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趣味が高じてキノコ農家に クワガタブリーダーが見つけた可能性

趣味が高じてキノコ農家に クワガタブリーダーが見つけた可能性

「キノコ栽培を始めるきっかけは、趣味のクワガタ飼育でした」。そう話すのは、東京都の離島・八丈島でシイタケやキクラゲの菌床栽培を行う、大竜ファームの大沢竜児(おおさわりょうじ)さん。大沢さんが大竜ファームを始めるまでは、島内では販売用のキノコは栽培されていませんでした。クワガタ飼育をする中で、キノコ栽培の可能性をどのように見出していったのか。ゼロから農園を立ち上げるまでには、どのような苦労があったのか。お話を伺いました。

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偶然、立派なヒラタケが発生

─キノコ栽培を始めようと思ったきっかけを教えてください。

趣味でクワガタやカブトムシ飼育をしていたときに、飼育用品から立派なキノコが生えたことがきっかけです。

もともと、地元の八丈島で家業の生花店の経営をしていたので、キノコを育てたことはありませんでした。ただ、趣味のクワガタやカブトムシの飼育で、幼虫を飼育する時に「菌糸ビン」というキノコ菌を蔓延させたオガ屑の塊が入ったビンを利用していたので、キノコ菌とは縁がありました。

菌糸ビンは、キノコの菌床ブロックを崩して、幼虫が大きく育つための栄養素を混ぜて作ります。幼虫を入れた菌糸ビンは、菌が適切な働きをするために、徹底した温度管理で保管します。私はヒラタケの菌糸ビンを使っていたのですが、ある時、立派なヒラタケが生えてしまいました。本来幼虫に食べてほしい栄養をキノコに取られてしまったことになるので、ブリーダーとしては失敗です。

ただ、あまりにも立派なヒラタケだったので、食べてみました。すると、歯ごたえが良くて、とても美味しかったのです。その時、「八丈島の気候がキノコ栽培に適しているのではないか。うまくいけば、商売になるのではないか」という考えが頭によぎりました。それ以降、どんな環境でどんなキノコが育つのかの研究を始めました。

マニュアル通りではなく、環境を見る

─研究とは具体的にはどのようなことをしたのでしょうか。

まずは調査です。本当に八丈島の気候がキノコに適しているのかどうか、季節ごと、日ごとに温度や湿度を測ることにしたのです。すると、八丈島の湿度と温度は、キノコ栽培に合っていると分かりました。

そこで次は、色々な種類の菌床を使い、成長に差があるのかどうか実験しました。キノコの種類は、早いうちにシイタケに絞りました。菌床栽培するキノコの中で、エノキやシメジ、マイタケなどは、大手のメーカーが大量生産しているので、個人で戦っても価格で負けてしまいます。シイタケは、価格が安定していたので、流通まで考えたときに一番効率がいいと感じたのです。

─シイタケ栽培は最初からうまくいったのでしょうか?

実は、キノコ栽培に適した環境のはずなのに、最初は全然うまくいきませんでした。菌床を取り寄せてみても、カビてしまったり、うまく生えなくて。一切シイタケが生えてこない菌床もありました。輸入菌床も含めて20種類くらい試したのですが、思うようにはいきませんでした。

もしかしたら、八丈島はシイタケ栽培には適していないのかもしれない。そんな考えも頭によぎりましたが、諦めきれませんでした。普通だったら諦めていたかもしれませんが、クワガタ飼育を始めてから色々なことの歯車が噛み合っている感覚があり、直感的に「うまくいくはずだ」と思っていたんです。

色々試す中で、八丈島で育てる上では、朝晩の散水が不要だと分かりました。湿度の高い八丈島では散水するとカビてしまうのです。マニュアル通りにやるのではなく、環境に合わせた方法を探す大切さを感じました。その後、群馬の菌床メーカーと出会い、島の気候に合った菌床ブロックを見つけることができました。キノコの研究を始めて、およそ4年が経った時でした。

島全体の循環に貢献する

─最後に、大沢さんの今後の展望を教えてください。

ただキノコを栽培するだけでなく、島全体に貢献できる観光農園にしていきたいと考えています。八丈島は、ダイビングや釣りなど、海を目的にして遊びに来る方がたくさんいますが、雨が降ると観光できる場所がなかなかありません。そこで、大竜ファームに来てもらい、シイタケを収穫して、採れたてを使ったバーベキューなどができるようにしたいと思っています。

また、趣味のクワガタ飼育も続けており、飼育場も観光施設として開放しています。現在は、スマトラオオヒラタという東南アジア産のクワガタやヘラクレスオオカブトなどを中心に、八丈島固有種のクワガタも含めて、カブトムシの幼虫だけで70頭、クワガタでも100頭くらいを飼育しています。

八丈島は人口7,000名程度の島ですが、他の過疎地域と同じく、人口減少が進んでいます。観光や商品開発を盛り上げ、少しでも地域経済に貢献して、人口減少を防ぎたいと考えています。一事業だけで実現できることではないので、周りの経営者や仲間と一緒に、島全体でコラボレーションする流れが生まれています。

また、シイタケ栽培や昆虫飼育で生まれる副産物を他の産業に利用するエコシステムを作りたいと考えています。そのために、使い終わった菌床ブロックを再利用する仕組みも開発中です。例えば、シイタケ菌で分解された菌床ブロックは、さらに発酵させることでカブトムシの餌になることが分かりました。さらに、カブトムシのフンは畑に撒くと良い肥料になります。将来的には、シイタケ栽培や昆虫飼育で生まれる副産物を廃棄処分するのではなく、島の他の産業に利用することで、持続可能で回り続ける、一連の流れを作りたいと考えています。
 
 
大竜ファーム
 

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