1粒1,000円のイチゴ生産・岩佐大輝さん、“日本一使える新規就農本”を出版

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1粒1,000円のイチゴ生産・岩佐大輝さん、“日本一使える新規就農本”を出版

1粒1,000円のイチゴ生産・岩佐大輝さん、“日本一使える新規就農本”を出版

最終更新日:2019年03月29日

IT技術を駆使し、一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生産する農業法人GRAの代表・岩佐大輝(いわさ・ひろき)さん。他業種から参入した農家の代名詞として、農業界や地元・宮城を越え全国から熱い視線を浴びています。生産に留まらず、栽培技術や経営のノウハウ伝授といった新規就農者の包括的な営農支援を行っています。2018年3月20日、“新規就農で成功するためのメソッド”を集約した『絶対にギブアップしたくない人のための 成功する農業』(朝日新聞出版)をリリース。新著に込められた思いを伺いました。

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「どの作物をやるかは、別に大事じゃない」

――出版のきっかけとは?

GRAの新規就農支援事業や講演会を通して、就農希望者や農業関係者から悩みを聞くことがありました。そこで感じたのは、「農業はあまりにも漠然とした捉え方をされている」ということでした。何となくのイメージで捉えられているケースが、他の産業よりも多いんです。

農業に関連する本も、客観的かつ体系的に農業をビジネスとして語っているものはあまり存在していない。自分の成功体験談や「○○法で儲ける」みたいものが多いですが、あまり汎用性がないですよね。そこで、フラットな視点で就農について書いてみようと思ったんです。

新規就農希望の個人や法人の力なくてしては、担い手の高齢化に伴って日本の農業は衰退していくだけです。そこを彼らができるだけラクに…というか、あまり悩まずに参入できるように、という思いを込めてこの本を書きました。

岩佐 大輝(いわさ・ひろき)さんプロフィール

1977年宮城県生まれ。株式会社GRA代表取締役CEO。大学在学中に起業し、現在日本およびインドで6つの法人のトップを務める。2011年の東日本大震災後には、大きな被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。先端施設園芸を軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。イチゴビジネスに構造変革を起こして、一粒1,000円のブランドイチゴ「ミガキイチゴ」を生み出す。著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『甘酸っぱい経営』(ブックウォーカー)。

 


――本の内容を少しだけ教えてください。

まずは第一部で「よくある農業の疑問や不安」と、その答えを具体的に述べています。「農業って儲かるの?」から始まり、「農業って修業に何年もかかるの?」、「天候不良になったらどうするの?」、「農協ってよく批判されているけど、使わない方がいいの?」など。結構ビッグテーマなのは、「都会出身の人は、地方でやっていけるの?」というものです。

「どの作物が儲かるの?」というものには、「実はどの作物をやるかは、別に大事じゃない」というのを結論で書いています。それは自分の生活パターンや、目指したい農業の形によるんですね。

「日本もオランダのような農業大国を目指すべき?」「AIやIoT、ロボットを投入すれば農業も革新できるのでは?」というのもありますが、結局、「どうなったら農家になれるの?」というのが、多くの人々にとっての疑問なんですね。それに対して、自分の経験や調査に基づき、はっきりと「こういうこと」だと示しています。

「何を作るか」から考えない―目的・理想の生活モデルから逆算する

――第二部では、「農業をはじめるための6つのステップ」を紹介しています。6つのステップとはどのようなものでしょうか。

ステップ1は、「農業をやる目的を言葉にする」です。目的はミッションでありビジョンであって、これがないとブレブレになるわけですよ。
例えば田舎に行ってゆっくり暮らすことが目的なら、そういう農業を選ばなくてはならない。でも金儲けしたいなら、スケールする農業をやらなきゃない。自分の農業の目的によって、その「型(かた)」というのは全く変わってきます。

ステップ2では、「自分の生活モデルを決めましょう」と伝えています。収入や時間の使い方など、自分が望む生活スタイルを決めます。ステップ3は、「作物・作型・育て方を考えましょう」。現状ではステップ1と2を考えずに、いきなり「何を作るか」から考えてしまうケースがとても多い。農業をやる目的とか、自分の理想の生活スタイルをきちんと考えた上で、逆算して「何をどう作るか」を決めるのが大切なんです。

ステップ4では、「10年間の経営のビジネスプランを数字に落とし込む」ということ、「資金調達の方法」についてステップ5で書いています。ステップ6は、「情報収集とネットワーク作り」について。第三部ではモデルケースとして就農2年目の方に登場してもらい、実際にステップ1~6を踏んだプロセスや、会計上の数字を全部公開してもらっています。

――新規就農者を導く本になりそうですね。

本の中で、「こうしろ」とは全く言っていなくて。色々な農業のスタイルがある中で、どういう考え方の枠組みで意思決定を重ねて「農業というビジネス」を創っていくか、ということが重要だと思うんですね。
経営スタイルをこうしましょう、作物をこうしましょう、という呼びかけは意味がないと思うんです。いくつかのオプションを提示して、「どういう判断軸を持って判断するか」を問いかける方が大事だと思います。

本の中には、コラムとして新規就農者の事例をちょこちょこ挟んでいます。「転職して就農した人の場合」、企業の農業スクールで勉強して独立しようとしている人や、リーマンショックをきっかけに投資銀行を辞め、退職金でシイタケ農家の事業を買収したけれど失敗した人の話などです。

