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学校も地域も田力本願 ケルネル田圃の歴史と今

学校も地域も田力本願 ケルネル田圃の歴史と今

筑波大学附属駒場中・高等学校では、水田・お米づくりを核とした教育を行っています。それはこの学校の前身が近代日本における農学の基礎を築いた学校だったから。その歴史は彼らがお米を育てる目黒区立駒場野公園内の「ケルネル田圃」とつながっています。
「日本農学発祥の地」と言われ、今なお子供たちの教育に活用されているケルネル田圃。都心の間近で、時代を超えて守られてきた田圃が秘めるストーリーを探求していきます。

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ケルネル田圃

ケルネルと明治の殖産興業政策

ドイツから来た農学者
ドイツ人の農芸化学者、オスカー・ケルネルが来日したのは明治14(1881)年のこと。その4年前に開校した駒場農学校で教師を務めるためでした。
日本においてお米づくりは弥生時代以来、3千年にもおよぶ歴史と伝統を持ち、生活・文化全般における太い柱になってきました。そこにドイツ人の学者が関わったのは、この時代ならではの理由があります。

札幌農学校と駒場農学校
明治が始まって新政府は、殖産興業政策に力を注ぎ、日本を一日でも早く、欧米と肩を並べる近代国家にするため、様々な学問・技術を採り入れようとしていました。その政策の一つが、伝統と経験に基づいた日本の在来農法に、先進資本主義諸国の農業技術を導入することです。
そのため、その指導にあたる外国人教師がさかんに招かれました。中でも有名なのは札幌農学校(現・北海道大学)の教頭を務めたクラーク博士ですが、同博士のアメリカ系統の農業技術に対し、ケルネルらのドイツ農法を採り入れたのが、筑波大学附属駒場中・高等学校の前身である駒場農学校でした。
ケルネル田圃

ケルネルの指導と研究活動

広大な農業の総合教育・研究所
明治11(1878)年1月24日、明治天皇や政府官僚も出席する盛大な開校式で、その歴史の幕を開けた駒場農学校は、現在の東京大学教養学部、目黒区立駒場公園、東京大学駒場リサーチキャンパス、目黒区立駒場野公園(旧東京教育大学移転跡地)にまたがる約6万坪の敷地を有していました。
しかも開校以降、次第に拡張され、最盛期といわれる明治17年には、敷地面積が16万5,000坪に達し、欧米の農作物を試植する泰西農場、在来農法の改良を期した本邦農場、家畜病院、気象台、園芸・植物園などを併せ持つ、農業の総合教育・研究所でした。
現在あるケルネル田圃は、広さ約515坪(約1700平方m)ですが、じつは本来あった水田のごく一部。駒場農学校における、日本初の試験田だった時代は、ちょっと想像ができないほど、はるかに大きかったのです。

ケルネルの功績
日本農業の特色としての「水田稲作」に着目したケルネルは、その試験田を活用して水稲の肥料試験を開始。得られた研究成果は、その後の日本における稲作改良に大きな影響を与えました。
また、この研究について彼の指導を受けた多くの学生が、のちに日本の農学指導者として成長し、数々の貴重な業績を残しています。こうした大きな功績に対するリスペクトから、遺された田圃にケルネルの名がつけられたのです。

お祝いの赤飯で次世代へ引き継ぐ後輩たち
駒場農学校は、その後、東京農林学校から東京帝国大学・農科大学と改称され、現在の東京大学農学部、東京農工大学農学部、筑波大学生命環境学群の前身になりました。その一つである筑波大学附属駒場中・高等学校もまた、駒場農学校の後輩たちと言えます。
その後輩たちが毎年、ケルネル田圃で育てる稲。その稲から穫れるお米は約250キロに及びます。このお米はもち米で、これで赤飯を作り、その年度3月の卒業生、そして次年度4月の新入生のお祝いとしてふるまわれます。
こうして明治時代からの、駒場における農学の歴史・お米づくりの技術と精神が、次世代へ引き継がれているのです。
ケルネル田圃
 
【関連記事はこちら!】
>有名進学校の生徒が田で学ぶ 筑波大附属駒場中高校のお米づくり:稲刈り編

地域の財産としての田圃

田んぼの風景は心のふるさと
ケルネル田圃の役割はそれだけではありません。日本人にとって、一面の緑から季節の移ろいとともに黄金色に変わる田んぼの風景は、心の中の故郷の風景です。そしてまた、鳥や虫や花など、さまざまな生き物が、この独特の自然環境の中で生活を営みます。

田植えの季節・稲刈りの季節のお楽しみ
心を和ませるそんな風景に、地域の人たちも親しみを抱いており、この田圃と公園を愛してやまない人は少なくありません。初夏の田植えの時は、近隣の幼稚園・保育園の子供たちも大勢訪れ、生徒らとともに田んぼとのふれあいを楽しみます。
また、秋には毎年、目黒区主催の「かかしコンクール」も行われており、稲刈りの際にはユニークなかかしたちがずらりと勢ぞろい。たくさんの人たちがケルネル田圃と関わりを持ち、楽しみたいと思っています。
京王井の頭線で渋谷から2駅。都心のほど近くに、これほど豊かな自然環境、農の学びの場が保たれているのは、とても貴重なことではないでしょうか。

ケルネル田圃のメッセージ

教育・研究のために開墾されたケルネル田圃は、1世紀をはるかに超える歴史、明治の近代化の精神、農学の発展、そして子供たちの人間的成長を支える環境など、さまざまなものをはらんで、人々を元気にしています。
そして、これから先も、田んぼが持つ力、農業の可能性をわたしたちに教え、大切なメッセージを発信し続けていくでしょう。

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