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都市を耕す アーバンファーマーズの小倉崇さんが描く東京の未来

都市を耕す アーバンファーマーズの小倉崇さんが描く東京の未来

渋谷の真ん中にあるライブハウスの屋上に都市農園を作り、都市で農業を行うアーバンファーマーズの輪を広げている小倉崇(おぐら・たかし)さん。現在、食と農に特化したクラウドファンディングサイト「クラマル」で、トマトの苗をプレゼントしアーバンファーマーズの輪を広げるプロジェクトに挑戦中です。震災の時味わった「食べ物がなくなってしまう」という恐怖から、渋谷の真ん中に豊かな農園をつくるまでに、どんな思いがあったのでしょうか。

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震災後の東京には食べるものがなかった

アーバンファーマーズ

アーバンファーマーズクラブの写真をみていると、もりもりと作物が生い茂る農園と、その背景のビル群とのコントラストがまるで合成写真のように感じられます。この都市農園を作った小倉崇さんが、農業を始めたきっかけは、2011年3月11日のこと。

「その時僕は、前の月に長男が生まれたばかりでした。震災があってしばらくすると原発が爆発したというニュースが流れました。3日後に妻と長男、母親を車に乗せて、妻の実家がある関西に逃げました。関西では、ショッピングモールに行っても震災が起きる前と何も変わらず営業をしていました。その感覚のまま仕事のために僕だけ関東に戻った時、愕然としたのです。スーパーに行くと食べ物がない。コンビニにもない。水もなかった。これはとんでもないことになった、という恐怖が急に込み上げてきたんです。同時に、農業をやってみたいという思いはあっても、今まで取り組んでこなかった自分への後悔が押し寄せました。もし、自分で食べ物を育てていたら、あそこまでの恐怖感はなかったはずなのです」。

噛みちぎるようにして食べた初めてのほうれん草の味

次に家族と暮らす時には、自分たちが食べる分くらいは食べ物を作れるようにしようと思い立ち、編集やライターという仕事を活かして全国の農家で話を聞いて回った小倉さん。そこで出会ったのがその後、農業を小倉さんに教えてくれた相模湖で農業をする油井敬史(ゆい・たかし)さんでした。鮮やかに覚えているのは、霜が降りて、踏むと凍った土がサクサクと音を立てる畑で食べさせてもらったほうれん草の味です。

ほうれん草

「ちぢみほうれん草を食べさせてもらったんです。その時、なんだこれはと衝撃が走りました。肉厚な葉っぱを噛みちぎるようにして食べたそのほうれん草は、一口かじると苦味や甘さがじわっと口の中に広がりました。それは今までのほうれん草と全く違うものでした」。

農薬も化学肥料も使っていないから、土の力だけでできる。そう教えてくれた油井さんを手伝っていると、もうひとつの転機が訪れました。

「新規就農者の現実を目の当たりにしました。本当にお金がもうからない。こんなおいしい野菜を育てている人が飯を食えないのはおかしいと思ったことから、畑を開放して農体験をできるウィークエンドファーマーズという活動を始めたんです」。

ラブホテル街にも、農園は作れる

アーバンファーマーズ

畑を教えてくれた油井さんの経済的な自立を目指して始まったこの活動。その畑の年収を3倍にまで増やした後も確実に輪を広げ、ついに渋谷のど真ん中に農園を作るきっかけをつかみます。

「渋谷のライブハウス『O-EAST』の方に声をかけてもらって。最初は、マルシェをやろうという話だったのですが、ふと屋上について聞いてみました。数年前に緑化を始めたまま放置されているという話を聞いて、そこを農園にすることを思いつきました」。

ライブハウス「O-EAST」があるエリアは渋谷の中でもラブホテルが立ち並ぶ、農業とは縁遠い場所。そこにプランターを並べて土を耕し、野菜を育てました。すると、都市に住みながらも農作物を育てるアーバンファーマーの輪が広がり始めました。

「初めはみんな、冗談半分で笑いながら渋谷の農園に遊びにきます。そして、そこでできた野菜を食べると美味しかった。そうすると気づいてくれるんです。渋谷の真ん中でできたら、自分の家のベランダでもできるかもしれないって」。

いつの間にかプランターを買ったり、ベランダを活かしたり、さまざまな人たちが、それぞれの暮らしに合った思い思いの小さな都市農園を芽吹かせていきます。小倉さんの夢は、そんなアーバンファーマーを増やしていくこと。

「都市に暮らす人が、みんなで野菜を育ててシェアするような仲間を徐々に増やしていきたいです。ロンドン五輪では2012年に2012箇所のアーバンファームがロンドンにできました。そこでは80トンもの野菜が育てられたのだそうです。東京五輪までに2020箇所のアーバンファームを作るのが僕の夢です」。

クラウドファンディングで広げたい、アーバンファーマーの輪

アーバンファーマーズ

私がこっそりベランダで大葉やプチトマトを育てていることを伝えると、

「もちろん、ベランダもその一箇所ですよ」。

と嬉しそうに言ってくれました。小倉さんの愛情が、現在クラマルに掲載されているプロジェクトにも溢れています。

 

「このプロジェクトは、アーバンファーマーの輪をひろげるために、トマトの苗をプレゼントするという企画です。トマトは、うまくいくとたくさん穫れるんですよ。ただトマトの苗をあげて育ててもらうのではなく、収穫したらみんなで持ち寄ってケチャップなどの加工品を作ろうと思っています。ただ育てるだけではなく、その成長過程をSNSで報告したり知識を共有しながらみんなで楽しみたいんです。」

さらにその先には、アーバンファームを行う基地を作りたいという野望も。

「古いビルでいいから、みんなが集まれる場所が欲しいですね。一階はカフェにして、二階は事務所、三階は農に関する研究を行う人に入居してもらうなんて、どうでしょう。屋上はもちろん農園にして、そこで誰でも作物を育てられる。うまくできたものを売ったり交換したりして、ちょっとした経済圏ができていくといいなと思います。」

2011年の3月に、真っ暗で食べ物が何もなかった震災後の東京。そこに小倉さんが描くのは、みんなで都市を耕して食べ物を作ることができる、物流に依存しない豊かな未来の都市です。

アーバンファーマーズクラブ
URL:http://urbanfarmers.club/
Facebook:https://www.facebook.com/cultivatethefuture/

(執筆・出川 光)
 
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