マイナビ農業TOP > 農業経営 > <対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【後編】

<対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【後編】

<対談>IT農業のカリスマ経営者・岩佐大輝さん×東大卒“農家の右腕”・佐川友彦さん【後編】

IT技術を駆使し、一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生産する農業法人GRAの代表・岩佐大輝(いわさ・ひろき)さん。農業を通した地域活性化や新規就農者の育成事業に注力し、今年3月、“日本一使える新規就農本”を出版。
佐川友彦(さがわ・ともひこ)さんは、東大卒の農家の右腕として個人農家の経営改革に尽力。自園で実行してきた等身大の経営改善実例を、同業者が無料で閲覧できるサイトを5月に公開。それぞれの立場で農業界に変革の波を起こそうと奮闘する、キーマン2人による対談をお届けします。>>【前編】はこちら

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個人農家は“外の人”の参入で活路を

佐川:農業界では様々な技術革新が起こっていますが、私は既存の「家業型の農家」に勤めているので、そのような農家が次の時代で生き残るために、どのように新しい世界観と調和しつつスマートにやっていくべきか、という点に課題感を持って向き合っています。

法人化や大規模化、機械化やGRAさんのようなIT化という、この10年、20年で農業が進むべき流れの中で、家業型の個人農家は今後どうしたらいいでしょうか。岩佐さんからは、どのように見えていますか?

岩佐:そうですね。私は、農業を知らない頃には、「ジェネレーションが変われば、つまり次の世代にバトンタッチをすれば、農業ってかなり変わってくるんじゃないか」と思っていたんですよ。たとえば、栽培データを取らなかった人が取るようになったり、暗黙知が形式知に変わったり。でもそれは全然違ってですね…。世代は変わっても、‟農村の保守性というDNA“は、そのまま引き継がれます。農村地域に行くと、旧来型の家族経営でやってきた農家のご子息たちも、必ずお父さんと同じことを言うんですよ。まぁ、多少外部から勉強してきた新しい知恵は入っていますけど。

ということを考えると、家族経営でやってきた小さい農家さんが今後更なる発展をしていくなら、「アウトサイダー」というか、外から人を入れるしかないと思っています。それも、農業普及センターとかその地にいる人ではなくて、まさに佐川さんのように、外部から来た他業界の方を迎え入れないと、変われない。内部変革は不可能に近いです。

佐川:阿部梨園はかなり柔軟だったので、僕みたいな働き方を受け入れてくれました。阿部の親は、「何でも自分でやる」という昭和の男で、対照的な次の代が生まれたお陰なんですけどね。

それに比べると、限られた視野と従来の固定概念に忠実な農家が多い印象です。得られる情報が偏っているので、産業に新しいものを取り組む目線や、今までなかった選択肢を考えることは少ない。
逆に、会社員を経験した上で実家の農業を継いだ方は、最初から社会人スキルを持っていて、視界も開けていて、且つ親の資産がある。どんどん伸びていけるポジションだなと思います。

岩佐:そうすると、たとえば製造業やITの人が業界に入っていく、あるいは農家さんが外にどんどん出て行って、他業界と触れ合うオープンマインドを育てるというのも両方必要ですね。

佐川:私たちは自分たちがやってみた事例を公開することで、オープンにした人が認められる文化を農業界で醸成したいです。いいことをやっているのだからアピールした方が得だな、とか、情報公開と共有にインセンティブが働いたら業界も変わるのかなと思います。

岩佐:いいですよねぇ。そうですよね。

個人のミッションに沿った農業経営スタイルを

佐川:岩佐さんは、農場も海外にも展開されていますが、今後農業界でこれをやってみたい、というのはありますか?

岩佐:農業を強烈で強力な産業に育てて、そこにたとえば大学生が就職するときの選択肢に農業生産法人が挙がるような世界観を作りたいですね。それは自分のひとつのミッションだと思います。

あとは、どうしても地方を豊かにしたいという気持ちが強いんですよね。今の事業が上手く行っても行かなくても、中長期的に人生を掛けていきたいのは、農業を通じた地方の活性化ですね。農業が儲かる産業にならないと、ますます地方と都会の交流は少なくなっていくと思います。

山元町の人口は1万人ほどですが、年間5万人もの人がイチゴ狩りに来てくれるんですね。5万人の中には、地元の人も東京の人も海外の人もいます。そういった方々が農場に来てくれることで、そこに新たなコミュニケーションが生まれるわけですよね。地域のマイナスな面での保守性がオープンに変わって、地域社会に刺激が生まれ、新しいプレーヤーがそこにまた入ってくる…みたいな好循環を起こせるといいなと思います。

なので、私がやっているのは、地域活性化のための一つのツールとしての農業。だから、我々がやるなら産業としてスケールできるようなモデルでないと駄目なんですよね。

そもそも、農業の経営モデルは、農家さんが農業をやる「目的」や人生の「ミッション」に依るべきだと思っています。

たとえば、私の目的は、「農業を通した地域活性化」と「農業で強い雇用を作る」ということですから、ある程度スケーラブルでなくてはならないし、他の産業とも互角に戦える状況を作り出していかなくてはいけない。固定費のリスクも取るし、エクイティ(株主資本)を何億も集めてやるし‥という農業なんですね。

でも、必ずしも私がやっているようなモデルの農業だけがいいのではなくて、もし個人の農家さんが「家族と一緒に働くことが、自分の人生なんだ」と思ったら、経営的にサスティナブルであれば、私はそういう経営体を選ぶべきだと思うし、無理に拡大する必要はないと思います。その人がどういう風に中長期的な目標を描いているかが、経営モデルを作るということなんじゃないかなと思います。

佐川:そうですね。大規模化して日本の食糧供給を支えるんだ、というモデルもありだし、イチゴとか梨とか嗜好品に近い作物を選んで、積み上げた付加価値で消費者から選ばれるモデルも一つですよね。

――対談を振り返って

マイナビ編集部:お二人ともありがとうございました。あっという間でしたが、残念ながらお時間がきてしまいました。佐川さんは、特に印象に残った岩佐さんの言葉はありましたか?

佐川:そうですね、沢山ありましたが、ぜひ持ち帰りたいと思ったのは、「農業を強い産業にしたい」というお気持ちですね。

普段、個人農家の生産性に限界を感じることもあるのですが、「あらゆる手を使ってでも農業を変えていく」というお気持ちに触れて、僕も常識に囚われずに向かっていきたいなと思いました。そういう風に「農業はまだ強くなれる」と思っている方とお話しできて、すごく励ましになりました。ありがとうございました。

岩佐:僕は今日話して感じたのは、今までのは知識を内輪で囲い込む、というのが“農村のDNA”だとすると、佐川さんは逆にそれをオープンにすることで新しい世界と接点を持とう、というのを、ものすごく考えている。まさに今農業界で最も必要な考え方、マインドセットなので、非常に勉強になりました。あとは、佐川さんは農業界にとってのスーパースターなので…

佐川:いやいや、それは岩佐さんです(笑)

岩佐:じゃあ私は経営者としてのスーパースターかもしれないですけど(笑)、色々な農家さんを横断してバリューアップするというのは、一経営者ではできないので、そういうことを佐川さんに続けてもらえたら、日本の農業はだいぶ変わりそうだな…と、期待しか持てないすごくいい時間でした、ありがとうございました!

>>【前編】はこちら

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