土壌のハンデを持ち味に変える―真面目な土づくりが結実
就農1年目は収入を補うため、早朝に新聞配達のアルバイトをしてから、畑に向かう日々が続きました。消費者にとって実用的で、かつ篠山の土地に合う野菜を見つけようと、「手あたり次第の野菜を作ってみた」といいます。
篠山の土壌は重粘土質。水はけが悪く、一度雨が降ると畝に水が溜まってなかなか乾いてくれず、作業効率が天気に大きく左右されます。篠山に米、黒豆以外の野菜をメインに栽培している農家が少ないのもそのためでした。ですが、大坂さんは消費地も近く、全国に名前も知れている篠山にポテンシャルを信じます。何より、大学時代から通った土地に愛着がありました。
土地に向き合いながら試行錯誤を重ねると、粘土質の土だからこそ肥料の養分を土の中にしっかりと留めるため、甘みが濃く身が締まった野菜が出来ることが分かりました。今では約2haまでに広がった畑をほぼ一人で耕し、農薬・化学肥料に頼らず有機肥料だけを使い、肝となる土づくりに精を出しました。
大坂さんの真面目な野菜づくりが実を結び、初めての収穫は予想以上の出来栄えでした。
1年目から阪神間約100軒の飲食店と取り引きする卸業者に出会い、消費者を代弁するフィードバックを受け取れたのも幸運だったと振り返ります。担当者からの具体的なダメ出しは改善への糧になり、「トマトは味がのっていて美味しい」「オクラは柔らかい上に粘りがしっかりしている」などという評価は自信になりました。
大坂さんの作物は評判を呼び、地域の人の紹介で、皇室にも口にされたことがあるという老舗和菓子店から、丹波大納言小豆100kgの注文を受けることになりました。2年目のシーズンを迎える今年は、屋号を「farm nishiki」から「どろんこやさい」に一新し、野菜セットの定期宅配サービスに着手しました(※4月より開始予定)。加工の許可も取得し、自作の米麹と黒豆を使った「黒豆味噌」の仕込みも行いました。黒豆から作る甘い味噌は、野菜にディップするのはもちろん、丹波篠山の郷土料理であるイノシシ肉にもよく合います。篠山らしく、また日本人の食卓に馴染みやすい食材にしたいと、1年後の完成を待っています。