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<対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【前編】

<対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【前編】

2018年05月19日

IT技術を駆使し、一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生産する農業法人GRAの代表・岩佐大輝(いわさ・ひろき)さん。農業を通した地域活性化や新規就農者の育成事業に注力し、今年3月、“日本一使える新規就農本”を出版。
佐川友彦(さがわ・ともひこ)さんは、東大卒の農家の右腕として個人農家の経営改革に尽力。自園で実行してきた等身大の経営改善実例を、同業者が無料で閲覧できるサイトを5月に公開。それぞれの立場で農業界に変革の波を起こそうと奮闘する、キーマン2人による対談をお届けします。

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「佐川さんは『集団出世主義』のマインドセットがある」(岩佐)

佐川:初めまして、阿部梨園の佐川です。私は過去に岩佐さんの講演会に参加していまして、いつか直接お話したいと思っていました!

岩佐:ありがとうございます、嬉しいです。

僕は、記事で佐川さんの「知恵を共有する取り組み」を拝見して、この取り組みはものすごいと思ったんですね。

農業が難しいところは、収穫までのリードタイムの長さです。一作には最低一年かかるし、梨のような果樹だったら、木を植えてから起算すると数年ですよね。もし一人だけの知恵で改善策をしていたら、たぶん一生が終わっちゃうんですよね。

佐川:終わっちゃうんですよ!いまうちが(新たに)作っている畑も、次の世代のための畑になってしまうので、これは気が遠くなる話だなと。

岩佐:植物の絶対成長必要時間ってお金で買えないものだから、大きな改革を起こすためには、自分の情報をオープンにして共有することで、仲間を集めて繋がって、「集団出世主義」のマインドセットを必要があると思います。佐川さんの考え方は、農業においてとても大事だなと思っているんですね。

得た情報を自分だけの中で囲っておくような状況から脱しないと、なかなか難しいのかなと思いますね。そんな、感想です(笑)

佐川:ありがとうございます。うちも悩んで暗中模索してきたので、隠さずに出していこうと。同じことを皆でバラバラに悩んで、ちょっと下手くそな感じで取り組むのはすごくもったいないので。一応、ずっと小さい改善策を記録してきたのですが、それをオープンにすることで助かる農家さんがいればいいなと思っています。

【関連記事】経営改善ノウハウ300件を無料で、個人農家が「知恵袋」サイトを公開

岩佐さんが代表を務めているGRAさんも、多くの研修生や見学者を受け入れられていますよね。岩佐さんが取り組まれている、農業をフランチャイズ化して、横展開されていくというのに、おこがましいんですけれども、非常に共感しています。それをしないと今後の日本の農業は生き残っていけないと思っています。

お聞きしたいことが沢山ありますが、今日は僕からいくつか質問をさせて頂きます。

岩佐:ぜひお受けしたいと思います。よろしくお願いします!

岩佐 大輝(いわさ・ひろき)さんプロフィール

1977年宮城県生まれ。株式会社GRA代表取締役CEO。大学在学中に起業し、現在日本およびインドで6つの法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こして、一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生み出す。産地から製法、流通まで一貫したブランド管理を行い、フランチャイズ・モデルを下敷きとした、新規就農支援事業にも注力。2018年3月、農業で成功するためのメソッドを集約した『絶対にギブアップしたくない人のための 成功する農業』(朝日新聞出版)をリリース。

佐川 友彦(さがわ・ともひこ) さんプロフィール

1984年生まれ、群馬県生まれ。東京大学農学部を卒業後、外資系化学メーカーでの研究開発職に。2014年からは、「阿部梨園の畑に入らない専属マネージャー」、「農家の右腕」として、阿部梨園の経営を支える。経営管理、企画、デザイン、PR、経理会計、人事労務、ウェブ制作など、全バックオフィス業務を引き受け、繁忙期には注文管理や店頭接客も。クラウドファンディングで450万円の資金調達し、2018年5月、個人農家の経営ノウハウ事例を集めた「阿部梨園の知恵袋」を公開。

販路は徹底的にサポート

佐川:単独で新規就農に挑戦して、うまくいかなかったり続かなかったりする人も少なくないと思います。多いのかなと思います。GRAさんは新規就農者支援をやっていらっしゃいますが、どのような部分で彼らの受け皿になりたいと思っていらっしゃいますか。

岩佐:農業で脱落する例で多いのは、一定以上の収穫量が獲れなかった場合と、獲れたとしても一定以上の価格で売れなかった場合です。この二つさえ解決すれば、農家がバタバタとダメになるようなことはないはずです。この二つのサポートだけは、がっちりとやりたいと思っているので、独立したい農家さんに対して収穫量と品質を保証する仕組みを作っています。

フランチャイズ・システムの一番の強みは、おそらく「出口となる販路の広さ」です。広い出口をがっちりと用意して、たとえば普通の農家さんに比べて1.5倍売れるようになれば、上手くいかないことはなくなります。

佐川:「作りながら売る」というのは、特に初めての人にとってはめちゃくちゃ大変なので、そこまでがパッケージになっているのは羨ましいですね。

岩佐:ちなみに、阿部梨園さんは99%以上を直売していると記事で拝見したんですけど、全部BtoCで売ってるんですか?もしくはBtoBも?

