日本古来の鴨肉、現在は貴重な「野生のマガモ肉」

「マガモ」のオス(奥)とメス(手前)
「カモ」と言われて、青い首の「マガモ」を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。鮮やかな青緑色の頭をしているのは「マガモ」のオスで、カモのカップルはつがいで行動することで知られています。
「マガモ」は、いつでもどこでも見られるわけではありません。シベリアなどで繁殖したものが、冬になって越冬のために日本に飛来する「冬の渡り鳥」だからです(本州の山地や北海道の一部では、繁殖して一年中生息しているという説もあります)。

鴨肉とネギが入った「鴨南蛮(かもなんばん)」はそば屋の定番
野生のマガモ肉は、明治維新以前から日本で食べられてきたと言われています。江戸時代、江戸の町でそば屋が普及しはじめ、メニューが多様化する中で生まれたのが「鴨南蛮」です。その頃はまだ鶏肉が出回っていなかったため、身近な存在だった鴨肉が使われたようです。ネギと相性が良いことから生まれたことわざ「カモがネギを背負って(しょって)くる」も有名ですね。
代表的な狩猟鳥獣でもある「マガモ」ですが、現在、一般には野生のマガモ肉はほとんど流通していません。新潟県の一部の地域で、米で餌付けをして無双網(むそうあみ)という網でマガモを捕獲する猟を行っている猟師もいます。東京の高級フランス料理店などで取り扱いがあり、食通をうならせているそうです。肉質はしっかりした赤身で弾力があり、かむほどに野趣豊かな味わいが楽しめるのだとか。ぜひ味わってみたいですね。
なんとアヒルはカモだった!? 「アヒルの肉」
「アヒル」は「マガモ」を食肉用に改良して家畜化した家禽(かきん)で、漢字で「家鴨」と書きます。つまり「アヒル」もカモの一種なのです。その歴史は3000年以上にも及び、中国やヨーロッパ各地に在来種があります。世界各国で、古くから「アヒルの肉」は食べられてきました。
「アヒルの肉」として日本人になじみ深いのは「北京ダック」ですよね。丸焼きにしたアヒルの皮をそぎ切って、ネギやキュウリと一緒に薄い皮に包んで食べる料理です。高級中華の代表格でもあります。
アヒルの卵を加工した「ピータン」も、中華料理店の定番です。黒いゼリーのような見た目と独特の香りが特徴的で、日本人にとっては好き嫌いの分かれる食材ではないでしょうか。中国や台湾では、スーパーで普通に売られているそうです。
現代のそば屋や精肉店で見るのは「アイガモ肉」
田んぼの除草を行う「アイガモ農法」でお馴染みの「アイガモ」は、「マガモ」と「アヒル」を交配させたトリです。英語では「マガモ」も「アヒル」も「アイガモ」も、すべてduck(ダック)。生物学上は3つとも区別の定義がなく、特に「アヒル」と「アイガモ」の境界線はあいまいなのだそう。
現在の日本で一般的に流通している「アイガモ肉」のほとんどは、食肉用にイギリスで品種改良されたチェリバレー種と言う品種です。軟らかくてクセがなく、おいしい出汁が出るために「鴨鍋」などに使われます。そば屋や精肉店で提供される「アイガモ肉」も、チェリバレー種が大部分を占めていると言われます。

「アイガモ肉」として提供されているチェリバレー種
ちなみにこのチェリバレー種ですが、見た目は白くて「アヒル」か「アイガモ」かはっきりと分かりません。そもそも生物学上は区別がないので、お肉として流通する場合に「アイガモ肉」と呼んでいるのです。
最後に ~猟師にとっての鴨肉とは~
「アヒル」と「アイガモ」は家禽として改良されたトリなので、飼っている方は野生化して生態系を乱さないように、しっかり管理することが必要です。もし、飲食店などで「野生のマガモ肉」に出会えたら、それはとっても貴重なお肉。心して味わってみてくださいね。
猟師さんの間では「カルガモ」など、色々な鴨肉が食べられています。野生のお肉ですから味の個体差が大きく、オスとメスでも違うのだとか。その日に出会ったお肉は、その日だけのもの。どうやって食べたらおいしいのか、食べ方を考えるのも猟師さんたちの楽しみだそうです。
参考:
「ジビエ・バイブル」(ナツメ社)
「aff(あふ)」2016年12月号(農林水産省)