土佐野菜のブランドを守る「土佐野菜基準」
春はタケノコやスナップエンドウ、夏はオクラやショウガなど、「土佐野菜」には、高知県の自然の恵みをたっぷりと受けた季節の野菜がラインナップしています。これらを生産しているのは、プライム株式会社が定めた「土佐野菜基準」を満たしている、契約農家の皆さんです。
土佐野菜基準では「農薬はできるだけ使わない(どうしても必要な時に最低限の量だけ使用すること)」「化学肥料を使わず、有機肥料を使用すること」「放射能チェック済みであること」など、安心安全な品質を保持するための条件が定められています。
「将来的には『土佐野菜=高知県の信頼できる野菜』という認知が広まり、『鎌倉野菜』や『京野菜』と肩を並べるようなブランド野菜を目指したいです」と今久保さんは語ります。
ブランド力が認知されれば、高い水準で価格も安定します。厳しい基準を設けることで、将来的には農家の収入アップにつながるのです。
流通システムの一括管理で、翌日には消費者に野菜が届く
新鮮野菜のおいしさをそのまま届けるためには、できるだけ早く消費者に届ける必要があります。しかし、通常の流通経路だと複数の業者を挟むため、消費者に届くころには鮮度が落ちてしまいます。
そこで、「土佐野菜」では出荷のプロセスをプライム株式会社が一貫して管理することで短納期を実現。東京都と大阪府を中心に、北海道から沖縄まで全国各地から注文がありますが、一部地域を除き翌日には配送できるようになっています。
また、複数の業者を挟むことでコストも上がります。「土佐野菜」は、そのコストがかからない分、農家の収益アップにもつながっています。
「土佐のお婆ちゃんから手紙が届く」ユニークな付加価値
「土佐野菜」を市場展開する際に、今久保さんは「土佐野菜を通じて多くの人が『ほっこりとした気持ちになる』体験を提供したい」と考えました。そこで、ただ野菜を売るのではなく、「田舎からの仕送り体験」を提供しようと思いつきました。
田舎から仕送りが届いたように感じられる演出として、今久保さんは「土佐ばあちゃんからの手紙」を同梱することを考案。土佐地方の昔話や野菜の調理方法などを、土佐の農家のおばあさんたちが実際に書いています。それは自分の故郷から便りが届いたような、温かい気持ちにさせてくれるのです。
さらに「土佐野菜」が豊かな自然の中で育っていることが伝わるコンセプトムービーも制作。段ボールのデザインも、開梱した瞬間に野菜が魅力的に見えるように作りました。お客様からは「箱のデザインがおしゃれで、野菜のセットとは思えない」と評判も良いです。
「土佐野菜は約7割の方がリピートするというデータが出ています。欲しいときに注文する方はもちろん、毎週、隔週、毎月のペースで届く定期便を利用される方もいます。公式サイト以外からの申し込みは、提携ギフトサイトやふるさと納税サイトからの利用もあります」。
野菜のおいしさもそうですが、温もりあふれる「土佐ばあちゃんからの手紙」を楽しみにしている人も多いそうです。
また、土佐野菜はときどき旬の野菜が多めに入っている時もあるそうです。「そんな時は、ぜひ周りの方におすそ分けをしてください。人のつながりを大切にして欲しいという思いを込めているのです」。
農家の収益をアップさせて、さらに魅力的な野菜を作りたい
プライム株式会社では、「土佐野菜」基準を満たしている農家に限り、従来の販売額よりも2割高い金額で野菜を購入する取り組みを行っています。
基準に達していない野菜は取り扱えませんが、農家にはその旨をきちんと説明して、次回の作付けから基準に達するようにお願いしています。
「この試みを始めた理由の1つに、GAP(農業生産工程管理)やJAS有機栽培の規格は限られた農家しか取得できないという実情があります。多くの農家は時間やお金の融通がきかないことから、規格を取得できずにいるのです。そこで、土佐野菜で農家の収益を上げることで積極的に取得をすすめて、高知県の農業をより魅力的にしたいと考えています」。
現在、「土佐野菜」として買い取っているのは、契約農家のごく一部です。今後は、高知の農業をもっと盛り上げて、高知県にあるすべての農家の野菜を「土佐野菜」として購入できるようにしたいそうです。
「土佐野菜」が農家の自信になり、新たな展開を生み出す
こうした土佐野菜の取り組みは、高知県の農家にも変化をもたらしました。
当初、「土佐野菜」に協力してくれた農家の人々は、自分たちの野菜が全国展開できる品質なのか疑問を感じていました。しかし、テレビなどで取り組みが紹介されたり、野菜が有名飲食店に採用されることで徐々に誇りを持つようになりました。
「『土佐野菜』の取り組みを見て、自らホームページやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを駆使して、一般の方々へ直接販売する試みを始めた県内の農家さんもいます。このような好循環が少しでも多く生まれるように、これからも土佐野菜を広める活動を積極的に行いたいです」。
プライム株式会社の「土佐野菜」のシステムを使わずに、自分で直販を始めたとしても、「むしろそれは喜ばしいこと」だと今久保さんはいいます。「私たちは、野菜による地域活性化モデルを作ることを目指しています。そのためには『土佐野菜』という言葉をドンドン使って宣伝して欲しいのです」。
品質のよい野菜に、温もりという付加価値を添えてお届けする「土佐野菜」。今後、プライム株式会社では流通規模を現在の10倍にして、いずれはレストラン経営や体験ツアーなど6次産業化のモデルケースを作っていきたいと考えています。モデルケースをベースに他の都道府県でも展開して、さらに地方活性化に貢献していきます。