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灌漑(かんがい)とは。意味や種類、日本の風土に適した技術の仕組みと歴史を解説

灌漑(かんがい)とは。意味や種類、日本の風土に適した技術の仕組みと歴史を解説

農業において欠かすことのできない「灌漑(かんがい)」。ニュースや社会科の授業などで耳にしたことがあっても、具体的な仕組みやその重要性について詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。
本記事では、灌漑の基本的な意味や目的から、世界で導入されている代表的な種類、水に恵まれた日本の風土で独自に発展してきた技術と歴史、そして気候変動に対応する最新のスマート灌漑技術までをわかりやすく解説します。

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灌漑とは?意味と目的

灌漑(かんがい)とは、農作物の生育に必要な水を、河川や地下水、湖沼などから人工的に農地へ供給することを指します。
農作物が育つためには適切な水分が不可欠ですが、降雨(雨水)だけに頼る農業(天水農業)では、天候によって収穫量が大きく左右されてしまいます。灌漑設備を整えることで、以下のような目的を達成できます。

・干ばつなど気象条件の影響を最小限に抑え、安定した食料生産を可能にする。
・生育ステージに合わせた適切な水分管理により、品質の高い農作物を育てる。
・本来は降水量が少なく農業に適さない土地でも農業ができる。

このように日本の農業を支える基盤として、古くから農業用水路やため池などの灌漑施設が整備されてきました。安定した食料供給において、灌漑は最も重要なインフラの一つです。

灌漑技術の歴史

灌漑の起源は実に古く、紀元前5500年頃にチグリス川とユーフラテス川流域のメソポタミア地域や、ナイル川流域のエジプトから始まったといわれます。農耕用灌漑跡として最古の遺跡は、1万年前から7000年前のものとされる、パプアニューギニアにある「クックの初期農耕遺跡」で、現在は世界遺産にも登録されています。

日本でも縄文時代末期から弥生時代中期の水田跡が残る佐賀県の「菜畑(なばたけ)遺跡」で、水の流れを調節したり川水をせき止めたりする井堰(いせき)など灌漑農業が行われていた痕跡が発見されています。それまでの農業は、いわゆる恵みの雨だけを頼りにしていましたが、灌漑の開発により安定的に田畑に水を供給できるようになったことで、収穫量は飛躍的に向上しました。また、灌漑や用排水路を築くためには共同作業が必須なことから、集落が形成されるなど、人々の生活を大きく変えたといわれています。

灌漑農業の種類と仕組み


上述のように、人工的に水をひいて農地に水を供給して作物を栽培することを灌漑農業と言います。
地形や気候、育てる作物、利用できる水資源の量に合わせて、さまざまな方法が存在しますが、日本の灌漑農業は主に、水田に水を流すための「水田灌漑」と、畑に水を流すための「畑地灌漑」の2つに大別されます。このうち大部分を占めているのは水田灌漑で、長い歴史を経て全国に張り巡らされた日本の農業用の用排水路のネットワークの長さは、地球10周分に相当する延長40万キロにも及んでいます。

水田灌漑

灌漑を構築するためには、まず水源の確保が必要で、日本に多い水田灌漑の場合、取水源は主に河川になります。水源が確保できたら、河川の水を農業用水として水路に引き込む取水堰(せき)や取り入れ口などの頭首工(とうしゅこう)、くみ上げた水を耕地まで運ぶための用水路、余分な水を安全に河川等に排出するための排水路、さらに渇水に備えて貯水するためのダムや溜め池を作ることで、ようやく灌漑の仕組みが完成します。

畑地灌漑

一方、畑地灌漑は水田灌漑の仕組みとは異なり、水源から水をポンプで汲み上げ、パイプラインを通じて高所に設置された吐水槽に貯め、自然の高低差を利用して流下させ、ファームポンド(貯水槽)に農業用水を貯めておきます。そこからそれぞれの耕作地に用水を引き、必要なときにスプリンクラーなどで給水する仕組みとなっています。茶畑や広大な牧草地、野菜畑などで広く利用されており、地形の起伏に関わらず均一に水をまくことができますが、風の影響を受けやすいという欠点があります。

日本の風土に適した灌漑農業の歴史と仕組み

世界の多くの地域が乾燥地帯であるのに対し、日本は温暖湿潤気候に属しており雨量が多く、水に恵まれた国です。しかし、日本の地形は山がちで河川が短く急流であるため、降った雨はすぐに海へ流れ出てしまいます。
つまり日本には、雨量が多い割には実際に利用できる水の量は意外と少ないという特徴があるため、安定して農業を行うために日本では独自の灌漑技術が発展しました。

