神戸市内で代々農業を営む森野和彦(もりのかずひこ)さん。年間約50種の野菜とお米を無農薬で生産しています。以前は田んぼに除草剤を入れていましたが、お客さんのニーズから完全な有機農法に切り替え、除草剤の使用をやめたそうです。
暑い夏、田んぼの草取りの大変さに悩まされ、アイガモ農法を取り入れることに。アイガモとはマガモとアヒルを交配させたトリで、田んぼに放つと除草効果などが期待できます。
アイガモ農法にはメリットだけでなく、デメリットもあります。しかし、この現代において家禽のいる暮らしから得られる家族の楽しみは、想像以上に大きなものでした。
■慣行農業から有機農業へ
なぜ有機農法に変えたのですか?
私たちは野菜とお米の直売、貸農園、そして米ぬかを使った酵素風呂を運営しています。酵素風呂はガンやアレルギーに抑制効果があると言われていて、自分も花粉症がひどかったこともあり、15年ほど前にはじめました。
酵素風呂に来ていただいているお客さんからオーガニックのお米と野菜が欲しいというリクエストが多かったことが理由です。父親の代までは除草剤を使う慣行農業だったのですが、途中から有機農法に変えたのです。
■6羽からはじまったアイガモ農法
なぜアイガモ農法をしているのですか?
そこでぶつかった最大の壁が、田んぼの草取りでした。神戸の夏はかなり暑くて、6月にもなるともう背中がジリジリして、倒れそうな暑さです。長靴で田んぼに入るのですが、畑の草取りとは段違いの労力が必要です。
これは何とかならないかと思い、アイガモ農法を試してみることにしたのです。子供の頃、父がニワトリを飼っていたので、トリを飼う事には慣れていました。最初は6羽のアイガモを買い、それ以降は孵卵器でヒナを人工孵化しています。今は50羽ぐらいに増えました。
アイガモ農法のメリットは何ですか?
何と言っても草を食べてくれることです。残っている草を少し自分で取ることはありますが、だいぶ楽になりました。虫も食べるので、妨害虫効果もあります。あとは、活発に泳ぎますから、土が撹拌されて発根がよくなります。アイガモの糞は肥料としても役立ちます。
逆に、デメリットはありますか?
田んぼに放つのはヒナでなければならないので、毎年孵化させる手間があります。田植えの5月にヒナを放ち、穂が出る前の8月には卒業です。成鳥は稲を食べてしまうので、秋以降はハウスで飼っています。その間はエサを与えているわけです。野菜くずや残飯を食べるので、さほどコストはかかりませんが、生き物ですから飼うには手間がかかります。
■アイガモが教えてくれたこと
手間がかかっても家禽を飼うのはなぜですか?
それは可愛いからです。半分ペットみたいなもので、もう家族の一員。我が家には3人の子供がいますが、子供たちもトリの様子をよく見ています。元気がないトリを見つけると心配して、私にその様子を伝えに来ます。動物は子供たちの優しさを育んでくれます。
本来のアイガモ農法は、最終的にはアイガモを締めて食べるのですが、私たちは食べません。つまりアイガモは寿命がきたら死んで、土に還っていくのです。すべては年月をかけて土になり、その土で野菜や米を作って食べているという実感があります。
■動物と子供たち、皆で作る田畑の姿
素敵な里山暮らしに合った農法ですね。
家禽を飼うのは、子供たちにとって大切な命の勉強でもあります。昔の農家では普通だったかもしれませんが、現代では難しくなりました。生命と食が直結しているという実感は、日々の生活の中から生まれるのだと思います。それは命の大切さや家族の絆を再認識することにも繋がります。
飼う大変さはもちろんあります。だけど、地域の人や子供たちが喜んでくれるのですから、やりがいがあります。小さな子供たちが田んぼに興味を持ってくれるというだけでも、価値があるのではないでしょうか。
毎日、私たちの農園ではアイガモと息子が元気に走り回っています。その光景を見るのは、私と妻にとって、この上ない幸福です。里山だからできる農家の暮らしを、これからも家族で楽しんでいきたいです。
森の農園
写真提供:森の農園