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アグロフォレストリーって?他の農法との違い・メリット・デメリットなど紹介

連載企画:林業を知ろう

アグロフォレストリーって?他の農法との違い・メリット・デメリットなど紹介

農地確保のために森林を切り開くことは、もうやめよう…。そのような考え方に基づき、アマゾンなどの熱帯雨林地域を含む世界各国で、農業と林業を両立する「アグロフォレストリー」が注目されています。
環境を守るとともに、現地の人々が持続的に収入を得ることができる農作物の生産手法として期待されるアグロフォレストリーの普及活動の陰には、日本人の姿もありました。今回は、その歴史と展望に迫ります。

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アグロフォレストリーとは?(農業+林業)

アグロフォレストリー(Agroforestry)は、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた言葉で、1970年代から使用されるようになりました。

熱帯雨林地域の従来の農業では、森林を伐採して農地や牧場を確保する方法が主流でしたが、その影響で土地が広範囲にわたり荒廃しました。

こうした中、荒廃地を再生する方法として注目を集めたのがアグロフォレストリーです。成長サイクルが異なるさまざまな植物が共存する森林の本来の在り方にならい、複数の農作物を栽培・収穫(混植農法)しながら、森林再生を目指す方法を指します。

現地住民の農業による収入向上はもちろん、森林再生による生物多様性の保全や地球温暖化防止にも貢献できるとして期待されています。

きっかけは「黒いダイヤ」の反省

アグロフォレストリーの歴史を語る上で重要な地域が、1929年に日本人移民が入植したブラジル北部のトメアス市です。トメアス市は1950年代に当時「黒いダイヤ」と呼ばれたコショウ栽培で一時、莫大な富を得ました。しかし、コショウは病害で壊滅的な被害を受け、他の基幹作物が必要となりました。

単一栽培に頼っていた農業への反省から、日本人移民を中心としたトメアス総合農業協同組合がカカオの植樹を提案。こうしてさまざまな作物を同時に育てるアグロフォレストリーが地域に根付いたと言います。

トメアス市の荒廃地では、病害に弱いコショウが10年以内に枯れると見越した上で、コショウと共に果樹などの他の苗や樹木を一緒に植えていきます。5~10年後にコショウが枯れたころに果樹を収穫することができ、20年後以降には高木が育って森林が再生するという仕組みです。

アグロフォレストリーと他の農法との違いは?

有機栽培との違い

有機栽培とは、化学肥料や農薬を使わずに自然環境に配慮して作物を育てる方法です。オーガニック栽培とも呼ばれています。アグロフォレストリーと似た点もありますが、有機栽培はあくまで農業が主体です。一方、アグロフォレストリーは作物の他にも樹木などを育てて、周囲の生態系を整える役割があります。

自然農法との違い

自然農法は、農薬や肥料を使わずに雑草や虫と共生しながら作物を育てる方法です。できるだけ人の手を加えずに、時間をかけて作物を育てます。実践する人によってやり方が異なり、中には土を耕さずに種を植えたり、除草せずに作物を栽培する例も。自然農法も農業がメインとなり、アグロフォレストリーのように樹木を栽培することはありません。

慣行農法との違い

慣行農法とは、農薬や大きな機械などを使用し、広い土地で単一品目の作物を栽培する近代的な農法のことです。慣行農法により1度に同じ作物をたくさん収穫できるようになったため、年中リーズナブルな価格で野菜を買えるようになったと言われています。基本的にアグロフォレストリーでは農薬や肥料は使用せずに、さまざまな種類の作物を育てて土壌のバランスを整えます。そのため、慣行農法とは違い、1度にたくさんの作物を収穫することは困難です。

アグロフォレストリーのメリットは?

