日本茶の海外販売のため英語を使った情報発信は必然
宇治茶の一大産地である京都府相楽郡和束町(そうらくぐんわづかちょう)で、茶葉の栽培、生産から加工品の販売などを行うD-matcha株式会社は、2016年6月に起業した新しい会社です。会社ホームページとショッピングサイトの作成と同時に、Facebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、Twitter(ツイッター)3種類のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)でアカウントをオープンし、運用を行っています。
「インターネット上での販売を考えた場合、集客の入り口としてSNS運用はマストだと思っていました。そのため、ショッピングサイト開設時にFacebook、Instagram、Twitterのアカウントをすべて開設したんです」と、同社取締役の渡辺毅志(わたなべたけし)さん。
インターネットでの販売は、日本国内だけでなく海外も対象にしており、会社ホームページやショッピングサイトは英語のページを作り、SNSには日本語のほかに英語でも掲載しています。
「弊社は日本食の魅力を世界に発信し、食を通じて世界中の人々の暮らしを豊かにしたいと考え、設立しました。会社を設立した時から、海外に日本茶を販売することが視野に入っていたため、英語での情報発信は必然でした。海外に向けた情報発信は高い優先順位で取り組んでいます」。
3種類のSNSアカウントの使い分け
では、3種類あるSNSを、どのように使い分けているのでしょうか。
「SNSごとに特長があるため、使い分けについては運用しながら探っていきました。現在では、Facebookは日本語のみの文章で、国内への情報発信のためにほぼ毎日更新しています。海外向けには、Instagramで日本語と英語を併記し、2~3日に1回程度の頻度で更新しています。Instagramは写真中心のSNSなので、海外の方にも直観的に情報を届けられると考えています。もちろん、写真を補足的に解説するため、英語で文章をつけることは重要ですが、英語圏以外の人も対象に情報発信できるSNSは、Instagramが適切だと考えました」。
D-matchaは、日本茶や茶葉を使ったスイーツなどを楽しめるカフェの運営も行っています。そのため、Instagramでは、抹茶や煎茶の飲み方の提案をする店舗用のアカウントと、茶畑の写真や農作業の様子を紹介するアカウントを別に作り、それぞれ運営しています。投稿する写真に統一性をもたせることで、それぞれの世界観や目的にあったファンを増やそうという狙いがあるそうです。
「農作業の風景だけを見たときには土の汚れも良いと思ってもらえますが、隣に茶碗で点てた、きれいな抹茶の写真があると、一覧で写真を見たときにチグハグになってしまいます。そのため、ブランドをひとつのアカウントに統一するのではなく、それぞれ異なる世界観を出せるようにアカウントを2つ設けました。FacebookとInstagramのほかに、お茶にまつわる様々なことをブログ形式で紹介する自社のホームページを運営しており、新しい記事を更新したタイミングにあわせて、2~3日に1回程度Twitter(日本語)で投稿を行っています」。
Instagramの運用で海外から問い合わせが増加
はじめは、英語でショッピングサイトを作ったものの反響がほとんどなく、どのように集客しようか困っていたそうです。しかし、日英両語によるInstagramの運用をはじめてから、海外からの問い合わせが来るようになりました。
「多い時では、週に2~3件の問い合わせが来ています。抹茶をはじめとしたお茶各種を、農家から直接購入したいという相談をいただいています。はじめはどこから弊社を知ったのか疑問でしたが、問い合わせた方に聞いてみると、Instagramで知ったという人がほとんどでした。アメリカ、オーストラリアといった英語圏だけでなく、メキシコやポルトガルなど、様々な国の方々から問い合わせが来ています」。
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英語での投稿で注意していること・反応が良い投稿
Instagramの投稿では、日本語と英語の文章を併記していますが、何か気をつけていることはあるのでしょうか。
「文章のボリュームが同等に見えるように心がけています。英語は1センテンスしか書いていないのに、日本語は何行も書いてあると、英語しか読めない方には『英語の情報発信が省略されている』と感じてしまうと思います。そのため、日英分け隔てなく記載するようにしています」。写真については、一般の方には撮影できないような写真を投稿すると「いいね!」の数がたくさんつくなど、反応がとても良くなるそうです。
「我々が茶業を営む和束町は『日本で最も美しい村連合』に加盟するほど、風光明媚な土地柄です。そのため、どこを切り取っても美しい風景が撮影しやすい土地という強みがあります。その中で、お茶農家にしか撮れない茶畑のど真ん中から撮影したような作業風景の写真が普段はなかなか見られない風景ということで、人気が出ているのではないでしょうか」。
逆に反応が薄い投稿は、お茶以外の情報を発信した場合。D-matchaが運営するカフェのメニューで、焼きたてパンなど日本茶とは関連のない投稿をすると、反応がいまひとつだそうです。「それぞれのアカウントで、投稿する写真のテーマに一貫性を持たせることが重要だと感じる」と渡辺さんは話しています。
英語でのSNS発信を検討している農家へのアドバイス
D-matchaでは、代表の田中大貴(たなかだいき)さんが米国留学の経験があり、他のメンバーも英語に苦手意識がないということですが、英語が得意ではない方でも英語でSNSの発信をすることは可能でしょうか。渡辺さんは「海外のお客様と出会うきっかけ作り」のように、まずSNS運用の目的をしっかり持つことが大切、と前置きした上で、英語の投稿は誰にでもはじめられると言います。
「Instagramは画像がメーンのSNSのため、英語の文章が書けなくても投稿はできます。しかし、単語をひとつ載せるだけでも、何も書かずに写真だけを投稿するのとは大違いです。SNSは無料で開始できますし、ユーザーからリアクションがなくてもリスクはありません。『いいね!』がすぐにつかず反響がなかったとしても、日々の投稿をコツコツと続け、改善していくことが重要だと感じます」。
世界との距離を一気に縮めたインターネットの世界において、SNSは、お金をかけずに誰もが気軽にはじめられるツールです。海外へ目を向けている方は、無料で始められる第一歩として、SNSを活用した情報発信に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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