ウシの健康データを取得 注意が必要なウシを自動で通知
腕時計のように人の手首につけるだけで、歩数や移動距離、睡眠時間、消費カロリーなどのデータが自動的に取得され、健康管理に役立つ「ウェアラブルデバイス」が広く活用されています。
これと同じような仕組みを乳牛、肉牛で実現したのが、「Farmnote Color」です。
加速度センサーがついたウェアラブルデバイスをウシの首に装着すると、ウシの活動量や反芻時間、休憩時間などを、24時間リアルタイムで取得し、クラウドに送信される仕組みです。それによって発情や疾病の兆候があり、注意するべきウシが自動的に選別され、牧場管理者のスマートフォンやタブレットに通知されます。
ウシ一頭ごとにAIがデータを学習していくため、個体差を考慮した分析がされ、同社の実証実験では発情検知率90%という高精度の結果を残したそうです。
「日本ではウシに万歩計を付けるというシステムがすでにあったのですが、Farmnote Colorでは加速度センサーとクラウドを利用し、人工知能と組み合わせることで精度向上と、発情や疾病といった兆候の見極めを強化しています」と阿部さん。
鹿児島県のある畜産農家は、子ウシの価格高騰のため、自社繁殖に力をいれておりFarmnote Colorを導入しました。すると、発情発見率が導入前に比べて2倍から3倍に上がり、精度の高い人工授精が可能になったそうです。
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開発のきっかけは「畜産のIT化」の相談を受けたこと
株式会社ファームノートは、クラウド型牛群管理プロダクト「Farmnote(ファームノート)」を2014年に開発し、それに付随したサービスFarmnote Colorを2016年に開発しました。同社の開発のきっかけは、偶然のことだったそうです。
「東京の大企業向けに、CMS(ウェブコンテンツの管理システム)開発などシステムインテグレーション事業を行っていた、株式会社スカイアークがファームノート発足の前身となります。同社は帯広に本社がありますが、農業とはまったく縁がありませんでした。しかし、地元企業から『ビジネス用の顧客管理システムを応用して畜産に利用できないか』と相談を受け、それが開発のきっかけとなりました。
それまでも、海外製品などでウシの動態を管理するシステムは存在していましたが、農家の方が毎日の飼育で使うには難しいものでした。そこで、スマートフォンを通じて誰でも簡単に飼養管理ができるウェブサービスを提供できないかと考え、Farmnoteの開発が始まりました」。
開発には獣医師もメンバーに
ウェブサービスのシステム構築についてはプロであっても、酪農や畜産に関する知識はまったくの素人。阿部さんが「サービスの検討、設計にあたっては苦難の連続でした」と言うように、畜産に関する膨大な文献や論文を読んで知識を深めることから始まりました。
酪農と畜産でも必要となる知識が異なることから、獣医師やコンサルタントも参加した別会社「株式会社ファームノート」を2013年11月に立ち上げ、本格的にサービス開発に取り組むことになったそうです。
「酪農畜産農家の方々とも何度も議論を重ねながら開発を進め、ファームノート設立1年後の2014年11月に、クラウド型牛群管理プロダクト『Farmnote』の正式発表にたどりつきました。そして2016年8月には、人工知能が牛の行動データを分析するウェアラブルデバイス『Farmnote Color』をリリースしました」。
病気や投薬、分娩といったウシの個体管理は、それまで多くの農家が手書きでノートに記録をとっていましたが、Farmnoteでは一つの画面ですべての管理ができます。Farmnote Colorによって、牛の発情や疾病兆候の検知が可能になったのです。
「目指したのは、酪農畜産経験が豊富ではない方でも就農できるシステムです。これまで経験や勘に頼っていたウシの管理ですが、AIを活用することで、経験が浅い方でも効率的な飼養ができると思っています。そして、酪農畜産農家の方の所得が1円でも上がってほしいと願っています」。「今後は、より多くのデバイスやアプリとの連携を視野に入れ、日本の農業に幅広く貢献できるITサービスに成長させていきたいです」と阿部さん。
ウシの飼養だけでなく、農業界全体において、データに基づいた効率的な管理システムの開発はますます進んでいくものと考えられるでしょう。