SNSは『既存の壁を超えた交流ができる存在』
「台風でネギが倒されてほとんど曲がってしまいました。皆さんはどんな対策をしていますか?」。とある農家の悩みがSNS「Facebook」に投稿されると、1時間も経たないうちに、続々とメンバーからコメントが返信されました。「網をかけるといいです」「○○という資材がおすすめです」。具体的な回答に対して、投稿者が感謝の言葉を投稿するまでに数時間、ほぼリアルタイムでのコミュニケーションが展開されました。
やり取りの舞台は、全国の生産者ら約7,200人が意見を交換するコミュニティ「FB農業者倶楽部」。「Facebook」の「非公開グループ」機能を使い、利用者が限定されたクローズドな空間で活発な交信をしています。
創設者は宮崎県の農家、上水広志さん。「新しい物好きなのと、“実名でのやり取り”を魅力に感じ、Facebookが日本で流行り始めた頃から個人的に使っていました。あるとき、コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之さんの著書『明日のコミュニケーション』を読み、SNSは『既存の壁を越えた交流ができる存在』だと知り、より積極的に利用するようになりました」と、振り返ります。
市外の生産者やラジオパーソナリティなど、日ごろ接点を持たない人とも、年齢や職種の壁を越えて活発に交流しました。全国の生産者と交流できるFacebookページを自分たちで作ろうと2012年7月、友人と2人で「FB農業者倶楽部」を設立しました。
設立当初は上水さんと友人だけでしたが、県内の生産者を中心にメンバーは1カ月で200人まで増え、1年で2,000人に。6年目の現在は、7,000人を超えました。上水さんによると、「全体の70~80%が生産者。メーカーなど農業関連企業、行政、飲食店の関係者なども参加しています」。Facebookは実名登録が原則のため、安心して産地を越えた人脈を増やすことができます。九州のみならず、四国や北海道などで「オフ会」を定期的に開催しています。上水さん自身も「交流の輪が増え、刺激になっている」と喜びます。
現在ページを運営しているのは、日本農業倶楽部のメンバーら22人。「人数が増えてしまうと、内容が雑になったりつまらなくなったりしてしまう恐れがあるが、元々のメンバーが出て行ってしまわないように、ある程度のルールを作るなど管理はするようにしています」と、上水さん。テーマから逸脱したり不適切な内容でないかを定期的に確認し、規模と質の両立を支えています。上水さんは、「SNSではみんな友達。フラットな立場で、農業に関連することならどんどん投稿して欲しい」と付け加え、積極的な交流を呼び掛けています。
「一人じゃない」-新規就農経験者として伝えたいこと
病害虫対策や新品種のクチコミなど、農業者同士の実利的な情報交換の投稿も目立つFBページですが、「新規就農者の応援の場」という性格も持っています。
「就農したての人、特に新規就農者は慣れない農作業に追われて、時間・経済的に余裕がなく孤独感に襲われがち。SNSはバーチャルな空間ではありますが、写真や動画を介して相手の見えるやり取りができるので、気持ちのはけ口にしてもらえれば」と、上水さんは話します。FB農業者倶楽部を通じて感じて欲しいことは、「自分は一人じゃないということ」と、力強く答えてくれました。
上水さん自身も、2005年に、地元・宮崎のホテルマンから新規就農しました。「いつかは起業したい」という夢を持っており、農業は実現のための一つの選択肢だったといいます。実家は農家でしたが、父親は既に屋号を畳んでいました。補助金を受けられる認定農業者申請資格の年齢上限に近づいていたこともあり、「今しかない」と就農を決意。
現在は酒造メーカーの契約栽培用のサツマイモや、地元都城の名産であるラッキョ、ゴボウやカボチャ、ニンジンなどを育てていますが、当初は育てる作物の選定に悩むなど様々な苦労がありました。「農業は“一年一作”だし、リプレイできない。これから始める人には、『同じ失敗を繰り返して欲しくない』という思いがあります」と、自らを振り返りながら話します。
「受け売りの言葉ですが、『判断力の差は情報量の差、情報量の差は人脈の差』です。同じ悩みや疑問を、産地を越えて共有できる場としてFB農業者倶楽部を使ってもらえれば」と、上水さんは期待します。
災害時も情報収集―目指すは“農業シンクタンク”
設立6周年を迎えたFB農業者倶楽部の目標は、メンバーを1万人に増やし、「農業シンクタンク」として情報の蓄積や発信、共有をより広く行っていくことだといいます。
2014年の関東甲信地方の大雪時には、メンバーが投稿した被害状況をまとめ、農林水産省へ提言しました。7月に西日本を襲った台風や豪雨の際は、動画のライブ配信機能を使い、上水さんをはじめ各メンバーが自分の圃場の現状などを共有。被害状況や、必要としている物・事柄をアンケートとして集計し、現地の声として7月中旬に農水省へ持ち込む予定です。「SNSのリアルタイム性は様々な可能性がある」と、上水さんは“農業者主体の発信”に期待を込めます。
一方で、ホームのような温かさは保ち続けたいといいます。「メンバーは、いいことも悪いことも包み隠さず、皆さん親切に教えてくれます。有益な情報を交換したり励まし合ったりして、相乗効果を生みつつ“ほっとできる場”にできたら」と、上水さん。近くに相談できる人が少ない、産地を越えた交流を持ちたいという方など、全ての農家にとって“拠り所”となり得る場です。志を同じくする仲間作りのため、その門を叩いてみてはいかがでしょうか。
※入会は承認制。農業に関係する立場の人が、顔写真・似顔絵などをプロフィール写真にしたFacebookアカウントから申請、意気込みなどを入力する。詳細は、下記ページより確認。
FB農業者倶楽部
【関連記事】
Facebookで売上が218%に「沖縄かんな農園の事例」【農家のSNS活用法vol.1】