新品種3選!
タキイ種苗は1835年から続く、日本の種苗会社の老舗。その品質の高さから、信頼の高い種苗メーカーの一つです。今回は、茨城県稲敷郡にある茨城研究農場を訪問し、営業部法人課の課長、中川泰宏(なかがわ・やすひろ)さんにお話を伺いました。
ファイトリッチシリーズのネバオクラ「ヘルシエ」

この時期(6月下旬)オクラが収穫できる沖縄県産が展示されていた
タキイ種苗が25年ほど前から取り組んでいるのが「ファイトリッチシリーズ」。おいしさと機能性成分価を高める改良が施された野菜の品種のシリーズです。
今回の研修会では、この春に発表されたばかりのオクラの「ヘルシエ」を展示。よく目にするオクラよりも色が薄く、角が丸い印象です。これは、白オクラ系の品種から改良したもので、肉質がやわらかく、試食してみると、歯ごたえよりも先に粘り気のある汁を感じました。
「オクラのネバネバの成分であるペクチンを強化した品種です。ペクチンは水溶性の食物繊維なので、整腸の効果が期待できると言われています」と中川さん。「露地栽培で作りやすく、差別化できる野菜を探している生産者の方に向いている品種です」とのこと。
ほしつぶコーン

限定販売のトウモロコシ。粒にハリがあっておいしそう
この時期まだ出回る量が少ないトウモロコシの展示も。播種から85日で収穫できるという「ほしつぶコーン」です。糖度が高いのが特徴とのことで、嚙んでみると、一粒一粒から甘い汁がはじけ出るようでした。「スイートコーンは品質の劣化が早いことで知られていますが、これは品種改良によってしなびにくくなりました」と中川さん。「店頭での“持ち”を良くしたいという生産者のニーズに応えたものです」
桃太郎ネクスト

新品種「桃太郎ネクスト」。右の人形はタキイ種苗のキャラクター“タキットくん”
トマトの品種といえば「桃太郎」が有名ですが、桃太郎にもいろいろな品種があります。今回発表されたのは「桃太郎ネクスト」。立派な大玉が展示されていました。
家庭菜園初心者が挑戦する定番の野菜、トマトですが、ミニトマトに比べ大玉トマトを育てるのは難しいそう。生産者が品質や大きさをそろえて安定的に供給できるように、さまざまな品種改良が施されてきました。「桃太郎ネクストは、味も良く肥大が良い、バランスのとれた品種。食味と収量を上げたい方におススメです」と中川さんも太鼓判を押す品種のようです。
生産性や作業効率を上げる品種改良
「品種改良の目的は、消費者、流通、生産者など、どの立場に立つかによって視点がさまざまです。消費者にとっての味や栄養、流通での形状や店持ち、生産者にとっての栽培性や生産性といった視点が大切です」と中川さんは語ります。その“栽培性”や“生産性”として重要なものに、病気への強さや作業効率の良さ、高収量などがあげられます。
単為結果の効果とは?

単為結果性のナス「PC筑陽」
おしべとめしべが受粉して実ができる、というのは小学校で習うことです。しかし、受粉はそんなに簡単なことではなく、生産者は虫を使ったり植物成長調整剤を使ったりして、着果作業(実を作らせる作業)を行います。
単為結果とは、受粉しなくても実ができること。受精が行われないので、種はできません。
今回、ナスの新品種「PC筑陽」が、画期的な単為結果の品種として開発されました。
ナスのヘタにはトゲがあり、生産者の収穫時のストレスは大変なもの。そこでまずは作業効率アップのために、まずはトゲのないナスの開発から始まりました。その後、着果作業の手間を省くために単為結果性のナスの開発に着手。いずれも生産者の労力を削減し、作業効率を上げることに一役買っています。
その他の品種改良の効果

埼玉県産の長ネギ「初夏一文字」
その他にも、機械での収穫に適した品種、一本一本が揃って秀品が多く箱詰めしやすいと人気の長ネギなど、収穫の効率や流通にも配慮した品種改良が日々行われています。
生産者のための品種改良
「例えば、ある野菜が一定期間ずっと店頭に並ぶのは、産地を変えているから、というのもありますが、更にその産地でも、時期ごとに品種を変えて栽培しているから、というのも大きいのです」(中川さん)
生産者は、出荷する先のスーパーや卸の要望に応えなくてはならない。一定量を一定期間出荷することが求められる生産者にとって、複数の品種で技術を駆使して品質を維持しながら生産することはとても重要なのです。
そんな時、アドバイスできるのが種苗会社です。海外ではすでに栽培をコンサルティングする職業が成り立つほど、生産者にとって品種選択や品種ごとの栽培方法を知ることはとても重要とのこと。
「新規就農する方にとっても、品種の選択はとても大切です。自分がどんな農家になるか、というコンセプトをしっかり持っていると、それに合った品種選びができます」(中川さん)
収量を上げて安定的に大量出荷を目指すのか、数は少なくても希少性や差別化で勝負するのか、選択はいろいろです。目的に合った品種はどれなのか、品種の細かな情報やデータをもつ種苗会社のアドバイスをもとに選んでみるのも良いかもしれません。
生産者の日々の農作業に起こる小さな不便や悩みを解決するために品種改良を行う種苗会社の存在は、一人一人の農家に寄り添うものでした。