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熱海と小笠原をつなぐ「非加熱・減農薬のローハニー」を作る養蜂家

熱海と小笠原をつなぐ「非加熱・減農薬のローハニー」を作る養蜂家

静岡県熱海市伊豆山。海を見下ろす山の斜面にあるみかん農園の中に「伊豆山みつばち農園」があります。オーナーは2016年に養蜂を始めたばかりの柴崎文子(しばざきふみこ)さん。かつては小笠原諸島で環境省のアクティングレンジャー(希少種保護増殖等専門員)などの仕事もしていた柴崎さんは、なぜ養蜂家になったのでしょうか。

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養蜂を始めて1年半で「熱海ブランド」に

養蜂

「香りや風味にミカンを感じます。ミカン畑が目に浮かんでくるようです」。
柴崎さんのハチミツの香りを嗅ぐと「熱海ブランド」の審査員はこういったそうです。静岡県熱海市伊豆山にある「伊豆山みつばち農園」で、柴崎さんが製造した「みかんの蜂蜜」は、2017年10月に新規「熱海ブランド」として認定されました。

熱海ブランドとは、熱海市商工会議所が認定する「熱海を代表するにふさわしい」とする品です。柴崎さんは、養蜂を始めてわずか1年半でこの栄誉を獲得しました。

「養蜂を始めたばかりでもあり、胸を張って『養蜂家です』と名乗るなんておこがましいという気持ちです。地元の方々に試食してもらったとき『柑橘の香りがほのかにする。昔このあたりで作っていたハチミツと同じ味でおいしい』と言ってもらえて、そのことが支えになりました」と語る柴崎さん。

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巣箱2つからスタートして、1年半で9箱まで増やしました。一人で養蜂、採蜜、品質チェック、瓶詰め、ラベル貼り、納品などすべてを手作りで行っています。そのため現在は生産数も限られていますが、柴崎さんは一つの夢の実現に力を注いでいます。

それは、「ある花から採れるハチミツをブランドにし、売上の一部を小笠原諸島にしか生息しないアカガシラカラスバトという鳥の保護基金に寄付する」というものです。

青い海に惹かれて小笠原へ

柴崎さんは、大学在学中にダイビングで訪れた小笠原に魅了され、卒業してから23年間住んでいました。一般人が住むことができる父島、母島両方で暮らしていた経験があり、その間は自然保護に関する仕事やアルバイトをしていました。

小笠原諸島はどこの陸地からも遠く、島の成立以来、一度も他の大陸とつながったことがない「海洋島」です。そのため、独自の進化を遂げた生物が作り出す独特の生態系があります。その特殊性と希少性で2011年には世界自然遺産にも登録されています。

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そして、研究者のサポートや自然保護関係の地元NPOの一員として、また環境省のアクティングレンジャーとして小笠原の自然に関わっていました。

保護活動の対象の一つに、アカガシラカラスバトがありました。2008年頃には「残りあと40羽しかいない」「このまま手を打たなければ50年以内に絶滅」といわれた鳥で、地球上で小笠原諸島にしか生息していません。

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2008年にこの鳥を守るための国際ワークショップが開催され、以降、国や小笠原諸島が属する東京都、村、現地NPO、現地の住民たちが一体となって10年以上に及ぶ保護活動を展開してきました。そのかいあって、2017年ではなんと300羽から400羽にまで数を増やしてきています(特定非営利活動法人小笠原自然文化研究所調べ)。

この保護活動に柴崎さんも関わっていました。ほんの10年前まではほとんど見ることができなかったアカガシラカラスバトが、人家の庭先や道路にまで出現するようになった時の感激を、今も忘れられないといいます。

熱海への移住、そして養蜂スタート

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しかし、2011年に柴崎さんは健康上の理由で治療のために島を離れることになりました。

「島との別れが悲しくて、島を離れることはほんの一握りの人にしか伝えませんでした。本州に戻ってからも、小笠原が取り上げられたテレビ番組なども見ないようにしていたぐらいです」。

