「紙のように薄い」、トルティーヤとは?
トルティーヤとは、トウモロコシの粉でつくる薄焼きパンのこと。日本人が毎日のようにお米を食べるのと同様、メキシコの人々はこのトルティーヤを好んでよく食べます。パンといっても、私たちが普段食べるような、食パンなどとは少々見た目が異なります。紙ほどの薄さ──とは大げさですが、ピザ生地をさらに薄く伸ばしたような、ほんのわずかな厚みのパン。それがトルティーヤです。
トルティーヤは、トウモロコシの実をアルカリ性の石灰水でゆでてから、臼ですりつぶして作る生地(マサ)を手でたたいて薄い円盤状に伸ばし、陶板(コマル)の上で焼いた料理(メキシコ北部では、小麦粉でつくられたトルティーヤも食されます)。
石灰水を用いると、トウモロコシの硬い外皮がとれやすくなるばかりか、ミネラルなどの栄養素も加わるといいます。現在も地方では、古くから伝わるこの手法でトルティーヤがつくられています。
トウモロコシのふるさと、アメリカ大陸
なぜトルティーヤがメキシコで広く食べられるようになったのでしょうか。それは、トウモロコシの原産地がアメリカ大陸といわれていることに端を発します。メキシコがスペインの植民地となるもっと以前から、アメリカ大陸の先住民族たちは、トウモロコシを主食としていたようです。
一説によれば、アメリカ大陸で初めてトウモロコシの栽培を始めたのは、メキシコやペルー。それは、紀元前3500年ごろであるとも伝わっていますが、残念ながら確かではありません。品種によっては、暑さにも寒さにも耐え得るのがトウモロコシ。アメリカ大陸の高地や、湿地を干拓した畑でも栽培されていたことが分かっており、先住民族には「聖なる植物」「神の贈り物」などと崇められていました。
しかしながら、そのトウモロコシ。初期の頃は、現在私たちが目にするような大粒の実をつけたものではなく、わずか5センチにも満たない小さな果穂(かすい)に少量の実をつけた大きさであったともいわれています。
揚げたり煮たり、食べ方いろいろ
そんなトルティーヤを、メキシコの人々はどのように食べるのでしょうか。例えば、目玉焼きを乗せた料理「ウェボス・ランチェロス」にしたり、アボカドを使ったソース「ワカモレ」につけたりする食べ方などが挙げられます。「ウェボス」はスペイン語で「卵」の意味。ウェボス・ランチェロスは、トルティーヤに目玉焼き(もしくは煎り卵)や、唐辛子やトマトを乗せた料理で、メキシコの朝食の定番です。
ワカモレは、アボカドのグリーンが鮮やかなディップで、世界第1位(2014年、国連食糧農業機関調べ)の生産量を誇るメキシコ産のアボカドに、こちらもメキシコの主要農産物であるトマトやライムなどを混ぜてペースト状にしたもの。黄色のトルティーヤに添えれば、非常にカラフルな一品となります。
また、トルティーヤは、油で揚げればパリッとした「トスターダス」に。ほかにも、トルティーヤに野菜や肉を挟んだ「タコス」、具を挟んで半分に折りソースで煮た「エンチラーダス」なども一般的です。
ちなみに、現在の日本ではトウモロコシというと「スイートコーン」のように強い甘みのある品種がよく食べられていますが、メキシコのトウモロコシは甘みの薄い品種が主流。黄色以外にも、赤、黒、白色のトウモロコシが存在します。日本でも、メキシコのように多様なトウモロコシが市場に出回るようになれば、毎日の食卓がより豊かなものになりそうですよね。
参考
「世界遺産になった食文化<4> マヤ文明から伝わるメキシコ料理」
著者:服部 津貴子(監修)、こどもくらぶ(編集)
出版:WAVE出版
「世界を変えた野菜読本―トマト、ジャガイモ、トウモロコシ、トウガラシ」
著者:シルヴィア・ジョンソン(著)、金原 瑞人(翻訳)
出版:晶文社
「世界の国ぐにの歴史 10 メキシコ」
著者:中山義昭
出版:岩崎書店
上記の情報は2018年5月22日現在のものです。