佐川:BtoBも少しありますが、BtoCが中心です。元々は、大半を軒先で売っていました。地元のお客様が、地方の親戚・知人への贈答用に使って下さることが多いです。

他には、百貨店で「阿部梨園の梨」ブランドとして売ってもらったり、郵便局さんで販売していただいて、阿部梨園からお客様へ直送したり。現状売り切っちゃっているので、これ以上取引先を増やせない状況です。

岩佐:すごいですよね。しかも、軒先中心で売れるなんて理想的ですね。

佐川:そうですね。ただ、軒先もこれからは厳しい時代がくるとは思います。

岩佐:本当ですか。

佐川:はい、贈答用の果物というマーケット自体が縮小していますし、片田舎の農家まで直接買い付けに来てくれる層は、どんどん高齢化しています。軒先販売だけだと、生き残れないと感じています。

岩佐:出口のポートフォリオの設計って難しいですよね。出せる量が限られているから、売られ過ぎても困っちゃうし。農業の難しさの一つですよね。

佐川:そうなんですよね。でも梨は、収量のバラツキがそんなに大きくないので、計算はしやすいですね。

岩佐:そうか、確かに。

佐川:とはいえ、出荷時期の調整は難しいですね。天気の影響も大きいです。全体の収量は変わらないのですが、お客様の欲しい時期とズレてしまうと、それだけロスが出やすくなります。去年の夏は天気が悪い日が続いたので、阿部と僕で心の涙を流しながらやっていました。

“蛇口の開け閉め”がタイムリーにできないと、取り引きは難しいです。あと今は、大口の注文も受けられないですね。“軒先のお客様ありき”でやっているので。たとえば、海外輸出をしよう!となったら、直売で買って下さるお客様をその分お断りしないといけないので実現は難しいです。
GRAさんのように広い間口があって大きい案件を取っていける、というのはすごく羨ましいです。

農業に「業界規格」は必要?

佐川:質問を続けます。私は工業界から農業界へ転職していますが、農業には「業界規格」が少ない、という印象があります。製造業だと、工業規格によって品質が担保されています。規格があれば同じものを横展開することも、消費者を守ることもできます。
岩佐さんはフランチャイズ化の中で、規格を作るなど自分たちでクオリティコントロール(品質管理)はされているのでしょうか。「イチゴとはこうあるべき」ではないですけれど、そういうライン引きの基準はあるのでしょうか。

岩佐:クオリティコントロールに関してやれることって、結局「作り方」のインプットしかないですよね。どういう時期にどういう作業をするかというのには、みんなで統一基準を持ってやっています。

ただ、その統一基準を持ったとしても、工場のラインと違って多少なりとも完成物に差があるんですよね。

たとえば、地域の気温や日照時間によって、出来てくるものはちょっと違う。「こういう風に作りましょう」というインプットがあっても、アウトプットが揃っていないのが農業の特徴であって。なかなか、どこでも同じものを生やす、というのは無理で。

佐川:難しいですよね。

岩佐:その違いに対応するために、お客様に出荷する時の選果基準はかなり厳格に定めています。形とか重量とか、ブリックス値(※糖度の単位)とか、ツヤとか、ある程度定量化できるものですね。あとは“最終製品”にいくつかのグレードを付けて、品質を担保していく。

できる範囲でクオリティコントロールをしているけど、工業製品のようにミリ単位の規格を作ってその通りに生産するのは難しいかな、と思っています。

佐川:収穫のタイミングは、見た目でしか判断できないので、マニュアル化し切れない部分ですね。そもそも年によってベースライン(基準)も違いますし。何でもスペック化すればいいという話ではない…

岩佐:でも僕は、スペック化は極限までやった方がいいと思うんですよ。形式化しきったところに出てくる暗黙知の部分にこそ、本当の差が生まれる気がしていて。スペック化は勿論全部はできないかもしれませんが、徹底的に形式化する努力はしようと思っています。

でも、農業って面白いのが、「今日は風香りがいい」とか「空気の感じがいい、この土はたまらなくいい土だ…」とか言っている人が作ったイチゴの方が、僕みたいな人が「温度が何度で、湿度がいくつで、二酸化炭素が何PPMの環境で作ったイチゴです」と言って紹介した物よりも、美味しく感じるんですよね(笑)

佐川:確かに(笑)

岩佐:消費者にとって、太陽の下で、薫りのある風の中で作ったものの方がが、何となくよく聞こえるし、そういう風に言っている農家さんの方が、農業界では声が大きかったりしますよね。

佐川:そうですね(笑)

岩佐:定量的に語ろうとするほど、農業界では…こう…

佐川:嫌な奴、みたいな(笑)数値情報と雰囲気のどっちが効くかというと、まだ雰囲気の方が効くんでしょうね。

岩佐:そのコミュニケーションって“裏表”がある必要はあると、僕は思うんですね。

佐川:そうですよね、エモーションに訴えかける部分と、定量的に質を担保していく部分の両面が必要ですよね。

後半は、農業のフランチャイズ化・IT化に注力する岩佐さんに、佐川さんが敢えて「家業型の農家の未来」を尋ねます。岩佐さんをリスペクトしてやまないという佐川さんの質問とそれに対する岩佐さんのアンサーは、農業の未来を日々考え抜いているからこその鋭さと、農業を通して実現したい夢が宿っています。後編もお見逃しなく!

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