静岡県熱海市を移住先に選んだのは、小笠原で知り合った友人夫婦が熱海に住んでいたからでした。しかし、小笠原とは異なる自然や環境に戸惑う日々が続いたそうです。

そんなとき、友人夫婦から養蜂をやらないかと誘われたのです。最初は乗り気がしなかったのですが、小笠原でミツバチの花粉について調べていたことを思い出しました。

「小笠原は日本で初めて養蜂が行われた場所なんです。島では今も養蜂をしている農家がいます。だからセイヨウミツバチは見慣れた存在でした。セイヨウミツバチの足についた花粉を調べると、どんな花を利用しているのか分かります。ミツバチと植物の関係を知ることが面白くて、顕微鏡で花粉を夢中になって観察していました。それを思い出して、養蜂をやればミツバチを通じて熱海の自然と近づけるかもしれないと思ったのです」。

さっそく近隣の養蜂家を訪ねて指導を仰いだり、養蜂講座に参加して巣箱とセイヨウミツバチを購入しました。養蜂をスタートしたのは2016年4月からです。

非加熱・低農薬のローハニーを生産

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「養蜂はハチという生きものの生死に直面する真剣勝負でもあります。ミツバチにダニがついたり病気になったりもします。花が少ない季節には隣の集団を襲って蜜を横取りすることもあります。襲われた集団は弱って死んでしまうこともあります。

夏から秋にはスズメバチがミツバチを襲ってきます。スズメバチに罪はないけど殺さなければならなくて胸が痛みます」。

だからこそ、ミツバチたちが必死に集めた蜜は感謝していただきたいと、柴崎さんはいっています。減農薬栽培のみかん農園に巣箱を置かせてもらって、集めた蜜は非加熱で酵素などの栄養分を壊さない「ローハニー」として出荷しています。

養蜂が熱海と自分をつないでくれた

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写真右から2番目の濃いハチミツが、カラスザンショウやホルトノキを蜜源にしたハチミツ。少しスパイシーで苦味のある大人向けの味です。

養蜂を始めてから、熱海の自然にも目が向くようになりました。シイやイチョウなど、小笠原には生息しない植物で覆われた山や森を見ていると、見慣れた植物がふと目に飛び込んできました。

「カラスザンショウでした。小笠原にはアコウザンショウという同じミカン科の木があって、葉のシルエットや花がそっくりです」。

近くの神社を歩いていて、ホルトノキがあることも分かりました。小笠原には近縁のシマホルトノキがあります。そしてこれらの花は蜜源になっていることも分かったのです。見知らぬ人ばかりの土地で、旧友を見つけたような懐かしさが込み上げてきました。そのとき、脳裏に一つのアイディアが浮かびました。

「かつて保護活動に関わっていた小笠原のアカガシラカラスバトは、アコウザンショウやシマホルトの実を好んで食べています。そして、私が飼っているミツバチが熱海のカラスザンショウやホルトノキを蜜源にしていることに、不思議なつながりや縁を感じたんです」。

アカガシラカラスバトの保護活動の一つに、お菓子やTシャツ、てぬぐいなどの関連グッズを制作、販売することで知名度を高めて売上の一部を保護活動に還元する活動があります。柴崎さんは、自分のハチミツで同じ保護活動を行おうと考えたのです。

「今ネーミングを考えていますが、ラベルには小笠原のイラストレーターにアカガシラカラスバトの絵を描いてもらって、説明のタグを付けて販売します。そして売上の一部を保護活動に寄付したいと思っています。今はこれが一番仕事へのモチベーションを上げています」。

蜜源植物に農薬が使われればミツバチも影響を受けます。ミツバチが健康であることは環境も汚染されていない証拠です。出来る限り農薬を避けて非加熱のハチミツにこだわっているのは、小笠原の生態系全体を守ろうとしている島の保護活動と通じます。
さらにそれは、今自分が暮らす熱海の自然を守ることにもつながります。

柴咲さんは、カガシラカラスバトに限った話ではなく、養蜂を通して熱海の自然をも大切にしたいと思い始めたのかもしれません。アカガシラカラスバトのためのハチミツ販売の知らせが楽しみです。

伊豆山みつばち農園

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