畜産業が盛んな湖西市が抱える臭気問題
静岡県湖西市は、県内でも畜産が盛んな地域として知られています。現在、湖西市で畜産業を営む軒数は、養豚が11軒、養鶏(採卵鶏)が2軒、ウズラ(卵)が2軒、肉牛が11軒、酪農が3軒。県が発行する2016年の『静岡の畜産要覧』には、豚の飼養頭数が県内第1位、肉牛の飼養頭数が県内第3位とあります。
その一方で、市街地付近の養豚場の臭いに関する苦情が多数寄せられるなど、市は畜産業による臭気問題も抱えていました。
「苦情が寄せられ始めた時期はわかりませんが、宅地開発などで山が切り崩され、風の向きが変わってから件数が増えたように感じます。また、1999年頃のデータに畜産環境衛生対策協議会の規約があるので、恐らくその頃から臭気の対策は講じられていたと思います」と吉田さんは語ります。
悪臭をナッツの香りに変える「デオマジックHG」
湖西市はこれまで臭気を改善すべく、畜舎にカーテンを付けて臭いを防いだり、堆肥に臭いを抑える消臭剤を散布するなど、様々な取り組みを行ってきました。
「ほかにも消臭飼料を混ぜて給餌をしたり、業者と連携して、竹チップなど消臭効果がある資材の導入実験なども行いました。しかし、思うような消臭効果を得ることはできなかったのです」。
対策に困っていた2015年9月頃、湖西市は市民からDVDの提供を受けます。DVDには株式会社科学飼料研究所より販売されている、農業・酪農用の消臭剤である「デオマジックHG」を紹介したニュース番組が録画されていました。
デオマジックHGは「悪臭を良い匂いに変える」という新しいコンセプトのもとに生まれました。溶液を希釈し、ミスト噴霧することで、悪臭をナッツ系の甘い香りに変える効果があります。また、香料は食品添加物を使っていて、安心して使用できます。
湖西市による助成金制度も導入
デオマジックHGの存在を知った湖西市は、農協や経済連、農家と連携して、2015年12月と2016年1月に実証実験を行いました。そこで、デオマジックHGの効果を体験した農家が興味を示しました。その場で従来からある補助制度に、デオマジックHGの購入や散布装置などにかかる費用の3分の2を助成することを決めたそうです。
また、農協と経済連はデオマジックHGの購入ルートを素早く確立し、湖西市の農家が購入しやすい環境を整えました。
「市のモニタリング調査では、デオマジックHGを導入してから、臭気を感じるという日数は減少したという結果が出ています。ですが、臭気に関する苦情は現在も寄せられています。そのため、確実に効果があったかどうかは、判断が難しい部分があります。
ですが、こまめな清掃や畜舎の密閉など、畜舎や堆肥舎から極力臭気を出さない対応をした上で散布をすれば、より『デオマジックHG』の効果があるのではないかと考えています」。
現在、湖西市内でデオマジックHGを導入している農家は、養豚が7軒、ウズラが1軒だといいます。
臭気対策で畜産業に貢献 臭気問題に対する今後の展望
「臭気対策を行うことは、市の畜産業の継続に繋がる」と吉田さん。その理由は、それぞれの市で定めている、悪臭防止法にあるといいます。
悪臭防止法に基づく規制値を超えてしまうと是正命令などが下り、最悪の場合、その事業が廃業に追い込まれてしまう可能性があります。そのため、臭気対策をしっかり行うことが、今の場所で安定して経営していくために必要です。
湖西市は今後も農家に対して、臭気対策の補助を継続する予定です。
「新しい臭気対策の技術や、資材に関する情報収集を積極的に行っていきたいですね。畜産業が継続的に安定して経営できるよう、今後も臭気について農家さんと一緒に考えていきたいと思います」。
「畜産業を続ける上では、近隣住民との関係が大切」吉田さんの積極的な取り組みは続きます。住民も農家も暮らしやすい街になるよう、行政と農家が一体となって対策を行う湖西市の取り組みは、臭気問題を抱える地域に良い影響をもたらしてくれることでしょう。
【取材先情報】
湖西市役所
画像提供:湖西市役所