国家公務員から狩猟専門誌の編集長に
──「けもの道」の編集長になったきっかけは何ですか。
私は今年40歳なんですが、大学卒業後は警察庁に勤めていました。結婚して数年後、義父が代表を務める物流会社兼狩猟用具販売会社を手伝うことになりまして、警察庁を辞めました。妻の家系は、祖父が丹波篠山でイノシシを仕事として捕っていたという狩猟一家なんです。
狩猟の情報誌については、長く猟師の間で愛読されてきた「狩猟界」という雑誌が2009年に休刊となって以来、お客さんから「情報源が無くなって困っている」という声がありました。その後、義父から「うちで雑誌を立ち上げてみないか?」と言われたのがきっかけで、2013年に「けもの道」が誕生しました。そして同じ年に、自分自身も狩猟免許を取得して狩猟者になったんです。
──国家公務員を辞めて大転身されたのですね。
当初は自社出版で編集のノウハウもなく、独学で雑誌を作りました。記事の半分ぐらいは自分で取材をして、残り半分は外部に執筆を依頼して。徹夜も多くて大変でした。
今は三才ブックス(出版社)から出させてもらっていまして、狩猟系のライターさんも少しずつ増えてきて、持ち込み企画の記事もあります。
全国各地の狩猟を取材
──「けもの道」ではどんな取材をしているのでしょうか。
「けもの道」は狩猟に関する情報を幅広く網羅していますが、毎号必ず実猟(=実際の狩猟)に関する取材をしています。イノシシ猟、カモ猟、ウサギ猟やヌートリア猟など多岐にわたります。
──怖い思いをしたことは。
2017年度の猟期には、岩手県宮古市で熊猟を取材しました(2018年春号掲載)。現地で数人のベテラン熊猟師に着いて行ったのですが、私の対熊用の装備は熊スプレーのみで、置いていかれたら死ぬかもという恐怖を感じながら猟隊について行くのに必死でした。結果的に、取材中は熊に出合うことはなかったのですが、過酷な環境下で熊を追う姿には感銘を受けました。
──印象に残る取材があれば教えてください。
福島県・浪江町で有害鳥獣捕獲活動をしている方々に同行したことです(2017年秋号掲載)。東日本大震災での原発事故による避難指示が一部解除されたため、現状を取材しに行きました。少しずつ住人が戻り始めていますが、空き家や耕作放棄地にはイノシシやアライグマが住み着いて繁殖していました。
被災地での活動は体力的にも精神的にもつらいものだと思われますが、隊員たちの士気の高さに心を打たれました。
現役猟師としての佐茂さんの姿
──ご自身も趣味で狩猟をされているのですよね。
2014年から自分自身でも狩猟を始めました。師匠は義父で、丹波篠山でイノシシ猟をしています。家では紀州犬を2匹、アメリカンビーグルを1匹飼っていまして、出猟時には紀州犬の仁子(ニコ)を連れていきます。自分の犬で初めてイノシシを捕ったときの感動は忘れられません。獲物は家族で食べたり、愛犬のフードにしたり。解体は取材先や師匠から学んでいます。
──趣味で狩猟をしている方にとって、害獣駆除とジビエビジネスはどんな位置付けですか。
“狩猟”と“害獣駆除”と“ジビエビジネス”は、どれにも「捕獲」という行為が含まれていますが、それぞれ目的が違います。
趣味の“狩猟”というのは、「全ての過程をそれぞれに楽しむ」のが目的だと思っています。メディアでは鉄砲を撃つ瞬間ばかりがクローズアップされがちですが、趣味の狩猟者はそこに至る過程も含めて、全てを楽しんでいます。
それとは別に、“害獣駆除”は被害をもたらす野生動物を減らすために、“ジビエビジネス”では食用としての野生肉を確保するために「捕獲」をしていますので、趣味の“狩猟”とは目的が異なっています。
──狩猟を始めたい読者へメッセージをお願いします。
法令上のルールはありますが、狩猟は土地や地域に根付いたもの。「どこでも誰でも必ず捕れる」という猟法はなく、皆、創意工夫しながら獲物を求めて山に行き、出猟ごとに違うドラマがある。そこに面白さがあります。
狩猟をはじめる若い方は少しずつ増えていますが、楽しみを知らないまま、1回目の狩猟免許更新に当たる3年目までに辞めてしまう人も多いと聞きます。狩猟は身体的な負担だけでなく、手続き等にかかる時間や金銭的な負担も大きく、楽しくなければ当然続きません。狩猟の楽しい部分を「けもの道」の誌面から感じてもらえればうれしいですね。
「けもの道」狩猟の道を切り開く 狩猟人必読の専門誌
発売:春号Hunter’s sprinG/4月、秋号Hunter’s autumN/9月(年2回発行)
定価:本体1800円+税
発行:三才ブックス
AEGハンターズショップ
狩猟・有害鳥獣駆除・射撃・アウトドア用品販売
※実銃(部品含む)・実包・火薬類は取り扱っておりません
写真提供:株式会社AEG
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