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生産者の試み

100年続く醤油づくり 毎日使うものだから安心の素材で

100年続く醤油づくり 毎日使うものだから安心の素材で

最終更新日:2018年07月13日

島根県の西部、石見(いわみ)地方の益田という場所で、大正6(1917)年から100年醤油を作り続ける丸新醤油醸造元。現在ほとんどのメーカーの醤油の原料である大豆や小麦は外国産ですが、ここでは大豆と小麦を自家栽培していることが大きな特徴です。後継ぎとして醤油づくりに取り組む大賀香榮(おおが・かえ)さんは、「口に入れるものだから、自分たちが心から薦められるものだけを作りたい」と話します。100年続く醤油づくりへのこだわりと、今後に込めた思いを伺いました。

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自分たちが納得のできる品質になるまで熟成させる

農業

──丸新醤油醸造元のこだわりを教えてください。

まず、醤油の原料となる大豆と小麦を、自分たちで栽培しています。国内メーカーでも、醤油の原料となる大豆と小麦はほとんどが外国産です。小麦は全量自社製、年により生産量の変化が大きい大豆は、すべての原料を作れているわけではありませんが、「濃口醤油本醸造 隠し醤(ひしお)」など、いくつかの製品は自家栽培の大豆と小麦にこだわっています。

原料を自分たちで作ることで、自分たちが納得する安全性の確保と醤油醸造に適した品種の育成ができます。例えば、豆腐を作るのであれば、粒が大きくて潰れやすい大豆がいいと言われますが、醤油の場合は火が通っても豆の粒がしっかり残るような種類が望ましいです。

また、熟成期間が長いことも特徴です。大手のメーカーでは、温度の調整をして強制的に発酵させる“強制発酵”で製造するため、約4~6カ月で出荷となりますが、私たちは自然に発酵させる“天然醸造”のため、最短で3年、長いものでは5年ほど熟成期間を設けています。天然醸造で醤油を作るメーカーでも、一般的には1~3年の熟成期間で出荷することが多いのですが、私たちは年によって変わる品質や味の差をなくすために、熟成期間を長く設けています。

同じ年に、同じ作り方をした醤油でも、タンクごとに発酵の速度には差が出ます。ワインなどは、熟成期間や個体差による味の違いが楽しみになりますが、醤油は調味料で、味のベースになるものなので、品質や味に変化があってはいけないと考えています。最も製品に適した水準に達したものから出荷する為、熟成期間は3年から5年と幅を持たせているのです。

例え分析値が同じ塩分濃度でも、熟成期間によって実際に人が食べた時には味の違いを感じるので、熟成は本当に大切な時間です。私たちは「塩角(しおかど)」と呼んでいますが、塩のしょっぱさの角が取れて味が丸みを帯び、旨みと香り全体のバランスが整ったところでやっと出荷できる状態となります。

──こだわって作られた醤油の味は、どんな特徴がありますか。

醤油の味は地域ごとで大きく異なり、島根の醤油は、関東の醤油と比較すると甘めの味です。地元ではこの昔ながらの少し甘めの醤油が主流ですが、県外から多くご注文いただいている「隠し醤」は、甘さのない本醸造タイプです。塩分濃度は一般的な醤油と変わりませんが、熟成期間が長いので、濃厚で香りが良いとご好評をいただいております。炊きあがったご飯に醤油を数滴落として混ぜ、味を調えたら、塩を使わずにおにぎりにするだけで、醤油の香りとおいしさが伝わると思います。

自分が安心して薦められるものをつくる

自社の小麦畑にて。丸新醤油醸造元代表の大賀進(すすむ)さん

──なぜ原料まで自分たちで作っているのでしょうか。

私たちは大正6年の創業から5代続く醤油屋で、昔は輸入原料を購入していました。しかし、1990年代の終わり頃、父である現社長が遺伝子組み換え食品に関する報道を見て、原料を自家栽培すると決めました。技術が進歩して便利になるのはいいことだと思いますが、安全な食品であると自分自身が納得できないものを、食べ物に使いたくないと思ったそうです。

現段階では人体に悪い影響がなく、国が安全を保証していますが、食品は世代を超えてから初めて影響が出る場合もあります。それがわからない状態では、安心して食べられませんし、自分が食べたくないと思うものを製品に使うわけにはいきません。だから、少なくとも自分たちが見える範囲で、自分たちが安全だと思うものだけを使おうと決めました。

最初は、無農薬で作られた大豆や小麦を買おうとしたのですが、当時の国産の大豆・小麦の国内自給率は5%以下という状況でしたので、高価なものでした。どうせコストがかかるなら自分たちで作ろうと思ったのが自家栽培のきっかけです。それで、醤油蔵の周りにあった個人の水田を、大豆と小麦の畑にしていきました。

無農薬で作っているので、春から夏にかけては雑草との戦いです。年に数回は蔵のスタッフも総出で草刈りにあたります。また原料栽培は、頑張ったからといって良い結果が出るとは限りません。天候や病害虫・時にはイノシシ被害で、年によって収量にかなりの差が出てしまうこともあります。コストだけで比べると、輸入原料の7倍から8倍もかかっています。

大変なことばかりではありますが、直接口に入れるものだから、妥協したくはありません。いくらでも安い原料が手に入る世の中ですが、自分が安心して人に薦められるものにこだわって、自家栽培を続けています。

親から子へ、子から孫へと食べ継がれる醤油づくりを

農業

──今後の展望を教えてください。

2017年に創業100年を迎え、「親から子へ、子から孫へと安心して食べ継がれる醤油づくりを」と思っています。この土地と水で作られた作物を使い、この地で醤油を醸し、わたくし共が考える最高の安全と味わいを、次の代、その次の代の皆様にお届けできたらと思います。

自社で原料栽培を行う中で、農家さんにとってどんどん厳しくなっていく現状をつぶさに感じます。高齢化の中で耕作放棄地も多い中、今後、私たちが適正価格で大豆や小麦を買い取るような仕組みを少しでも考えられたらと思っています。

消費者の皆様には、私たちの醤油を通して、食べることに向き合うきっかけの一助になれたらと考えています。世の中では収入格差が広がった分、消費格差も広がっていると感じます。丁寧に作られたものはお金を持つ人だけが手にして、そうでない人は大量生産の品を手にする状況です。

大量生産で作られるものを否定するわけではありません。ただ、安く販売するためには、やはりその値段でも利益が出るよう作られています。人間の身体は頭のてっぺんから足の爪の先まで自分が食べた物でできています。一日で口にする食品の中で、醤油は微々たるものですが、少なくとも自分たちが造っているものは自信をもってお届けしたいと思います。皆様が自分の家族に食べさせたいと思える安心の醤油を、これからも心を込めて作り続けていきたいです。

丸新醤油醸造元

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