日本のコメ作りを支える「ため池」と「用水路」

古来より、水を大量に必要とする水稲栽培がいとなまれてきた日本。水を確保し、必要な時期に田んぼへ引くために整備されたのが「ため池」や「農業用水路」です。

ため池

降水量が少なく大きな河川がない地域(瀬戸内海沿岸など)で、雨水や湧き水を貯水するために作られました。農林水産省のデータによると、現在でも日本全国に約15万カ所のため池が存在しています。

農業用水路

河川の上流から水を取り込み、広範囲の農地へ配水するネットワークです。日本の農業用水路の総延長は約40万kmにも及びます。

灌漑農業が周辺環境にもたらす効果

灌漑の一番の目的は、農作物に安定的に水を供給する点にありますが、実はそれ以外にもいくつかの大切な役割を担っています。少し古いデータになりますが、農林水産省が「農業用水が有する多面的な機能」の中で公表した「灌漑農業が周辺の環境にもたらす経済効果の評価額」は、1994年の試算(※)で実に約4兆6000億円に達するとされています。
灌漑のシステムが農業以外にもたらす効果には、おもに次のようなものがあります。

※ ヘドニック法により試算。ヘドニック法は環境条件の違いが地価や賃金などにどのような影響を与えるかを計測し、環境の価値を評価する方法。

水の循環

農作業で使用した水は、大部分が地下水になり河川へ還元され、下流域で農業用水や都市用水として再度利用されます。

地域用水としての活用

明治以降、日本では法制度上、灌漑用水は農業用水であると解釈されていますが、農業用水としての機能を侵さない範囲で、地域用水として活用することが認められています。地域用水は次のような用途に活用され、地域の生活を支えています。

・生活用水:農機具や野菜類の洗浄のほか、家庭菜園に使ったり、庭に水をまいたりするなどの目的で活用
・防火用水:災害時に消防車に水を供給するといった目的で使われ、豪雪地帯では除雪などに使用する消流雪用水としても活用
・景観保全:遊歩道や公園のじゃぶじゃぶ池など、子供たちの遊び場や大人の安らぎの空間として活用

灌漑農業とオアシス農業の違い

灌漑農業の一種に、「オアシス農業」と呼ばれるものがあります。これは、水の確保が難しい乾燥地帯で、地下水や湧水のほか、多雨地域の水源から流れてくる外来河川の水などで 灌漑を行って、穀物や綿花・果実などを栽培する農業のことを指します。地下水路は、イランでは「カナート」、アフガニスタンでは「カレーズ」、北アフリカでは「フォガラ」と呼ばれ、これらの地域ではオアシス農業が発達しています。
ただし、乾燥が激しい地域でオアシス農業を行うと、蒸発できない塩分が地表近くにたまり、土壌に塩害が発生 するリスクがあり、土壌の塩分濃度が上がると植物が育たなくなってしまいます。また、河川の水を利用している地域では、過剰取水による環境破壊も問題となっています。

灌漑をめぐる現代の課題と現状

灌漑は人類の食料生産を支えていますが、同時に大きな課題も抱えています。

世界の淡水取水量の約7割が「農業用水」

FAO(国連食糧農業機関)によると、世界で人類が利用している淡水(地下水や河川水)の約72%が農業用(主に灌漑)として使われています。
人口増加による食料需要の増加に伴い、過剰な地下水の汲み上げや河川の枯渇、さらには灌漑による土壌の塩類集積(塩害)が世界的な環境問題となっています。

施設の老朽化と担い手不足

日本国内における課題は「水不足」よりも「インフラの老朽化」と「担い手(管理者)の不足」です。
高度経済成長期に整備された農業用水路やため池などの灌漑設備が更新時期を迎えていますが、これらのインフラ機能を維持していくことが喫緊の課題となっているほか、農家の高齢化や人口減少により、水路の草刈りや泥上げといった維持管理の担い手も不足しています。

灌漑に関するよくある質問

Q1 灌漑と治水(ちすい)の違いは何ですか?

主な目的が異なります。灌漑は、農作物を育てるために人工的に水を供給する「利水」の一つです。対して治水は、洪水などの水害から人命や財産を守るために、河川や堤防を整備・管理することを指します。なお、国内のダムの中には、これら灌漑と治水の両方の機能を併せ持つ「多目的ダム」も多く存在しています。

Q2 日本で最も大きいため池はどこですか?

香川県まんのう町にある「満濃池(まんのういけ)」です。有効貯水量は約1,540万立方メートルに達し、日本最大規模の農業用ため池として「ため池百選」にも選定されています。

まとめ

私たちが毎日口にする食べ物は、先人たちが築き上げ、現代の技術で進化し続ける「灌漑」の仕組みによって支えられています。農業の基盤である水に目を向けることで、日本の農業の未来がより深く理解できるでしょう。

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