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家族以外への事業継承のカタチ-若手農家3人が受け継いだ農業法人の場合

家族以外への事業継承のカタチ-若手農家3人が受け継いだ農業法人の場合

農業従事者の高齢化と、後継者不足が叫ばれる今、担い手が元気なうちに、技術や農地、経営ノウハウを次の世代へ伝えていく「事業継承」の重要性が農業界でも注目されつつあります。なかでも親族以外の意欲ある就農希望者を後継者として迎える、“家族以外の事業継承は、まだ広く浸透はしていませんがメリットがあります。生産法人を継承し、ノウハウと資源を活用して農業に励む3人の若者を取材しました。

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「親族」以外に「意欲」「経営管理能力」を重視

事業継承

事業継承は、譲られる側と譲り手の双方にメリットを与えます。
就農希望者は、ゼロからの農地探しや初期費用の資金繰りに悩むことなく、場合によってはコツコツと積み上げられた過去の栽培データも、譲り受けることができます。

譲る側の農家にとっては、生涯をかけて築いた経営を残せる、農地や施設、農機具を有効活用でき別の処分方法を考える必要がない、といった利点があります。

日本政策金融公庫が実施した農業景況調査(平成24年)によると、後継者の確保情報のアンケートに対して、「家族・親族内に後継者または候補者がいる」(63.6%)とする回答が最も多く、「家族・親族以外の人で後継者または候補がいる」と答えた農家は全体の4.3%にとどまり、実家が農家でない就農希望者が継承候補者に挙がるケースはまだ浸透していないのが現状です。

ただし、後継者・候補者がいる、または探していると回答した人に、後継者選びで特に重視した(する)ポイントを尋ねたところ(※複数回答可)、「家族・親族かどうか」(59.4%)に迫る勢いで「農業への熱意・意欲」(57.1%)を重視していることが分かりました。また、「経営管理能力」を重視する農家も多く(34.5%)、将来的には「農業への意欲」や「経営管理能力」で選ばれる家族以外の後継者が増えることも期待されます。

千葉県の生産法人を、家族以外の若手農家が事業継承したケースを取材しました。

資金面の不安なく、ノウハウと経営資源を継承

ゆうふぁーむ

ゆうふぁーむを運営する森泉さん、川島さん、境野さん(左から)

千葉県・多古町の農業生産法人「ゆうふぁーむ」では、正社員とパートの社員計20人が、23haの畑でニンジンなどの野菜を生産しています。

元々は、多古町旬の味産直センターの副代表・菅沢博隆(すがさわ・ひろたか)さん(69)が、新規就農者の育成と生産の強化のため、2004年に設立しました。現ゆうふぁーむ代表の境野心作(さかいの・しんさく)さんら30代の若手農家3人は、当初社員として働き、給与で生活費を得ながら農業研修を積みました。2015年に会社を譲り受け、3人で会社を運営しています。

境野さんは、「初期投資など資金面の心配をすることなく、経験豊富なスタッフや過去の栽培データ、ノウハウを、効率よく譲り受けることができました。譲る人にとっては、『そこで農業が終わらない』という安心感があるのでは」と、事業継承のメリットを語ります。

経験と若手の目線-両方を持つ環境の価値

ゆうふぁーむ若手農家

東京都葛飾区出身で、中学生の頃から農業に興味を持っていたという境野さん。大学卒業後、農家を目指し、長野県で9カ月間の研修を受けました。23歳で多古町を訪れ、ゆうふぁーむに入社。「周りの全員が先生。パートのおばあちゃんも、業務後に自宅の畑で農作業をするほど、農業のプロフェッショナルが揃っていた」と、当時の環境を振り返ります。働きながら自分の畑を持ち、空き時間で経営の勉強も行いました。

役員を務める森泉智史(もりずみ・さとし)さんは、生協の広報紙で境野さんを知り、「同世代が頑張っている。自分もやりたい」と、2010年にゆうふぁーむへ入社。「若者が数えるほどしかいない」という高齢者の多い地域で、境野さんやもう一人の役員、川島健次(かわしま・けんじ)さんと力を合わせ、栽培技術や効率経営のレベル向上のために汗を流してきました。

多古町の豊かな土壌に合うニンジンを主要作物とし、5月上旬~7月中旬は春ニンジンを、10月下旬~4月上旬は秋冬ニンジンを計7トン生産します。レモン色で、柿のような味と表現される甘みの強い金美人参など、珍しい品種も産直センターの直売所で販売し、人気を集めています。

作物に独自色をつけようと、魚粉やカニ殻の粉末、燻製骨粉などを配合し、有機質肥料窒素を多く含む、オリジナル肥料で土作りを行います。新しい試みとして、ミネラルが多く含まれる海藻粉末を使うなど、甘く味の良い野菜作りの工夫を怠りません。

歴史と経験豊富なスタッフ、そして若手の目線を併せ持つゆうふぁーむを、「収穫のタイミングや、肥料・農薬の散布歴などのデータを共有できるので、新規就農者にとって農業を始めやすい環境」だと、境野さんは言います。梱包や出荷などの販売工程は産直センターで一元化されるため、生産に集中することができるのも強みです。

森泉さんは、「農業は、実際にやってみないと分からないことが多い。少しでもやりたいと思ったら、ノウハウを教えてくれる人がいる場所に、早めに飛び込むのが良いと思います」と、就農希望者にエールを送ります。一年目から収入を保証され、技術を学べる生産法人の良さも強調します。

精力的に農業に励む境野さんたちの姿から、家族以外の事業継承という活路の可能性を感じました。

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