気候シフトでピノ・ノワールの導入成功事例が拡大
導入成功したのは、1998年にピノ・ノワールを植えた北海道空知地方三笠市の農家発ワイナリーの、初ビンテージ赤ワイン(2002年産のブドウで醸造、2003年に初リリース)が高い評価を得たことです。これ以降、少しずつ北海道内でピノ・ノワールの栽培と醸造に成功した事例が広がってきたのです。
この理由について、農研機構の研究グループが行った研究で明らかとなったのが、北日本で「気候シフト」が起きたことが挙げられます。気候シフトとは、気温や風などの気候が、十年から数十年間隔で不連続に変化することを言います。
研究グループが北半球における高層大気場と海水面温度などの統計解析を進めたところ、北日本で1998年を境に気候シフトが起きていることがわかったのです。1998年といえば、初めてピノ・ノワール栽培に成功した農家が、ピノ・ノワールを植え始めた年に合致します。

後志地方余市町と空知地方三笠市のワイン用ブドウ畑の4~10月の平均気温の推移
ワイン用のブドウ産地として知られる、後志地方の余市町や空知地方の三笠市における、4月から10月の平均気温を見てみると、1997年までは13℃から15℃程度を推移していたのに、1998年以降は14℃を上回っています。
ピノ・ノワールが栽培されている世界の産地は、ブドウ栽培の時期にあたる4月から10月の平均気温が14℃から16℃の温度帯にあります。つまり、余市町や三笠市で平均気温が14℃を超えたということは、ピノ・ノワールの栽培に適した気候になってきたということです。

北海道の各地域の4~10月の平均気温の推移
さらに、現在北海道でピノ・ノワールが現在栽培されている地域についても調べてみました。上川地方の上富良野町で1998年以降、平均気温が14℃以上に上がっており、さらに2010年以降になると、オホーツク地方の北見市、石狩地方の札幌市藤野などにおいても14℃以上でピノ・ノワールの栽培適温域に入ったことが明らかになりました。
この気候シフトに加え、地球規模で進んでいる長期的な温暖化によって、それまでは実現できなかったピノ・ノワールの栽培成功につながったのだと考えられます。