1:ネット集客だけに頼ってはいけない
インターネット(以下、ネット)が発達し、個人の農家がホームページを作って消費者に直接販売することが多くなり、ネットでの販売に力を入れたいと考えている方は増えているでしょう。しかし、久保さんは「ネット集客にだけ頼ってはいけない」と指摘しています。
「ネットと実像は違う、ということを理解する必要があると思います。もちろんネット販売によって、農家の存在を知るきっかけになるという利点はあるのですが、ネットだとイメージだけで農家や作物のことを判断してしまいがちになりますし、お客さんとして定着しにくいという問題があります。これまで、JAにだけ出荷していた小規模農家さんが宅配や商店の直売をめざすのであれば、どんな人達が買ってくれるのか 。まずはお客さんと「顔の見える関係」を構築することを優先するべきです」(久保さん)。
ある八百屋さんから聞いた話ですが、「有機野菜だからうちの野菜を買ってほしい」と、突然農家から営業のメールが届くことがあったそうです。野菜を販売する農家と、野菜を仕入れる八百屋の間に、信頼関係ができてこそ取引ができるという基本的なことをわかっていない典型的な例だと、久保さんは言います。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)は、そういったビジネスの関係が、いかにも簡単に構築できるような錯覚に陥りやすいという点があります。ネットでのお客さんも、対面販売をするお客さんでも、考え方は一緒です。どんな方が自分の野菜を買ってくれているのか、どんな好みなのか、といったことに気を配ることが大切です。
さらに、自分が育てた野菜の味を正しく評価できる感覚も必要だと言います。
「農家はこだわりが強く、自分が一番だという錯覚に陥りやすいです。いつも自分の野菜ばかり食べているため、他の方が作った野菜を食べることが少ないと思うんです。私は地方に行ったときには、現地の春菊を探して食べています。そこでおいしいものに出会ったら、農家に電話で問い合わせして会いに行くこともよくあるんです。そのような客観的な感覚を常に持っていなければと思っています」。
2:赤字にならない価格を設定する
どんなに頑張って働いても利益が出ないのは、野菜の価格設定が正しくできていないことが原因かもしれません。
「私の場合、業務用の卸値は一律、1グラムあたり2.1円と設定しています。自分の人件費とガソリン代、梱包材など、様々なコストを計算したうえで、出荷見込みを売り切った際の損益分岐点を算出します。そこから価格設定をしているのです」。そんな久保さんでも、最初はコストのことは意識しなかったため、忙しく働いているのに赤字続きだったそうです。
「段々とコスト計算ができるようになり、戦略的な価格設定と、それを売り切るための手法に注力するようになりました。どんぶり勘定の農家も多く、確定申告で赤字に気づいてビックリなんていう話を聞きます」。
農業という事業で利益を出すためには、支出と収入を考えて正しい価格を設定するというのは基本中の基本なのでしょう。
3:効果的にイベントを企画する
消費者へのアピールが苦手な農家も多いと思いますが、久保さんは農家もエンターテインメント性を持つべきだと言います。そのほうが、人はモノを買いたくなる 、というのが理由です。一つの方法として考えてみたいのが、イベントの開催です。
「私は『春菊会』というイベントを開催していますが、自然栽培の春菊に意識を向けてもらうということ、そこで集まった人に自分の自然栽培に対する思いを伝えることができるという効果があります。こだわりの農法だからこそ、今までそのような野菜を食べたことがない人に、自分の作物に対する思いを伝える手段としてイベントを企画して行っているんです」。
食品メーカーで商品開発していた経験から、商品を口にしたときの「違和感」 がアピールポイントにつながると学んできたそうです。「あえて出来が不十分だったB品をお客さんに食べてもらうことがあります。出来が決してよくないわけですから、食べた人は味や食感に疑問を感じるのですが、その後に自信を持っておすすめできるA品を食べてもらって、味の違いに気付いてもらい、自分の野菜のおいしさを発見してもらうんです」。
農家も様々な側面からマーケティングセンスが必要とされている時代です。良いものを作るだけではなく、いかに購入してもらえるかを考えていくことが、農家が成功するためには大切なのでしょう。
シンプル・ベジ
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