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絶滅寸前の高倉ダイコン復活 未来へ向けて再生する江戸東京野菜

絶滅寸前の高倉ダイコン復活 未来へ向けて再生する江戸東京野菜

葉の部分を含めると、長さ1メートルにもなる高倉ダイコンは、東京の伝統野菜「江戸東京野菜」の中でも昨年(2016年)まで生産者が一人しかいなかったという、いわば絶滅危惧種。
「幻のダイコン」と呼ばれてきた伝統を守ろう、そして、東京ならではの美味しい野菜をみんなで未来へ伝えていこうと、次世代・次々世代の人たちが立ち上がり、栽培に挑んでいます。

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高倉ダイコン収穫

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初収穫の日

地面からモコモコと入道雲のように盛り上がり、大きく広がる緑の葉。
「ほら、もう首が出ています」。
生産者の福島秀史(ふくしまひでふみ)さんにそう言われ、葉の下を覗いてみると、確かに白い大根の首もとが黒い土の中からニョッキリ。
「ちょうどいい日に来ましたね。こうなっていたら収穫OKです」。
というわけで取材日(2017年11月24日)が初収穫日にずばりヒット。途中で折れたりしないよう、腰を落として垂直に、慎重に引き抜きます。すると見事!土まみれの立派な高倉ダイコンが福島さんの手に。

高倉ダイコンってどんな大根?

高倉ダイコンは、大正10年頃、八王子市で「みの早生大根」と「練馬尻細大根」の自然交配でできた後代を選抜してできた品種。JA東京中央会から東京の伝統野菜「江戸東京野菜」に認定されています。
昭和10~20年代をピークに八王子市の浅川北川に位置する高倉町、石川町、大和田町付近で多く栽培されていました。

土の力を活かして育てる野菜

このあたりの土地は高台になっており、土壌は関東ローム層で水はけがよく、土が柔らかいのが特徴。こうした土地の条件が整っているからこそ、このダイコンが作れるのだと福島さんは言います。
江戸東京野菜に限らず、地域特産の伝統野菜(固定種)は「その地域の土の力」を活かして育てる野菜なのです。

江戸東京野菜生産を仕事にする

農園

生産農家はわずか1軒

高倉ダイコンの特徴は、漬物(たくあんなど)にたいへん適していること。そのため、通常、干し大根で出荷していました。ところが、そうした慣習がこの八王子地域特有の伝統野菜を絶滅の危機に追い込むことになります。
つまり収穫後、出荷するまでに大変手間がかかり非効率なので、戦後の高度経済成長時代以降、経済効率最優先の世の中になるにつれ、作る人がどんどん減っていったのです。
その結果、昨年(2016年)の時点では生産者がわずか1軒のみになってしまいました。

生産者に転職

「以前からよくたくあんを贈っていただき、食べていたんです」。
じつは親戚にあたる方が、その残った1軒の生産者であることを知って、湧き上がる思いを抑えきれなくなった福島さん。それまで勤めていた会社を辞めて生産者(広告制作会社と兼業)に転職。
八王子市川口町にある3反(3000平方メートル)の農地を市から借り受け、今年から15種類の江戸東京野菜(プラス他の地域の伝統野菜)を作り始めました。

「土の力」を知るための栽培に挑戦

それまで趣味として、休日を利用して畑仕事をすることはありましたが、本格的な栽培に取り組むのはもちろん初めて。
まず初年度は最も重要とされる「土の力」を知ろうと、肥料は植物堆肥、動物堆肥のみ。それも使用を極力抑えた栽培に挑戦しました。
伝統野菜を育てる秘訣は一にも二にも、その土地とのコミュニケーション。土からの声を聞けるかどうかにかかっています。天候不順で生育が心配されましたが、高倉ダイコンも幸い無事に収穫までこぎつけ、出来も上々のようです。

タネを取り、命を未来へつなぐ

農園

タネを取るという大事な仕事

しかし、伝統野菜の生産は収穫して完了ではありません。この後、出来がいいものを選んで植え直し、春に花を咲かせ、タネを取るという大事な仕事があります。
現在流通している野菜は、早く、強く、たくさん育てるのに適した一代限りの品種。そのため、タネを種苗会社から買って育てますが、伝統野菜の場合は固定種のため、生産農家が自ら採種する必要があるのです。

タネに込められた記憶・物語

「伝統野菜はどれも均一でなく、それぞれ個性を持っている。だからタネもこのように色や形や大きさがいろいろ微妙に違っているんです」。
そう言って見せてくれたのは、今年、福島さんが譲り受けた希少なタネ。その一粒一粒に時代ごとの人々の生活の記憶、この大根にまつわる物語が詰まっており、そこに思いを馳せられるのも伝統野菜の大きな醍醐味です。

子供たちの「命を未来へつなぐ農業体験」

このタネを自分だけでなく、次世代にも伝えていきたいと、福島さんは地域の小学校での食育活動に関わっています。
八王子市立大和田小学校・南野小学校の2校では現在、総合学習の時間に、学校で借りている農地で高倉ダイコンの栽培を実習。そのうちの1校に特別講師として出向き、年に20時間余りの授業を行っているのです。
これはたんなる収穫体験と違って、最初から最後まで手間暇をかけた、一貫した農業体験。子供たちは最後にタネを取って次期の学年にバトンタッチし、サイクルを作り、命を未来へつないでいきます。

人々の思いでよみがえる高倉ダイコン

近年、その価値が見直され始めた江戸東京野菜。中でも稀少な高倉ダイコンの知名度も上がり、地元・八王子では干し大根のほか、「生のものを調理して食べたい」というリクエストが寄せられるようになりました。それを受けて福島さんはまず、その生出荷用を担当するそうです。
生産農家が2軒になり、小学校での栽培実習も始まった高倉ダイコンは、人々の「伝統を大切にしたい」という思いを吹き込まれ、絶滅の危機からよみがえる兆しを見せています。

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