日本の農業の仕組みを変えていきたい
東京メトロ東西線神楽坂駅からすぐ、早稲田通り沿いの賑やかな商店街の中に「神楽坂野菜計画」はあります。店頭にはいつも新鮮で彩り豊かな野菜が並び、明るい雰囲気に満ちています。
もともと八百屋を目指していたわけではなく、労働環境の過酷さや利益が出にくいシステムなど、日本の農業の抱える問題を解決できるような仕組みを作りたかったという伊東さん。八百屋を開店する以前は、全国各地の農家をまわって困っていることを聞いたり、新しい仕組み作りのプランについて意見をもらったりしていたそうです。
ところが、「君みたいな人はよく来るよ。でも何かやってから来てよ」と門前払いされることもあったそうです。そこで考えを改め、「野菜を売るところから始めよう」と一念発起。約1年をかけて、取引する農家や物件探しを行い、2012年3月に「神楽坂野菜計画」をオープンしました。
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各地の農家をまわって必要な情報を伝えながら切磋琢磨する
生産の現場である農家と、消費の現場であるお客さんや宅配先のレストラン。八百屋を経営する中で、双方の生の声に日々触れるようになり、気付いたことは数多くあるといいます。その一つが、消費の現場と生産の現場との情報交換が極めて少ないことでした。
「そこで、農家から野菜を仕入れるだけではなく『この時期はこういう野菜がほしいです』『最近はこの野菜がこんなふうに売れています』と、消費者側の情報を農家さんに伝えるようにしました。他の業種では当たり前にやっていることなんですよね。マーケット調査から、試作品のテスト販売、その結果から商品化を目指す。それを農業でも実践したいんです。農家さんも本当は知りたいことですし、産直品を扱う店だからこそ出来るやり方だと思っています」(伊東さん)。
冷蔵庫やエアコンを効かせた室内で野菜の温度を下げてから出荷してもらえるよう、農家に伊東さんから依頼することもあるといいます。「予冷」することで、お客さんが購入したあとの野菜の持ちがグッと良くなるのだとか。細やかなリクエストは多岐に渡ります。
生産者と消費者を、できるだけダイレクトにつなげ、要望や考えなども双方に行き来させようとする伊東さんの思いが伝わります。
さらに、野菜そのものの鮮度はもちろんですが、消費者に必要とされる時期の把握、出荷できる農家の有無、配送など、八百屋の経営は刻一刻を争う場面が多く、情報の鮮度も大切だといいます。伊東さんは、「八百屋は情報戦だと思っています」と話しています。
買いやすい量と価格を心がけミニトマトも1個単位で販売
農家と協力し、お客さんのニーズに沿った野菜作りを大切にしていると伊東さんが話すとおり、店頭には珍しい野菜もたくさん並んでいます。お客さんにとって嬉しいのが、どれも小量で販売されていることです。カラフルなミニトマトやイチジクが1個単位で購入できるなど、一人暮らしの方にも買いやすいよう工夫されています。
「産直の難しさの一つが送料負荷です。1,000円かけて大根数本を送ってもらうわけにはいかないので、現地で複数の農家さんとまとめて配送してもらったり、数十種類の野菜を育てている農家さんから送ってもらったりしてコストダウンを図っています」。産地にはこだわらず、野菜をいちばん良い状態で販売出来るよう、鮮度や完熟度は常に厳しくチェックしているそうです。食べ方がわからない珍しい野菜も、店員さんが選び方や食べ方を丁寧に教えてくれるので安心です。
「お客様の中には声をかけるのが苦手、という方もいらっしゃるはずなので、食材の説明やレシピを細かく書いてPOPからも情報が伝わるように心がけています」と伊東さん。
「日本の農業を変えたい」という大きな志を胸に、神楽坂から全国のおいしい野菜を発信する八百屋です。現在、野菜を販売するだけでなく、野菜の栽培を始めるプロジェクトも進行中だそうで、今後どんな展開を行っていくのか期待が膨らみます。
神楽坂野菜計画