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灌漑(かんがい)とは?主な灌漑方式とメリット・デメリットなど解説

灌漑(かんがい)とは?主な灌漑方式とメリット・デメリットなど解説

「灌漑(かんがい)」という言葉をなんとなく知ってはいるけれど、明確に説明できないという方は意外に多いのではないでしょうか。用水路や排水路、ため池やダムなどの灌漑施設とそれらの管理は、農作業を効率よく行うために欠かせないもの。そこで今回は、灌漑についての知識を改めてご紹介します。

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灌漑は水田に必要不可欠

農作物を育てるのには一定量の水が必要ですが、山が多くて平野が少ない日本の地形では、雨が降っても短時間で海に流れ出てしまいます。そのため、雨の少ない季節や干ばつに備えておかねばなりません。そこで考えられたのが灌漑です。

灌漑とは、河川や地下水、湖などから水を引き、農業物を育てるために田や畑へ人工的に給水をしたり排水をしたりすることです。灌漑のしくみを用いた灌漑農業は、さらに水田灌漑と畑地灌漑に分かれます。このうち、日本において大部分を占めるのが水田灌漑です。

灌漑では川からの水を共同作業で水田に引水しなければならないため、集落の形成につながったと考えられています。佐賀県の菜畑(なばたけ)遺跡では、日本最古とされる水田跡が確認されました。この遺跡は縄文時代後期のものとされ、日本ではこの時期に灌漑が始まったようです。

意外に知らない灌漑のしくみ

灌漑を実行するためには、水源を確保し、送水や分配の施設を整備しなければなりません。

水田灌漑では主に河川から取水し、用水路を通じて水田まで引きます。

以前は樋門(ひもん)や樋管(ひかん)などの暗渠(あんきょ)から直接取水していましたが、現在では取水口を一か所にし、河川に堰を設けることで安定的な取水が可能になりました。畑地灌漑では、まずダムからの水を吐水槽に貯め、自然流下によってファームポンドに蓄えます。

そこからそれぞれの耕作地に用水を引き、スプリンクラーなどで給水。スプリンクラーは水に高圧をかけて散布するため、農作物の生育だけではなく、風害や高温、病害虫を防ぐことなどにも効果があります。

農作業で使用した水は地下水になったり河川へ流れたりして、下流域で再度利用されます。この循環を繰り返すことで水の循環を健全に保つことが可能です。

灌漑は単に農地用水の利用の一部としてではなく、大規模な水資源の総合施設としてさまざまな役割を担っていえます。

主な灌漑方式は?

土壌表面灌漑

土壌表面に水を流し込む方法で、水路や流路を設けることが多いです。地中に浸透し、農作物の根に水が行き渡ります。灌漑が行われると、土壌表面には水がたまり、水の蒸発によって水分が失われる場合もあるため、効率はあまり高くありません。

噴霧灌漑

水を小さな水滴に分け、スプリンクラーを使って空中から散布する方法です。この方法は、土壌表面に水がたまることがないので効率が高く、また風向きや風速などの気象条件に左右されることも少ないため、比較的安定した灌漑ができます。

滴下灌漑

水を微細な滴で供給する方法で、パイプやホースに穴を開けて、滴下器を使って点滴式に水を供給します。この方法は、水のムダが少なく、土壌中の水分を維持しやすいため、非常に効率が高いです。また、地中に敷設することができるので、農作物の育成に邪魔にならず、土壌の侵食を抑制する効果もあります。

地下灌漑

地下に水を供給する方法で、パイプやホースを地中に埋め込み、地下水を利用して灌漑を行います。この方法は、土壌表面の水分蒸発を防ぐことができるため、非常に効率が高く、地下水の再利用にもつながることがあります。

溝灌漑

水を溝の中に流し、農作物の根に水を供給する方法で、溝を掘る必要があります。この方法は、効率がそれほど高くないため、現在はあまり使われていませんが、土壌の特性に合わせて使われることもあります。

灌漑によるメリットは?

農作物の生産性向上

灌漑により、農作物の根に水が直接供給されるため、乾燥地帯や水不足の地域でも作物の生産が可能になります。また、作物の生長期間や生育量が増え、収穫量が増加することがあります。

水の効率的な利用

灌漑は、水を効率的に利用する方法の1つであり、農作物の根に直接水を供給することにより、水のムダが少なくなります。灌漑により、水を循環利用することができ、地域の水不足問題の解決にもつながります。

土壌の保護

灌漑では、土壌中の水分量が保たれるため、乾燥地帯や砂漠化が進んでいる地域でも土壌の保全ができます。土壌の侵食や流出を防ぎ、土壌を守ることができます。

地域経済の発展

灌漑により、農作物の生産が増加し、地域経済が発展することがあります。加えて、灌漑施設の建設や維持管理が必要なため、雇用の創出にもつながります。

灌漑によるデメリットは?