森林の中で農畜産業が行える

アグロフォレストリーの最大のメリットは、森林の中で農畜産業が行えることです。森林が蓄えた栄養素を活用することで、農薬を使わずに作物を作ることが可能。アグロフォレストリーでは複数の植物を植えるため、1年を通してさまざまな作物が収穫できるようになります。また、森林には家畜動物が食べる植物も育つので、小規模の畜産業も営むことが可能です。実践する場所にもよりますが、森林の中で蜂が巣を作りはちみつができるケースもあります。

土砂崩れや水害から守ってくれる

土砂崩れや水害から作物を守ってくれるのもメリットの一つです。アグロフォレストリーでは、たくさんの樹木を栽培します。木の根っこが地面の奥深くまで張ると地力が強くなり、土砂崩れや水害から作物などを守ってくれます。土壌の保水力もアップするので、雨や台風に強い土地になるでしょう。

地球温暖化の抑制に貢献

アグロフォレストリーにより森林を作ることで、地球温暖化を抑える効果も期待できるでしょう。若く成長中の樹木はたくさん二酸化炭素を吸収するため、地球温暖化を抑制できる可能性があります。例えば、1ヘクタールにおける1年間の二酸化炭素吸収量は、針葉樹林の場合は3.6〜11トン、広葉樹の場合は3.6トンだと言われています。一方、草原の場合は、1平方メートルあたりおよそ半分しか二酸化炭素を吸収できません。

アグロフォレストリーのデメリットは?

時間と土地面積が必要

アグロフォレストリーでは森林を作るため、時間と土地面積が必要になります。樹木を育てて実を収穫するには数年かかる上、そこから安定した収穫ができるようになるまでにはさらに時間がかかります。アグロフォレストリーはすぐに収穫して収入を得られるようになる訳ではないため、しっかりプランを練った上で、従来の農法から徐々に移行していく方が良いでしょう。

定期的にメンテナンスが必要

樹木や野菜などさまざまな種類の植物を植える場合、全体のバランスを見ながら定期的にメンテナンスする必要があります。特に樹木は成長度合いを見ながら適切なタイミングで伐採しないと、地力の低下につながるので注意しなければいけません。アグロフォレストリーはさまざまな知識が必要で、管理は難しいとされています。アグロフォレストリーを始めるときは、その分野に詳しいプロフェッショナルの力を借りるのが良いでしょう。

アグロフォレストリーの事例は?

実際にどのようなアグロフォレストリーが行われているか事例をチェックしてみましょう。

ブラジルでは、トメアス総合農業協同組合がアグロフォレストリーの取り組みを行っています。かつて日系移民の開拓で森林伐採された土地を利用し、農業と森林の再生が進められているのです。野菜や胡椒を植えた上で、木の苗を植樹し、5年10年経つとフルーツが実るようになり、他の農家と比べて約40倍の収入を得ているそうです。

また、ケニアの国際アグロフォレストリー研究センターも、アフリカの地でアグロフォレストリーの仕組みづくりを行っています。エチオピアでは木材として使えるシルキーオークの木や、肥料などに使用できるニームの木などが植えられています。以前はあまり植物が育っていなかった地域でしたが、木を植えることで緑が蘇りつつあります。

モデル事例の増加と販売ルート確保へ

ブラジルのマニコレ市で、アグロフォレストリーの普及を進める日本の特定非営利活動法人は、2012年2月時点で22村に取り組みを導入しました。それでも、現地住民の生活の質の向上や環境保全のためには、モデル事例をさらに増やし、多くの農民が取り組みに参加することが必要と考えています。

また、トメアス市では、日本企業がトメアス総合農業協同組合と契約を結び、アサイーやパッションフルーツ、カカオなどアグロフォレストリーによって収穫できる作物の安全な販売ルートを確立しています。一方、マニコレ市などでは、安値で販売する事例もいまだあり、良い販売ルートの確保が課題となっています。

後世の人々が地球上の限りある資源の恩恵を受けられるよう、今後もアグロフォレストリーの普及活動の重要性は高まっていくと考えられます。

アグロフォレストリー:特定非営利活動法人 HANDS

アグロフォレストリー実施状況:特定非営利活動法人 HANDS

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