耕作放棄地を借り上げ、こだわりのモモを生産
甲府盆地を見下ろす笛吹市一宮町の山間には、特産品のモモを育む畑が広がっています。「日本一の桃の里」と呼ばれるここ一宮町の春は、桜よりも鮮やかなピンクの花で溢れ、その様相はさながら“桃源郷”のよう。
一宮町南部でモモやブドウなど果樹を中心に栽培する、県内最大規模の農業生産法人・マルサフルーツ古屋農園。圃場のある塩田地区は、糖度の高い果実が収穫できる肥沃な土壌です。天恵を味方に付けつつ、有機肥料を使う土づくりから丹精を込めて育て上げた古屋農園の贈答用モモやブドウは、県内外から高い評判を集めています。一つの枝に実を一つだけ栽培する農法に惚れ込んだ大手飲料メーカーが、古屋農園の名を冠した缶チューハイを開発したほど。そのノウハウに触れようと、海外から視察に訪れる人も多くいます。

糖度が高く大玉の贈答用白桃
社長の古屋貞一(ふるや・さだかず)さんと長男で専務の一寿(かずとし)さんは、農業の目標を「地域を盛り上げること」と口を揃えます。かつて周辺集落には、古屋家以外にも多くの果樹生産農家がいました。しかし、高齢化により耕作放棄地が増加。古屋農園がそれらを借り上げ、現在では栽培面積は合計9haまで拡大しています。
生産にとどまらず、加工品販売など6次産業化にも注力しています。果樹シーズンが終了した秋冬に収穫できるあんぽ柿や干し芋の生産・加工を行い、毎年増産しています。これによって四季を通じた収入を確保し、果樹農家では困難とされてきた従業員の通年雇用を実現しました。
“自分の畑”で農業経営を体感

「農業がやりたい」と、強い意志を持って農園の門を叩いた新卒入社のスタッフ
緩急に富む丘に点在する圃場の一つを、貞一さんが指さしました。「あれは、社員の畑です」。30aほどのその圃場に生えるモモの木は、几帳面に摘花されています。古屋農園では、就農を希望する社員や研修生に畑を貸し与え、会社の業務と並行して自らの裁量で管理させています。
「農家は、生産以外も色々なことが出来なくちゃならない」(一寿さん)という思いのもと、畑を借り受けた従業員は、栽培から売り上げ管理までを一貫して行います。農園から従業員として給与を得ながら、初期投資なしで農業経営を経験できるメリットがあります。技術は会社の業務を通して体得できるため、「会社の仕事も早く覚えて、責任感を持ってやってくれる」(貞一さん)と、好循環を生み出しています。独立就農のため農園を“卒業”していく人も多いですが、地域や農業全体に貢献できれば、と広い視野で“同業者”を世に送り出しています。
会社の畑では、「農業がやりたい」と意志を持って集まった新卒・中途入社の若手社員が肩を並べて作業をしています。県外から中途入社した30代前半の従業員は、「新規就農する前に、技術を教わりながら経験を積めるのがとても有難い」と、話します。
ふる里を守り、次世代の仲間を支える

新卒入社の若手社員を囲む、社長の貞一さん(右)、専務の一寿さん(左)。明るく声を掛けて気を配る姿が印象的
貞一さんは、県立園芸高校を卒業し、2年後の1968年に家業のモモ農家を受け継ぎます。2003年にマルサフルーツ古屋農園を設立し、その3年後に農業生産法人化しました。就農当初、貞一さんは収穫した果樹をトラックに載せて東京へ走り、自分で店頭販売をしていました。「自ら販路を拡大する」という姿勢は、当時から一貫しています。
2012年、特産物の販売コーナーと飲食店を併設した「マルサマルシェ・クッキングスタジオ」を開設。管理栄養士の資格を持つ長女・千鶴(ちづる)さんを中心に、観光客や地元の子ども向けに特産品を使った料理体験メニューを提供し、地域食材の普及や食育に注力しています。
多角的な経営の基盤にあるのは、企業理念の「ふる里を守り 笑顔が浮かぶ果物作り」にも載せられた、地域創生への思いです。その理想を具現するため、あすの農業を担う仲間を支えながら育てる―。薄紅のフィールドは、志ある就農者の目に“桃源郷”として映ることでしょう。
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農業生産法人 マルサフルーツ古屋農園(本社)
〒405-0064 山梨県笛吹市一宮町塩田163
電話:(0553)47-1282
FAX:(0553)47-1837
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