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直売率99%、東大卒マネージャー擁する梨園 個人農家初の「企み」とは

直売率99%、東大卒マネージャー擁する梨園 個人農家初の「企み」とは

最終更新日:2018年10月01日

日本梨のブランド化に成功し、99%以上を直売のみで売り切る「阿部梨園」(栃木県宇都宮市)。若き三代目・阿部英生(あべ・ひでお)さんと、東京大学農学部・同大学院卒の “敏腕マネージャー”佐川友彦(さがわ・ともひこ)さんが3年間、二人三脚で経営改善を行ってきた。その軌跡と、個人農家初となる取り組みについて伺った。

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東大卒マネージャーが梨園の一員になったワケ

宇都宮駅から車で約20分の「阿部梨園」は、9種類の梨と桃を作る梨農家だ。20代で父親から梨園を継いだ代表の阿部英生さん(40)と、東京大学農学部・大学院卒という異色の経歴を持つ“敏腕マネージャー”佐川友彦さん(32)が、同園を支える。

二人の出会いは、3年前。佐川さんは大学・大学院でバイオエネルギーを研究し、卒業後は外資系メーカーの研究開発職として約4年間勤務した。「地域に根差し、経営の全体を見渡したい」と、インターンを経て2015年1月に阿部梨園へ入社。以来、生産は阿部さん、経営企画やPR、事務やサイト制作など生産以外の面は佐川さんが担当。農家では珍しい役割分担制を敷いて、二人三脚で運営している。

佐川さんが一員となった頃の阿部梨園は、家族経営から移行して正社員登用を始めた時期。経営効率化のための課題は山積みだったが、佐川さんの目には「ポテンシャルの塊」だと映った。

圧倒的な強みは、味。一般的に、梨は大きいほど美味しいとされる。同園の梨はソフトボールよりも大きく、ずっしりとした重みがある。初めて見た人は思わず笑みをこぼしてしまうほどのインパクトだ。もちろん甘くてジューシー。既に地元のファンは獲得し、贈答用の高級品としてブランド化に成功していた。「これだけ美味しいならもっと売れるはず」(佐川さん)と、“自社製品”の梨に更なる可能性を感じた。そして何より「量より質」を掲げ、休まず畑に出る阿部さんの生産者としての情熱、そしてスタッフを第一に考え、自然と周囲に人が集まるような温かい人柄に惚れ込んだ。

「畑に出ない農家」の奮闘

阿部梨園の代表とマネージャー

高い生産技術を土台に、阿部梨園の経営・組織の改善、作業フローの効率化が始まった。梨は鮮度が命。午前中に収穫し即日出荷するなど、まるで鮮魚のような扱いだ。作業マニュアルを導入することで、たとえ経験の少ない新人スタッフでも、スピード感をもって作業できるようになった。スタッフの勤怠管理、売り上げや顧客データの管理など、一つ一つやるべきことを行った。

効果てき面だったのが、梨の樹の配置図「圃場マップ」の作成と運用。かつては、作業報告でさえ「奥から3列目の5本目まで終了」といった大まかなものだったが、マップを元にして樹ごとにIDを与えて、管理を容易にした。

圃場マップ

作業の引継ぎが迅速・正確になったほか、個体ごとの生産量や病虫害の記録などのデータを蓄積し活用できるようになった。例えば、ある樹の生産量が前年より落ちていると分かれば、担当スタッフの技術力など原因を特定し、的確な改善策を施せる。正確に情報を伝え合う必要性が生まれたため、現場の責任感が高まりコミュニケーションが活発になった。

結果、経営効率も高まり、収穫物の99%を店頭やオンライン経由など直売で売り切った。「すべての作物を、“阿部梨園の梨”として消費者に届けられるのは最高の幸せ」と阿部さんの顔もほころぶ。

三代目として梨園で育ち、農学校を卒業した阿部さんは現場のプロ。一方、佐川さんは「畑に出ない農家」として、阿部さんが生産に集中できる環境を整え、経営者として最適な判断を下してもらうための案を投げ掛ける。

阿部さんは「経営者と同レベルの責任感を持ちながら、色々な視点から阿部梨園のことを考えてくれる。こんなに有難い存在はいない」と感謝する。佐川さんは「阿部は最高の梨を求めて、一切手抜きはしない。職人としての本能は真似できない」と、尊敬の眼差しで仰ぐ。互いを補い、高め合うパートナーだ。

等身大の改善ノウハウがぎっしり “知恵袋”サイトを無料公開へ

そんな二人が率いる阿部梨園は、国内の個人農家として初の取り組みを企てているという。

3年間、日々の業務で気が付いた課題やアイディアを、Excelシートに書き溜めていった。「温かい麦茶が欲しい」といった現場の要望から、「学校給食に自園の梨を出したい」「社会保険を完備したい」といった大小さまざまな“ネタ”が1,200件以上積み重なり、そのうち450件以上の業務改善を達成した。

その改善ノウハウや体験談を公開し、同業の農業者が無料で閲覧できるオンラインメディアを立ち上げようと計画している。

農業経営の成功体験を載せた書籍や、行政の指導では知ることのできない、いち農家が試行錯誤の上乗り越えてきた“等身大の業務改善”の記録が詰まっている。すべてトライ済みの、いわば「泥のついたテクニック集」(佐川さん)だ。農家以外の個人事業主や、会社勤めの人も参考にできる内容だという。例えば、日報を書くことを推奨するだけでなく、「書き続けるため」のハウツーや、失敗談も公開するつもりだ。

クラウドファンディングサイトで制作費などの支援を募ったところ、開始7日目で目標金額の100万円が集まった。公開する改善ノウハウの数を増やすため、目標金額を300万円に引き上げ、引き続き募集している。(2017年12月25日まで)

「阿部梨園で培ったノウハウを、同じ課題に直面する全国の農家さんに還元したい」と佐川さんは力を込める。公開は、2018年4月を目指している。詳しくは、阿部梨園のウェブサイトで。

【関連記事】<対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【前編】

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