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ビールの“中身”を見せてください vol.3:【準備編】国産副原料の基礎知識

ビールの“中身”を見せてください vol.3:【準備編】国産副原料の基礎知識

ドイツで1516年に公布された「ビール純粋令」では「ビールは大麦、ホップ、そして水のみを使い醸造する」ということが定められました。しかし、ドイツ以外の国では規定以外の原料が使われている場合もあり、それを「副原料」と呼んでいます。第3回では、この「副原料」の基本を学びつつ、国産の副原料に注目して紹介していきます。

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副原料によって変わる分類

国内のビールと発泡酒の分類(2017年9月現在)

副原料は種類により、ビールをすっきりした味わいにしたり、副原料自体の特徴から味や香りに個性をつけることができます。日本では酒税法の規定で、加える副原料の種類によっては、ビールではなく発泡酒などに分類される場合があります。

<ビール>

■水、ホップ以外の原料において、麦芽の使用比率が2/3以上のもの

■ビールに使用可能な原料(※1)を発酵させたもの

■「アルコール度数が20%未満のもの

■酒類で発泡性

<発泡酒>

■原料の一部に麦芽または麦を使用したもの(※2)

■アルコール度数が20%未満のもの

■酒類で発泡性

※1 麦芽・ホップ・水以外に、麦・米・トウモロコシ・こうりゃん・馬鈴薯・デンプン・糖類・カラメル

※2 使用量にかかわらず麦芽を使用していれば、他に何を加えても良い。また、麦芽の使用比率に応じて酒税率は分かれる。

※その他、麦芽を使用しない<その他の発泡性酒類>がある。

発泡酒というと節税型の発泡酒を想像しやすいですが、その原料がビールと全く同じでも、法律で定められた原料以外の副原料が加わると発泡酒の分類となり、ビールと同じ税率となります。

副原料を使う銘柄をビアフェスで調査

副原料が使われている銘柄は多種多様です。実際にどのような種類があるのか、2017年8月30日から9月3日に、さいたまスーパーアリーナで開催された「けやきひろば秋のビール祭り」を訪れ、会場を一周して調査しました。いかに様々な副原料が使用され、数え切れないほど様々なビールの種類があるということがわかります。

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副原料を使う目的とは

副原料は輸入の場合もありますが、国産の農産物を使う事例も多く見られます。地元のJAと連携しているケースも多く、例えば、宮崎ひでじビールでは宮崎県の一次産業活性化を目指す「宮崎農援プロジェクト」と連携し、宮崎県産の金柑、日向夏、ゆずを使った「Miyazaki no Minori」シリーズなどを、人気を博しています。

副原料を使うきっかけは、生産者側からの売り込みというものが多かったのですが、中にはブルワー側が頼み込んで使う場合もありました。例えば、愛知の「Y MARKET BREWING」のブルワーは、長野県の井筒ワインが作るワイン用白ブドウのナイアガラの味の惚れこみ、どうしてもそれを使って醸造がしたいと直談判して『白ブドウのビール』をつくったのだそうです。

その他少数派ではありますが、vol.1の大麦編で紹介した埼玉の麦雑穀工房マイクロブルワリーのようにほぼ自社栽培で副原料まで作り、醸造している例もあります。

この調査から見えてきた「副原料を使う目的」として、特に国産の副原料を使う場合、味に変化をつけるだけではなく、主に以下が考えられます。

1. 季節を表現する(限定品をつくる)

2. 日本国内で他との差別化として地域の特徴を表現する

3. 日本人の原点である日本らしさを表現する

ちなみに、2012年にビールのオリンピックと呼ばれる世界最大の品評会「ワールド・ビア・カップ」では、大阪の箕面ビールがつくる『ゆずホ和イト』がフルーツウィート部門で見事金賞を受賞し、ゆずの魅力を世界に伝えるきっかけとなりました。また、日本外国特派員協会主催「世界に伝えたい日本のクラフトビール2016」では、試飲による投票で、岩手のいわて蔵ビールの『山椒ビール』が見事グランプリに輝きました。このように、日本のアイデンティティを打ち出すことに副原料は非常に効果的な役割を果たしています。

台風被害を受けた傷のあるリンゴでつくる『アップルシナモンエール』

2017年9月、日本列島を台風18号が縦断し、各地で大きな被害がありました。長野県伊那市でもこの台風の影響でリンゴに被害が出たため、神奈川のサンクトガーレンでは、ハロウィンの時期に毎年醸造する『アップルシナモンエール』を傷のあるリンゴを使い、醸造したそうです。

サンクトガーレン広報の中山美希(なかやまみき)さんにうかがったところ、「基本的には毎年「訳ありリンゴ」を活用して醸造しています。その他、人気の『湘南ゴールド』や『甘熟桃のエール』も同様に「訳あり」の果実を使っています。国産果実はまさに“作っている人の顔が見える”ので、誰がどんな場所でどんな想いで作っているのかを理解できて、安心して仕入れることが出来ます。ただ、価格が高いので大量に使うと採算が合いません。そのため、当社ではこういった「訳あり」を利用することで、より良い品質のものを価格を抑えて使用しています。そんな経緯で、今回はこの台風被害を受けたリンゴを使用することになりました」と話してくれました。

傷リンゴはまずオーブンで焼き上げる

テロワールを表現するビール造りにも一役

ワインの世界では、その土地で育てるブドウのみで醸造し、畑の性格がワインに表れることを“テロワール”と呼びます。ビールにおいても100%地元産での醸造にトライしているブルワリーもありますが、なかなか難しいのが現状です。しかし、副原料に地域特産のものなどを使うことで、まるでワインのようにその土地を感じる個性のあるビール造りができます。

副原料はビールの新たな表現を助け、ビールの世界を広げることができる実に面白いビールの“中身”です。「おいしい!これ、なんの味だろう?」と思ったら、これをきっかけに、ぜひ原材料の表示で“中身”をチェックしてみてください。

※副原料の種類により発泡酒に分類される場合も含め、ビール類を文中で“ビール”と総称して表現している部分があります。

取材協力

サンクトガーレン有限会社

大沼ビール/ニセコブルーイング/鳴子の風/みちのく福島路ビール/BLUE MAGIC/うしとらブルワリー/常陸野ネストビール(木内酒造)/九十九里オーシャンビール/麦雑穀工房マイクロブルワリー/越生ブリュワリー(麻原酒造)/南横浜ビール研究所/FAR YEAST Brewing/宇佐美麦酒/KISOJIビール/Y MARKET BREWING/伊勢角屋麦酒/エチゴビール/スワンレイクビール/胎内高原ビール/國乃長ビール(寿酒造)/黄桜/ビアへるん/大山Gビール/独歩ビール(宮下酒造)/山口地ビール/ブルーマスター/宮崎ひでじビール/

城山ビール/霧島ビール/ヘリオス酒造(順不同)

編集:ビール女子編集部

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