動、農家の里親制度などについてお話をうかがいました。

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食品メーカー勤務の経験から 食の安全性への意識が高まった

農家になる前は、パンやお菓子のメーカーに勤務されていたそうですね。

大学で発酵を学んでいましたので、納豆やパンなどを作りたいと、大手パンメーカーに就職しました。ペストリーを作る「ペストリー科」に配属され、工場で製造ラインの保守や商品管理などを経験しました。

入社1年目に、社内の商品開発コンテストでタラコとジャガイモ、マヨネーズを使ったフィリングのドーナツを提案したんです。そのアイデアが採用され、新商品の開発メンバーとして企画から製造、商品PRをする営業の仕事まで、ほとんどすべての業務を担当しました。

その後、ポテトチップスで有名な食品メーカーに転職し、ポテトチップスの商品開発やマーケティング業務に携わりました。そのとき初めて知ったことが「記号消費」という考えです。商品パッケージにかわいいキャラクターをつけたり、テレビコマーシャルに出ている有名人を訴求する売場作りをしたり、表層的な動機をお客様に見出してもらって購買へ導くという施策で 、おいしさや安全性といった、商品品質に注目するのとは異なるマーケティング手法です。

「記号消費」に即したマーケティング力はとても高く、実際に数々のヒット商品を世に送り出していました。その経験から「商品に対する思いを強く持ちすぎず、距離を置いて消費者を俯瞰する」というスタンスを学び、現在行っているコンサルタントの仕事においてとても役立っています。

パンやお菓子作りの現場を知って感じたことはありましたか。

初めて工場で、大量にパンを作る機械的な工程を見たときはとてもショックを受けました。いろいろな疑問を上司にぶつけ、そのたびに衝突していました。製造過程で残ったパンをブタに餌として与え、その豚肉を加工してウインナーにするというプロジェクトの業務についたことがありました。

添加物や油脂がたくさん入った菓子パンと惣菜パンばかりをたくさん食べさせられて、ブタが体調を崩すことがあり、悩む時期もありました。この頃から自分が生産者として独立することを視野に入れていたので、食べるものについては妥協せず、安全で安心できるものを作ろうという思いが強くなっていきました。

その後、食品メーカーを退職されたんですね。

2006年にメーカーを退職し、食品コンサルタントとして働くことにしました。まずは食品業界内で食べ物への意識を変えたいと、食の勉強会を主催し、定期的な情報交換をすることから始めました。その中で、勉強会に集まった52社の企業の方と同年、社団法人「エコ食品健究会」を設立しました。

この研究会は、食文化や安全安心な食べものの正しい情報提供や環境配慮の啓蒙活動、被災地への炊き出しボランティアなども実施しており、現在も活動を続けています。その後、コンサルタントの仕事も並行しながら、野菜を作り始めたのが2007年のことです。

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食べ物の大切さを子どもたちに伝えたい

現在行われている食育活動について教えてください。

種まきから始め 、収穫も行い、1年半かけてポテトチップスやポップコーンを作るというワークショップや、相模原市の団体とコラボレーションして、地域の野菜を知らない子どもたちを募り、畑の作業を体験してもらう「こども農家」という食育イベントなどを開催しています。どちらも「食べるものをすべて自分で作ってみる」というコンセプトにもとづいて、子どもが参加しやすいように企画したものです。

ポテトチップスの場合、ジャガイモを自分で畑に植え、成長を見守りながら世話をして、収穫する。塩に関しても、海から藤野に運んできた海水を煮沸して作っていて、材料すべてを自分たちで用意するんです。2017年11月からは養鶏場や漁師の方と共同で、麺からスープまで「即席めん」を2年かけて作るプロジェクトが進行中です。

これらのイベントは、料理を自分で作るのではなく、「食べさせてもらえる」と思って来ている子が多いんです。しかし、一から自分たちで作るという意義に気づくと、おいしいものを作ろうと没頭して、努力しはじめるんです。食の大切さ、食べものを自分の力で作ることの大変さや意味を子どもたちが理解してくれるようになり、多くの親御さんが驚かれます。最後は親子でとても満足してもらっています。

「農家の里親制度」で児童養護施設の子どもと高齢化問題を解決

子どもたちに「食」に関してどんなことを伝えていきたいですか。

私は少年時代、家庭の事情で児童養護施設で育ったので、家庭での食事をしたことがありませんでした。施設にいるとき、友人宅の夕食に招いてもらったことがありますが、家族で食事をすることが一番うらやましかった。だから家族で食べることの大切さ、それがどれだけ幸せなことなのか、そして自分たちで手をかけて食べものを作ることの重要性を伝えたいと思っています。

2017年から、身寄りのない子どもたちに対して「農家の里親制度」を始める予定です。児童養護施設の子どもたちを、農家に里子としてお預けし、農業を手伝う代わりに、家族と同じように一緒に生活してもらうという制度です。自分と同じような施設で育った同期生は、中卒の学歴の人が多いですし、社会的にとても厳しい人生を送っている人が多いのが実情です。

私の師で、完全無農薬でリンゴを育てている農家の木村さんが、農家について「自分の好きな作物を好きなように作って、社会で独立していくことができる」と話していました。社会的に厳しい境遇にいる人でも、農業なら社会的に自立できる力をつけられると思いますし、過疎化や高齢化が進んでいる農家を助けることができ、一石二鳥の利点があると思うんです。

基本的に農家は 、自分のポリシーと熱い思いをしっかり持った人が多いんです。そこに身寄りのない子どもたちを救える可能性がまだあるのではないかと長い間考えていたのですが、そのプロジェクトをいよいよ開始できる段階まできています。精一杯チャレンジしていきたいと思います。

安心安全な食べものを作るというミッションのもと、自然栽培の農家としてこだわり抜いた春菊を作りながら、食品関連コンサルタントとして業界の意識を変えていこうと励んでいる久保さん。「食」や「農業」をきっかけにした子どもたちへの活動には、久保さんの「食べ物を大切にしてほしい。家族と食事する喜びを知ってほしい」という温かい思いが込められてるのではないでしょうか。

シンプル・ベジ
https://simple-vege.jimdo.com/

社団法人 エコ食品健究会
https://ecoken-workshop.jimdo.com/

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