牛の自主性を育む飼育方針
生後1日~2日で子牛部屋へ
「かわいい!」
遊びに来た人たちの目を引き付け、心を癒やす子牛たち。スタッフによる牧場ガイドはその子牛部屋から始まります。
生まれて1日か2日の赤ちゃんたちはこの子牛部屋に入り、朝晩たっぷりミルクを飲んですくすく成長。最初30~40キロの体重は、1カ月後には50キロ以上に増加します。
母牛のミルクは最初の1週間は「初乳」といい、子牛に豊富な栄養とともに免疫を与えます。この時期を過ぎると他の母牛のミルクも与えることができるようになります。
信頼関係をつくる
子牛にミルクを与える時に大事なのは声をかけ、名前を呼んだり(すべての牛に名前がついている)、スキンシップをとること。そうすることで牛もうれしいと感じ、人間との信頼関係が作られていきます。
信頼関係があれば、ケガの治療や予防注射の際も安心して受けてくれ、いろいろな人の来訪にもリラックスしていられるのです。
牛の自主性を尊重する
少し大きくなると中部屋に移って離乳食を、さらにおとなの餌を食べる練習を始めます。
子供たちは一切ロープなどでつながれていません。小さい時から自由に歩いて、自分で自分の生活習慣を作ります。牛のストレスを極力抑え、自主性を尊重することが磯沼ミルクファームの方針で、それがこうした体験型牧場の実現にもつながっています。
過保護にしない放牧場
成長後も自主性尊重の飼育法は変わりません。磯沼ミルクファームの魅力は街なかの牧場でありながら広い放牧場があること。育成牛(3カ月を過ぎた若い牛)はここで牧草を食みながらのびのびと、たくましく成長します。
屋根のある居留所は設けられていますが、基本的に暑い時も寒い時も、雨の日も風の日も出しっぱなし。牛たちは環境に応じてどうすればストレスを感じずに、自分らしく快適に過ごせるか考えながら生きていきます。
給餌とふんの処理にも独自の工夫
自由な食事で自主性を養う
「自主性の尊重」は食事にも反映されています。餌は自由にいつでも好きなだけ食べられるようにし、牛は自分で胃腸の調子をコントロールします。
また飲料水は、牧場の地下50メートルからくみ上げた天然水を、沖縄産化石サンゴの粒子のフィルターでろ過し、海のミネラルたっぷりの水にしています。
ベッドにコーヒー皮・カカオ殻の有効活用
牛たちは子供の頃から特製のベッドで寝起きします。その原料になるのがコーヒー皮・カカオ殻。周辺は食品工場の多い地域で、地元のコーヒー工場・チョコレート工場からとり寄せた、それらの副産物をまいて湿気を取り、衛生的な環境で過ごせるようにしています。
常時約90頭の牛が暮らす牛舎で使うコーヒー皮・カカオ殻は1日1トンにも上り、これが消臭効果を発揮して牛舎特有のにおいを抑えています。
牛ふんから特製堆肥を生産
そしてこのコーヒー皮・カカオ殻と牛のふん・尿などが混じり合って発酵すると60℃の発酵熱が出て、3~4カ月で「完熟コーヒー牛ふん堆肥」になります。
発酵熱によって殺菌もされており、この特製堆肥は農作物の肥料として大変優れていると高く評価され、学校農園、体験農園、地域の野菜畑などで活用されています。こうして周辺地域の工場・牧場・農家の間でゆるやかな循環型エコシステムがつくられているのです。
生産力、酪農に対する信念、そしてチャレンジ精神
子牛が飲む量の10~20倍のミルクを提供する母牛
母牛は全身の血液の約400分の1をミルクに変換します。これは子牛が必要とする量の10~20倍のミルクです。人間のための牛乳や乳製品の原料は、その余剰分です。
敷地内にはアイスクリームをはじめ、ここの牛たちの生乳で作った自家製乳製品の直売所があり、また、チーズやヨーグルトづくりの教室も随時行っています。
独自ブレンド「みるくの黄金律」
ここで販売している乳製品は独自ブレンドの牛乳「みるくの黄金律」を原料にしたもの。ホルスタイン、ジャージー、ブラウンスイス、エアシャーという4種の乳牛の生乳をベストバランスでブレンドし低温殺菌したもので、地域の大人気商品となっており、この直売所の他にJR八王子駅ビル内のイートインのある販売店やネットショップも設けています。
レインボーミルクへの挑戦
上記4種の他にガンジー、ミルキングショートホーンを飼育。さらにモンベリアルドも増やして7種にし、すべてのミルクをブレンドした「レインボーミルク」に挑戦すると語る磯沼ミルクファーム。その生産力、酪農に対する信念、そしてチャレンジ精神は、都市農業を動かす活性化する大きな力となっています。
遊んで学べる酪農・乳牛の基礎知識
牧場案内、乳しぼり体験、バラエティ豊かな食イベント、野外生活イベントなどは、知っているようで知らない酪農・乳牛の基礎知識を、参加者たちに丁寧に伝えます。
循環型のサスティナブルなシティファーム、人々が自由に参加できるオープンファーム、そして何より楽しい体験型牧場をめざし、その活動は東京内外に広く知られるようになっています。