会津の真ん中は農業のど真ん中
「湯川村は基幹産業である農業を盛り立てていくために、村外からの移住就農希望者を受け入れる体制を整えています」と話すのは、湯川村産業建設課商工観光係長の川島茂宏(かわしま しげひろ)さん。村域面積1,637ヘクタールの約67%が農用地という村は、古くから「米と文化の里」と呼ばれています。「田植えの時期には村全体が一枚の田んぼのような美しい緑の絨毯になる」という農業環境は農家の高齢化や後継者不足などの課題を抱え、これから大きな転換期を迎えることが予想されることから、村は10年後、20年後を見据えた対策に着手し始めています。
地元の「JA会津よつば」と共同で農業法人を設立し、農家の高齢化、後継者不足などにより耕作継続が困難な農地を引き受け、将来的には、村の水稲面積約900ヘクタールのうちおよそ3分の1、300ヘクタールを担う計画としています。
また、後継者創出のために、村は湯川村新規就農支援協議会を設置し、就農希望者をサポートする体制を構築しました。協議会は研修受入れ先農家の紹介から、農地の紹介・あっせん・住宅の提供など、就農希望者の不安を可能な限り払しょくする支援を行います。さらにその前段として、村を知り、村での生活を確立することと、地域資源の理解と情報発信を担う人材として農業研修希望者を募集しています。
農業研修希望者として最長3年活動する中で、村内の農業法人、農家で研修し、農業技術を身に着けたのちに、新規就農者として国、県、村の支援(就農後最長5年)を活用し、農業者として自立してもらうロードマップを用意しました。「地方で、その土地に溶け込んで農業をしたいという方に、湯川村を選んでいただけるように」。湯川村は走り出しています。
農業研修希望者第1号が誕生
湯川村農業研修希望者に2017年4月、25歳の若者が着任しました。染谷俊(そめや しゅん)さんは茨城県坂東市出身。実母の出身地が湯川村に近いこともあり、幼いころから会津地方に住むことに憧れていたと言います。「会津の田園風景の中で生活したい」という思いを抱きながら、進学した大学では微生物を専攻。土づくりへの関心を深めました。実家は父が経営する土木建設業。3人兄弟の次男は「農業に就きたくても、その術がなかった」。〝会津地方に住むこと″と〝農業に就くこと″を心に秘めた若者は、湯川村が農業研修希望者を募集していることを知り、「これだ!」と思い、迷うことなく応募。隊員となって〝会津地方に住む″という1つ目の願いを叶えました。
大学時代に都心で暮らした経験のある染谷さんは「様々な人が『ここには何もない』と言いますが、私には〝何でもありました″」と目を輝かせます。四季折々の表情を見せる自然、情の厚い人間関係。土地と人との結びつき。自然の恵み。回り道をしないで届く野菜の鮮度。そのどれもが「湯川村の魅力」だと言います。村の特産品「アスパラガス」の歯ざわり、サツマイモの糖度、ナスの「肉のようなジューシな歯ごたえ」を味わい、染谷さんは村で「とても贅沢な日常」を過ごしています。
「アパートを借りようとしても割と高額で、知人がいるわけでもない土地での生活を始められたのは、村のサポート体制のおかげ」という染谷さんは、村が用意した農業体験・民泊施設で生活しています。
農業研修希望者として、福島大学・岩崎由美子ゼミの学生が企画した、村内・堂畑地区の農産品を、道の駅や福大祭で販売する「堂畑マルシェ」の運営経験をヒントに、新たなマルシェの企画・運営や、米以外の農産物の生産・販売拡大のためのPR方法を立案しています。
その一方で、自立就農を目指して、研修先農家で実践的な農業を学ぶ日々を送っています。「渡部園芸の渡部貞雄さんは、農業専門誌で何度も見たあこがれの存在。その渡部さんに土づくりについて直接指導していただけるとは夢にも思いませんでした」。
農業研修希望者として最長3年、その後、新規就農者として最長5年という支援を受けながら、自立を目指す染谷さん。1年目の現在は、借りた土地で大玉トマト、キュウリ、オクラ、ナスなど、少量多品目生産に取り組んでいます。「〝土づくり″というテーマを追求して、自分らしい作物を生産したい。いつか村を代表するような野菜をつくりたい」。2つ目の願いを叶えるために。染谷さんの湯川村物語は始まったばかりです。
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