――どんな立場の方に読んでもらいたいですか。

一番読んで欲しいのは、農業をスタートしてみたいけど、どこから手を付ければよいか分からないという人。あとは、農業を始めたはいいけれど、行き詰まっている人ですね。
漠然としてでも農業に関心を持っている個人、農業に参入しようとしている法人の方にも読んで欲しいですね。

農業を伸ばすキーワードは“集団出世主義”

――「6つのステップ」と、GRAの新規就農者の育成事業で大切にしていることとの共通点はありますか。

まさにそうですね。新規就農者の育成事業は、2015年くらいから始め、今までで10組ほどの卒業生が農家として独立しています。

新規就農支援プログラムでは、7月の開講から10か月間、座学や農場でイチゴ作りに関わる全ての工程を学びます。新規就農者専用の植物工場で、新規就農者が自分で判断して栽培を実践します。ものすごく広い圃場ですが、トレーニングだから失敗してもいいんです。

同時に、独立するための準備や経営の計画などを学び、資金調達をして、翌年には独立というプログラムです。私は、就農して一人前になるには15年掛かると言われていたんですが、実際にきっちりとやったら数年でできたんです。農業を何十年やっている人よりも精度がいいイチゴができる、と。そういったノウハウを、GRAでは全部新規就農者に渡すってことをやっています。

GRAは、「イチゴをハイテク型のグリーンハウスで作る」という堅いフレームで、“成功する農業”のノウハウを提示しています。それを農業全般に応用したのが、この本の一つのポイントです。

マイナビ農業の記事で読んだのですが、阿部梨園の佐川さんは、個人の農家が実行してきた業務改善の知恵やノウハウを無料公開しようとしていらっしゃいますよね。あれってすごく大事で、何でかというと、例えばイチゴって親株を植えてから子株を取って実を収穫するまで、20カ月かかるんですよ。リードタイムが20カ月ということは、PCDAのサイクルを1度回すのに20カ月掛かるということなんです。
※リードタイム…その事業の最初から最後まで、スタートしてからすべての工程をひととおり終えるまでの期間のこと。

ということは、一人で10年、20年やっていても、たかだか数十回しか回せないわけですよ。今後、高速化できるかというと、そうではないですよね。植物体の成長に必要な絶対時間は、お金とかテクノロジーで変えられるものではないです。そうしたらやっぱり「いろんな人と一緒にやる」しかないんですよ。

農業で、“集団出世主義”というのはすごく大事です。“農村文化”とは逆行なんですけどね。農村文化というのは、技術を囲い込んで、「自分たちのノウハウは隣の農家には教えない」というくらい、互いにライバル心を持ってやっています。そうじゃなくて、皆で知恵を共有することで「とにかく長いリードタイムと戦う」というのは、農業に最も大切なことだと思います。
皆でブラッシュアップしていくという流れを作らないと、農業は伸びていかないと思います。これが我々がチームでやっている理由の一つです。

成功とは、続けること

――岩佐さんが考える、農業における「成功」とは?

やっぱり「続けること」だと思います。潰れちゃう人は多いです。何か事業を始めようとしたとき、10年後に経営が続いている確率は、統計的に見ると5~10%ですよね。農業も当然同じです。それは経営である以上、仕方がないことです。

農業の良い所って、「作物を作ったら必ず売れる」ところなんですよ。市場に持っていったら売れる。その代わり、投資回収までの時間が長いんですよ。だから、成功の定義は勝ち残ることだとしています。タイトルに「絶対にギブアップしたくない人のための」とあるのは、そういうことなんですよね。

――「絶対にあきらめない」という気持ちで、新規就農者が農業を続けられる未来とはどのようなものでしょうか。

(農業人口を増やすために)一番大事なのは、「農業を始めるまでの時間が短縮される」ことだと思います。10年も20年も修業したのに、農家になれるか分からないものに、投資するような時代じゃないですからね。昔とスピード感が違うわけだから。「時短」で農家になれる手段ができて、10年後にかなりの人数が生き残っていられれば、(その生き方が)一つのロールモデルになりますよね。
そこで初めて、農業人口って増え始めるんですよ。我々のような新規就農支援事業は、1年2年やってもダメで、10年やって結果が出て、ロールモデルが出来てから、初めてドバっと人が入ってくるものなんです。

ただ、我々に残されている時間というのは少なくて。いまの農業従事者平均年齢が67歳ですよね。80歳まで年配の方が頑張ってくれるとして、10年以内には、商社や証券会社のように、農業生産法人を新卒就職の選択肢となる時代にするというのが、私の10年後のビジョンというか目標ですね。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。

農業は、イメージで語られることが多い世界です。それは自分たちがいま住んでいる世界から、農業の姿が見えにくいからです。
この本を通じて、農業の実体を知り、その“手触り”を強く感じて欲しいと思います。イメージで捉えていたものがクリアになる本だと思うんですね。

「最近農業についての話題が多いけど、実際どうなの?」と、全体像を把握したい人や、農家に憧れているけど断片的な情報しか捉えられていない人、会社の新規事業として農業に取り組みたい人にも、この本を通じて農業に対するイメージをクリアにして、将来意思決定する時のヒントにしてもらえればいいなと思います。

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