猟犬とは何か
──猟犬とは何なのでしょう。
ワーキングドッグ(盲導犬や警察犬など、仕事をするために訓練されてきた犬)と呼ばれる作業犬の一種で、「獣猟(じゅうりょう)」と「鳥猟(ちょうりょう)」に使われる犬を総称して猟犬と呼びます。
──なぜ狩猟に犬が使われるのでしょうか。
人間よりも身体能力や感覚器官が発達している野生動物を狩るために、人は大昔から犬の力を借りて来ました。
獣猟犬には、獲物を臭いで捜索すること、寝屋(寝床)へたどりついて獲物を起こすこと、逃げる獲物を追跡することなどを期待します。鳥猟犬には、トリを捜索して飛んで逃げないようにしたり、逆に飛び立たせたり、銃で撃ち落とした後の回収をさせたり……、といった具合です。日本の狩猟では「一犬、二足、三鉄砲」と言われ、犬が最も重要視されてきました。
──「けもの道」の誌面には猟犬の競技会の記事もありますね。競技会について教えてください。
競技会は猟犬の猟芸を競うイベントで、訓練所などで行われています。例えば「猪犬(ししいぬ)競技会」というのがありまして、イノシシが放されている訓練場内にイノシシ猟用の犬を入れ、捜索や吠え方などを評価するものです。
鳥猟犬に河川敷などでキジを捜索させたり、アメリカンビーグルにウサギを追わせたりするトライアル競技もあります。
可愛くて勇ましい! 猟犬の種類いろいろ
──代表的な猟犬といえば紀州犬をイメージします。
紀州犬は、イノシシやシカを狩る大物猟で使われる日本犬の一種です。イノシシ猟では、イノシシの捜索や寝屋での起こし、さらにそこから逃げようとするイノシシを足止めさせたり、グループ猟の場合には射手(獲物の通り道で待って鉄砲を撃つ人)が待っているところまでイノシシを追い出したりすることが役目です。
シカは基本的に早い段階で逃げ始めたり移動したりするので、シカ猟では追い出し役を担ってもらうことになります。
──イノシシ猟には紀州犬の他にどんな犬種が使われるのですか。
紀州犬以外にも四国犬や、地犬(じいぬ)と呼ばれる各地方で受け継がれて来た犬、その他にも猟師が独自に掛け合わせた犬が使われますし、洋犬種であるプロットハウンドなどもいます。
──アメリカンビーグルも獣猟犬なのですね。
アメリカンビーグルはノウサギ猟に使われます。ノウサギは山をぐるぐると大きな円を描くように逃げ回ります。そのため、足が短くて比較的追跡速度が遅く、一方で獲物に対する執着心が強くて鳴きながら追い続けるアメリカンビーグルは、ノウサギをゆっくり追わせるのに適しています。
──では、鳥猟犬にはどんな犬種がいるのでしょう。
代表的な鳥猟犬はポインターやセター種で、ヨーロッパ原産の犬です。
ポインターは広い猟野を駆け巡って地上にいるキジなどの鳥を捜索し、見つけたときに一旦停止して片足を上げるポーズなどをとり、獲物の居場所を主人に知らせる行動をします。その動作は「ポインティング」と呼ばれ、ポインターという犬種名の由来になっています。
同様に、セターも獲物の前で伏せの姿勢などをとって、獲物の居場所を主人に知らせます。この動作が「セッティング」と呼ばれ、セターという名前の由来になっています。
鳥猟犬には撃ち落とした獲物を回収する役目もあります。犬種によっては泳ぎも上手で、池に撃ち落としたカモも回収してくれます。
犬の能力を生かし、獣害対策に役立てる
──どんな犬でも猟犬になれるのではない、ということですか。
狩猟犬がルーツの犬もたくさんいますが、すべての犬が猟犬になれるわけではなく、猟犬としての性質がその犬にあるかどうかが重要です。また、犬だけで狩猟をするのではないので、狩猟者が犬にどんな役割を求めるかによって、犬を選ぶことになります。
そもそも現代社会で犬を飼うのですから、人間社会に慣れるようなしつけは欠かせませんし、その上で実猟(実際の狩猟)に必要な訓練を施します。狩猟者も、犬を使うためには知識と経験を積むことが大切です。
──犬も活躍の場を与えられて、成功して褒められたら喜ぶでしょうね。
猟犬でなくても、犬には獣の存在を察知する嗅覚がありますし、本能的に吠えて威嚇したり、追いかけたりして、獣を追い払うことがあります。昔、日本の飼い犬は放し飼いが多かったため、農村部ではイノシシやシカなどを集落から遠ざける役割も担っていたと思われます。
最近では、里山に出てきたサルを追い払う「モンキードッグ」のような獣害対策犬も登場してきています。
──「モンキードッグ」とは何ですか。初めて聞きました。
イノシシやシカと同様に、サルに農地を荒らされる被害が拡大しています。そのサルを追い払うための犬が「モンキードッグ」です。「モンキードッグ」は特殊な訓練を受けたものもいますし、集落の飼い犬から選抜されて呼び戻しの訓練を重ね、サルを見たら本能的に追いかけることを期待されたものもいます。各地方によって「モンキードッグ」の選抜方法や運用方法は異なります。
──なんと犬が獣害対策にもなるのですね。
犬の能力を活用して獣害対策に役立てるという取り組みは徐々に広がってきています。しかし、犬を放す以上は適切に管理ができないと、対策としての効果が出ないだけではなく、人畜に危害を及ぼす可能性もあるので、「安全」が最優先事項です。狂犬病予防などの衛生管理はもとより、しつけや呼び戻し訓練がしっかり行われた犬だけが獣害対策犬として活躍することになります。
犬を飼い、それを山野に放す場合にはルールに基づいた責任と覚悟が伴います。猟犬との狩猟も楽しいことばかりではありません。それでも、愛犬と猟果(りょうか=仕留めた獲物のこと)を得られる喜びは何事にも替え難く、感動とロマンにあふれているのです。
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