土壌の塩分濃度の増加

灌漑で、地下水や河川の水を使用する場合、水中に含まれる塩分が土壌中に蓄積され、土壌の塩分濃度が高くなることがあります。土壌の塩分濃度が高くなると、植物の生育が悪くなり、農作物の収穫量が減少する可能性があります。

地下水の枯渇

灌漑は、地下水を利用する場合、地下水の枯渇や水位の低下が起こることがあります。特に、過剰な灌漑により、水が浸透して地下水脈にまで達してしまうと、地下水脈の水位が低下し、地下水の枯渇が進む可能性があります。

水質汚染の可能性

灌漑では、地下水や河川の水を使用する場合、肥料や農薬などの化学物質が土壌中に蓄積され、地下水や河川の水質汚染の原因となることがあります。

灌漑施設の維持管理の負担

灌漑施設の建設や維持管理には多額の費用がかかり、灌漑施設の老朽化や破損による修繕費用も必要になるため、負担が大きくなることがあります。

オアシス農業とは?

オアシス農業とは、砂漠や半砂漠地域での農業のことを指します。砂漠や半砂漠地域では、年間降水量が少なく、気温も高いため、農業に適した環境とは言えません。

しかし、オアシス農業は、砂漠地帯に点在する天然の水源(オアシス)を利用して、限られた水資源を効果的に活用し、農業を行う方法です。オアシス農業の特徴は、以下の通りです。

水利用の効率化

オアシス農業では、限られた水資源を効率的に利用するのに、滴定灌漑や地下水利用などの技術が用いられます。また、地下水位の変化を把握するための観測網が整備され、適切な水利用が実現されます。

耐塩性のある農作物の栽培

砂漠地帯には、塩分濃度の高い地下水が多く存在します。オアシス農業では、耐塩性のある農作物の栽培が行われ、塩害による被害を最小限に抑えます。

人々の共存

オアシス農業は、オアシス周辺の人々が、水の共有や農地の共有を行っています。また、水利用のルールや慣習が存在し、水の乱用や無断開墾を防止することができます。

生態系の保護

オアシス農業は、砂漠地帯の生態系を保護する役割も持っています。農地の周辺には、樹木や草本植物などが植えられ、緑の帯が形成されます。これにより、砂漠化を防止し、豊かな自然環境を維持することができます。

日本の灌漑は世界的にも独特?

日本の灌漑は世界的にも独特なものであり、多くの特徴があります。日本の灌漑の特徴は以下のとおりです。

小規模で分散した灌漑

日本では、農地が小規模で分散しているため、灌漑も小規模で分散したものが多いです。したがって、各農家が自分の畑を管理することができ、効率的な灌漑が実現されます。

サイクル灌漑

日本では、サイクル灌漑という方法が用いられています。これは、灌漑用水を池などに溜めておき、必要な時に畑に供給する方法です。この方法により、用水の節約が可能となり、水不足に対する対策も進んでいます。

畑の段々化

日本の灌漑では、畑を段々にすることが一般的です。そのため、水が上流から下流へと流れやすくなり、効率的な水の供給が可能となります。

農業と水源の共存

日本の灌漑では、農業と水源の共存が重視されています。水源の水質や流量を保全するための取り組みが進められており、水利用の制限や規制も行われています。

灌漑は将来の食料確保のためのビッグプロジェクトにも

2017年に国連が発表した調査結果によると、世界人口は現在の76億人から2030年には86億人になり、その後も増え続けると予測されています。増加する人口に対応するための食料確保が課題となっている現在、農業生産率の向上を支える灌漑施設の整備は、世界的に大きな課題であるといえます。

国際かんがい排水委員会(ICID)は、灌漑施設の適切な保全などを目的とし、2014年に「世界かんがい施設遺産」制度を創設しました。建設から100年以上が経っていること、灌漑農業の発展に貢献したことなどが登録の条件で、日本では2017年時点で31の灌漑施設が登録されています。

一方で、灌漑は老朽化や環境との調和、管理の仕方など、さまざまな課題を抱えており、これらに対する施策が求められているのが現状です。

まとめ

以上、灌漑のしくみや将来についてご説明しました。日本で農業に携わる際、水資源の問題は避けて通れないもの。今以上に関心を持って考えてみてくださいね。

<参考>
農林水産省:日本のかんがいの特徴と最近の課題

岩手県農林水産部農村計画課:畑地かんがいの効果について

農林水産省:世界かんがい施設遺産

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