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生産者の試み

100年後も地域で続く農業を 自然の力を引き出す炭素循環農法

100年後も地域で続く農業を 自然の力を引き出す炭素循環農法

最終更新日:2018年09月05日

静岡県伊豆市湯ケ島で「炭素循環農法」に取り組む、浅田ファームの浅田藤二(あさだ・とうじ)さん。炭素循環農法とは、炭素と窒素の割合を一定にして土の発酵を促す、化学肥料や農薬を用いない農業のこと。ワラや竹チップなどの炭素資材を適切な割合で土に混ぜることで、土の中の菌や微生物の働きが活発化し、その結果、虫が近寄りづらくなり、うまみのある野菜ができるのです。大規模な耕作が難しい地域に住む浅田さんが、この農法に取り組んだ背景、そして目指す未来とは。お話を伺いました。

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炭素で菌や微生物の動きを活性化させる

──浅田農園のこだわりを教えてください。

私たちは、「化学農薬を使わない」「化学肥料を使わない」「遺伝子組み換え技術を使わない」という三原則を掲げて、「炭素循環農法」を取り入れています。

窒素1に対して炭素が30の割合になるように、田んぼの場合は土の表面から10cm、畑の場合は5cmの深さまで、ワラや竹チップなどの炭素資材を混ぜていきます。すると土の発酵が始まり、微生物が元気になり、おいしい野菜ができます。炭素資材が見えなくなったら、資材を追加して畑の表面を耕します。

牛ふんや鶏ふんなど、動物性堆肥は使いません。土の中の微生物と、光合成の力で育った野菜は、化学肥料を使わなくても十分立派に育ちます。野菜本来のうまみがぎっしり詰まっているので、野菜が苦手な方でもおいしいと言って食べてくれます。実際、ピーマンを食べられなかった方が、おいしいと言いながら一個全部食べてしまったこともありました。

自然界で起きていることに従う

浅田農園の田んぼと畑

──なぜ炭素循環農法を取り入れることにしたのでしょうか。

野菜の販売価格を上げるためには、自分たちの野菜をブランド化しなければならないと思ったからです。私が暮らす地域は山が多くて大規模農業には適しません。この土地で耕作放棄地を作らずに農業で食べ続けていくには、単価を上げて収入を増やすしかありません。そのため、48歳で市役所を辞めて父から農業を引き継いだ時から、無農薬栽培にこだわっていました。

無農薬栽培で作られた作物は、慣行栽培で作った作物と比べて高値で取引されます。実際、首都圏のレストランなどでは、慣行栽培で作られた野菜の約3倍の値段が付くこともあります。

ただ、周りの農家からは「無農薬栽培はうまくいかないよ」と大反対されました。実際、農薬を使わないと雑草が大量に生えてしまい、草刈りに追われる毎日でした。2年ほど続けたタイミングで「これは続けられない」と思い、あきらめようとしました。

そんな時、炭素循環農法をやっている農家がいると聞き、田んぼを見学に行きました。田んぼを初めて見た時、とても驚いたのを今でも覚えています。その田んぼだけ、トンボが飛んでいないのです。慣行栽培をしている周りの田んぼにはトンボがたくさん飛んでいるのに、炭素循環農法をしている田んぼには一匹もいませんでした。つまり、トンボの餌となる、野菜を食べる小さな虫の発生を抑えられているので、トンボがその田んぼに行かないのです。

話を聞くと、有機の肥料でも、与え過ぎるのは良くないとのことでした。「自然界で普通に起きていること」を再現して、そうでないことはやらない方が良いと。例えば、枯れ葉やワラなどの炭素資材が田畑に落ちて土に返るのは自然界でも起きることですが、肥料を与えるのは人工的なことです。その話を聞いてから、自分の田んぼと畑でも炭素循環農法を取り入れ、牛ふんや鶏ふんなどの肥料を使うのはやめました。

すると、すぐに効果が表れました。まず、触っただけで違いが分かるほど土がふわふわになりましたし、生えてくる草の質も明らかに変わりました。そうやってできた野菜は強くて味もおいしくて。農協から賞をもらえたりするようになりました。徐々に取引してくれる飲食店が増え、無農薬栽培を学ぶために働きに来てくれる人も出てきて、応援してくれる人の輪が広がりました。

100年後のモデルを作りたい

無農薬栽培を学びに来た人向けの講習風景

──今後の展望を教えてください。

農業を活性化させることで、地域全体を盛り上げたいと考えています。無農薬栽培で作った野菜や米は、東京都内のレストランなどで、高値で買い取ってもらえます。稼げる農業を実現できれば、若い人も目の前の耕作放棄地の価値に気づき、農業に関心を持つのではないかと考えています。炭素循環農法を軸に、大規模農業がしづらいこの土地でも持続可能なモデルを作ることで、地域を元気にしたいです。

最近では、無農薬栽培に取り組む仲間を増やすため、講演や指導にも力を入れています。伊豆市では東京五輪・パラリンピックの自転車競技が開かれるので、五輪選手に食材を食べてもらう機会も作り、この土地で作られる野菜のおいしさや魅力をより多くの人に届けたいです。

また、農業を中心として、地域全体を一つの総合宿泊施設と見立てた「村まるごとホテル計画」も画策しています。空き家を宿泊できる場所にして、農家レストランや、ロッジを備えた体験農園などを増やして、地域全体で楽しめるようにするのです。住む人の数が減るのは避けられないかもしれませんが、交流人口を増やすことで雇用が生まれ、経済の活性化につながるのではないかと考えています。

その仕組みを、100年後にも残るような持続的なものにしていきたいです。100年前の時代に生きた私の曽祖父は、ワサビが普及していない時代から組合の会長を務め、ワサビ普及の道を切り開いてきた人物。曽祖父のように、次世代の人が誇りに思えるようなモデルを、私も生み出すことができればと思います。

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