常春の島の気候風土を活かしたシイタケの魅力
─「うみかぜ椎茸」について教えてください。
うみかぜ椎茸は、八丈島の気候によって生まれるシイタケです。
八丈島は、東京の南方約300キロメートルに位置する離島です。年間の平均気温は約18℃で、冬でも暖かく、夏でもそこまで高温にならないので、「常春の島」と呼ばれています。また、海で囲まれているため湿度が高く、年間通して50%を切ることがほとんどありません。大気中の塩分濃度も、内陸部とくらべて高いと言われています。この気候が、シイタケ栽培に適しているのです。
出来上がったシイタケは、濃厚で甘みがあり、柄の部分までおいしく食べられます。やわらかくてまろやかなので、個人的には生のまま食べることもおすすめしています。特有のえぐみがないので、シイタケ嫌いの子どもでも「シイタケじゃないみたい」と言って食べてくれます。
乾燥させれば日持ちしますし、粉末として活用することもできます。「椎茸粉」は、お吸い物に入れたり、お好み焼きや天ぷらにひと味として加えたり、料理以外にも煎餅やジェラートに入れたりと、色々な使い方があります。
大竜ファームのこだわりと島ならではの難しさ
─大竜ファームでこだわっているポイントを教えてください。
国産、無農薬の菌床ブロックを使っていることです。「島の気候が適している」と言いましたが、全てのシイタケ菌・ブロックと八丈島の気候の相性がいいわけではありません。今使っているブロックに出会い、生産が安定するまでは試行錯誤の連続でした。「八丈島の気候で菌が育ちやすいのではないか?」と思い立ってから4年ほど研究を続け、様々な種類のキノコ・菌床ブロックを試しましたが、ものによっては全く育ちませんでした。菌と気候の相性によって、出来上がりの味も風合いも大きく変わると体験から学びました。
現在は、群馬県のメーカーで作られたブロックを使っています。殺菌のための薬剤は使用せず、減菌釜で蒸気加熱し、国産のシイタケ菌を植え付けられたものです。輸入した菌床ブロックを使って生産することもできますが、外国産のブロックだと消毒方法や菌の種類の真偽を確認できません。子どもたちにも安心して食べてもらえる無農薬・無化学肥料のシイタケを作りたいので、国内産ブロックにこだわっています。
─島の環境がシイタケの栽培に適しているとの話ですが、逆に、島ならではの難しさはありますか?
特殊な気候なので、温度管理は難しいですね。八丈島の気候では、夏場は菌床ブロックを並べてから4日程で収穫できるまでに成長します。一般的には10日程かかると言われているので、メーカーの方からも「育つのが早いね」と驚かれる程のスピードです。シイタケ栽培を始めた頃は、出荷が追いつかなくなってしまうこともありました。
そこで、今はエアコンによる温度管理を徹底しています。温度を低くすることで、成長を遅らせ、収穫時期を調整できるのです。これにより、一年を通して栽培できます。一方で、冬場でも温度が高く大規模なボイラー設備は不要なので、電気代を抑えた効率的な生産を行えます。
また、船で輸送する時の温度にも気を遣います。離島なので、菌床ブロックの輸送には船を使いますが、船のコンテナの中に長時間置かれると、カビが生えてしまったり、梱包袋の中でキノコが生えはじめてしまうこともあります。熱と湿気にシイタケ菌が負けてしまうんです。そこで、夏場はクール便で配送することにしました。温度を抑えていれば、菌の繁殖は防げます。
島の気候を活かし続ける
─最後に、今後の展望を教えてください。
これからも、八丈島の気候に適したキノコ栽培を続けていきたいと考えています。最近は、シイタケだけでなくキクラゲの栽培も始めました。日本で消費されるキクラゲのうち、ほとんどが中国からの輸入で、国内産は10%以下だと言われています。日本全国で生産されているのですが、生産農家の戸数が少なく、安定的な供給体制がないのです。
八丈島は、年間通して自生するほどキクラゲの栽培に適した環境です。シイタケは冬場では自生しないので、そういう意味ではシイタケ以上に合っているかもしれません。現在は、キクラゲの農場も作って本格的に栽培しています。国内で作るからこそ、乾燥させずに生で流通させることもできます。
栽培に適した環境があるので、シイタケもキクラゲも無理なく生産量を増やすことが可能です。しかも、キノコは乾燥させることで日持ちするので、輸出にも向いています。将来的には、東南アジアの国に輸出する体制を作り、日本の農業を世界に発信していきたいです。